3話 離れたくなくて
※男性同士の恋愛を含みます。
苦手な方はご注意下さい。
店の前で、栄斗が壁に寄りかかって待っているのが見える。
(…普通に、普通に……。)
すると、栄斗が気づく。
「慧斗!」
「おう。ごめん、待たせた?」
「いや、全然…入ろうか。」
少しぎこちないのは栄斗も一緒だった。
昔話に花が咲き、いつしかモヤモヤしていたものも忘れた頃だった…。
「もうこんな時間か…。」
栄斗が時計を見る。
「早いな…。やっぱ栄斗と居ると楽しいわ!誘ってくれてありがとな。」
「うん。俺も、楽しかった…。」
お会計を済ませた二人は、無言で店を出る。
「…あのさ…。」
「ん?」
呼び止める栄斗に、慧斗は振り向く。
「……俺ん家来ない?」
思ってなかった答えに、慧斗は目を見開いた。
「え、あ……栄斗は明日、大学ないの?」
「あるけど、午後から。慧斗は?」
栄斗は慧斗の反応を伺うように、目線だけ向ける。
「俺は……大丈夫。」
慧斗は、朝から授業がある事は飲み込み、栄斗を選んだ。
栄斗のアパートまでは、ひと駅。
二人は歩く時間を惜しんで、タクシーを捕まえた。
「ここのアパートなんですけど。」
スマホのマップを出して、栄斗が説明をする。
その間も慧斗の心臓はうるさかった。
タクシーが走り出して少しすると、窓に雨粒が落ちる。
「雨…?」
「ほんとだ。」
二人がそんな話をしていると、座席の上で、小指同士が当たる。
「お客さん達、良かったねー。雨降ると、あの辺タクシー中々捕まらないからー。」
ビクリとする二人。そんな事は知らない運転手が言った。
「そうなんですか。良かったな…。」
「だな。」
冷静を装う二人だったが――座席の上では、小指同士がそっと結ばれていた。
タクシーから降り、アパートへ入ると、慧斗が片付けたはずの部屋が、もう散らかっていた。
「栄斗……散らかるの早くない?」
「ごめん、ごめん。その辺座って。
…ビールしかないけど飲む?」
「あぁ…。」
慧斗が座ると、栄斗はビールを二本、テーブルの上に置いた手がそのまま止まる。
「慧斗…俺…覚えてるよ。
…お前が泊まった夜の事…。」
「っ!」
その言葉で、否が応でも思い出される夜の事。慧斗は栄斗の横顔から目が離せない。
「今度は、酔ったいきおいじゃ、ないから…。」
そう言うと、栄斗は顔を近づけてくる。
「ちょ、待って…。」
「嫌なら、突き飛ばして…。」
栄斗の顔は少し寂しそうだった。
慧斗は自分と同じ気持ちなのかが不安だったのに、勘違いされたくなくて、目を閉じた。
軽く触れる口付けから、深くなる。
「ん…」
「ふあっ。」
どちらの声か息か、分からないくらい溶け合う。
(ダメだ、これ…頭がぼーっとなる…。)
慧斗は思わず栄斗の胸を叩いた。
「…嫌だった?」
「違っ!酸欠…。」
「ハハハ。慧斗、運動しないもんな。」
「うるせ…。」
見上げると、栄斗の唇が濡れているのを見て、顔を赤くした。
「ほら、飲め。」
栄斗は笑いながら、開けたビールを慧斗に渡す。
「……ありがと。」
誤魔化すように缶へ口を付けると、冷たさが火照った身体を落ち着かせた。
「顔、赤い。」
栄斗がひょこっと覗き込むように、慧斗の顔を見る。
「誰のせいだよ…。」
「キスしただけで?」
栄斗は楽しそうに笑って、ソファへ深く座り直した。
「うるせぇ…。」
慧斗は腕で隠しながら、顔を背けた。
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少し遅い朝、栄斗が目覚めると、慧斗が台所に居る。
「…慧斗?」
「あ、起こした?腹減ったから適当に作った。」
テーブルにコトっと置かれたお皿の上には、フレンチトーストが乗せられていた。
「牛乳ないから、染み込んでないけど…。」
栄斗の部屋なのに、慧斗が申し訳なさそうに言った。
「全然…充分だよ。
慧斗は料理上手いよな〜」
「うち、共働きだからな。よくナポリタン作ったな!」
「それしか作れないって言ってたな!
最初はケチャップの味しかしなかったけど、なんか段々上手くなってたな…。」
どこか懐かしそうな顔で話す栄斗。
「また作るよ!味は進化してないけど。」
「まじで!?やった!」
食べ終わり、片付ける栄斗の後ろから、慧斗が話しかける。
「栄斗が出る時、俺も帰るよ。
夕方からバイトになった。」
「そっか…。本屋だっけ?」
「そう。」
離れ難い雰囲気の中、二人は部屋を出た。
つづく。




