№3家族と
そうね。
それから10日が経った。
環は日に日に眠り続ける日が増えていた。
絵美は静かに眠る娘の手をとった。
「なんで、この子の手は冷たいのだろう・・・」
思わずそう呟き、
「ごめんね」
と涙を流す。
すると、ぱちり。
環の目が開く。
「お母さん」
じっと絵美の目を環の瞳が見ている。
赤い目の母は服の袖で目をこすり、
「おはよう環」
「お母さん」
「なあに」
「私幸せだよ」
「・・・・・・」
「しあわせだからね」
「・・・・・・」
「ね」
「うん」
すん。
絵美は思いやる優しい娘にいけまいと鼻を啜った。
「おはよう。お母さん、私、朝ご飯が食べたい」
環は笑顔へと変わる。
「うん。用意するわね」
絵美は食卓へと戻って行った。
「・・・・・・」
環はゆっくりと半身を起す。
「もうちょっとだけ・・・もうちょっとだけね」
なまりのように重い自分の身体にそう呟いて言い聞かせ、のそのそと立ち上がりパジャマのまま自分の部屋をでた。
環はリビングへと向かう。
昼過ぎのおそい朝食であった。
賑やかな声が耳に聞えた。
にもかかわらず、父、母、兄が食卓を囲んでくれていた。
彼女の胸が嬉しさと切なさでキュッとなる。
すん。
母と同様に、思わず涙腺の緩んだ目尻をこすり、鼻をすすった。
それからゆっくりと深呼吸して笑顔をつくって扉を開けた。
「おはよう!」
環は元気に挨拶をする。
「おはよう!」
家族のいつもの返事がかえってくる。
そしていつもの食事光景・・・。
環はつくづく思った。
(アイドルをしていてよかった・・・だって、嬉しくて泣きたいのに笑顔ができるもん)
家族に心配をかけたくないと彼女は明るく振る舞った。
「お父さん、醤油とって」
絵美は手を差し出す。
「あいよ」
と俊二は醤油さしを手渡す。
「お兄ちゃん。職安行きなさいよ」
ちらりと目で息子を制し小言がはじまる。
「我、戦士の休息也」
息子はどこ吹く風で答える。
「いつまで休息してるのよ。あなた戦士じゃないでしょ」
「ぐっ!」
「はははは」
母と兄のやりとりに環は思わず本気で笑ってしまう。
「環。おかわりは?」
「大丈夫」
「そう」
茶碗にスプーン一杯分の御飯を口に運び、彼女は手を合わせた。
「ごちそう様」
「はい。お粗末様でした」
食事が終わり、
「さてと、環。兄と久しぶりにテレビゲームやらないか」
「・・・やらいでか」
和志はミニ・スーパーファミコンをテレビに接続する。
「パネポン(パ〇ルDEポン)で勝負だっっ!」
「昔よくやったね~」
「兄の連勝だったがな」
「(当時)お兄ちゃん小学生、私は幼稚園だったでしょ」
「ふふふ、そんなのを言い訳にするのか」
「いいわ。今こそ和志兄ィをこてんぱんにしてみせるわ」
「やれるものなら、やってみろよ」
兄妹は懐かしのパズルゲームに興じた。
勝敗は5勝5敗。
少しだけ疲れのみえる環に気づいた兄は、
「よし。次で決着だ」
「望ところよ」
兄は妹に分からないように接戦にみせかけてわざと負けた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「わざと・・・でしょ・・・ありがとう」
「ん?うん」
続いて父俊二が、
「環、ちょっと外へ出ないか」
「いいね」
「どこ行く」
「じゃあ、駄菓子屋っ!」
「いいね」
と、今度は父。
二人は立ち上がろうとするが、環がよろけ絵美が支える。
「いて」
俊二はそれを見て自分も躓くと苦笑い、
「今日はやめとくか、みんなでトランプしよ」
「・・・うん」
そして明石家ではトランプ大会がはじまった。
ババ抜き、豚の尻尾、七ならべ、ブラックジャック・・・。
あの頃に戻ったような時が流れた。
そうねぇ。




