~三月~№1懐かしい夢音の無い夢
夢は・・・。
ここは環の夢の中。
碧は制服を着替え高校へと向かう。
(よりによって、卒業式にでてこなくても)
彼は環を恨めしく思ったが、すぐに首を振り、
(ごめん。ごめん)
と、心の中で呟いた。
そんな彼の姿を彼女はくすりと笑う。
下駄箱を開けると、手紙が入っていた。
「アオちゃん、今日、へそくり山で待っています」
(そうそうこれ、お兄ちゃんが手配してくれたんだよね)
環は夢で呟く。
「これは・・・」
この高校では、まことしやかにささやかれている噂がある。
卒業式の日にへそくり山で告白した二人は永遠に結ばれるという伝説があるのだ。
(ときメモかよ)
碧は苦笑し、誰もいないのを見計らって手紙をポケットの中に押し込む。
卒業式もつつがなく終り、碧は友人たちと帰宅する。
途中、やはり気になり、へそくり山へと走った。
彼は思春期ど真ん中、彼女は欲しいものである。
小高い丘の上で環は待っている。
(なんか、ドキドキするね)
「・・・環」
「アオちゃん」
まぎれもなく環であった。
すっかり成長した彼女は、可愛らしくも美しくそして儚くもあった。
碧はいやいやと首を振った。
「・・・いや、お前は死んだはず」
「ふふふ、私ここにいるよ、生きてるよ」
「じゃあ、なんで、今まで・・・」
「うん、お母さんが、もうちょっと待ってねって・・・」
「環、お前、本当に環なのか」
「うん。私は環だよ」
「そっか、そっか・・・よかった」
へなへなと腰が砕けその場に座り込む、碧の目にはうっすら涙が滲む。
「ずっと、ずっと、心配したんだぞ」
「うん。ごめん」
「夢にずっとあの時の事が・・・ずっと」
「うん。うん」
環はそっと碧の頭を撫でた。
(アオちゃん、あたたかかったな)
あたたかい手の感触に彼女が生きていると彼は実感した。
感動の再会。
だが、それまで曇天だった空が、急に暗くなると強い雨が降り出した。
「いけない」
環は大木の裏に身を隠した。
「・・・どうしたんだよ」
「アオちゃん。来ないで」
「なんで」
「いいから」
人という生き物は、いけないと言われたら、それをやってしまう。
碧は奇跡の再会で我を忘れてしまっていた。
ぎゅっと彼女を抱きしめ、
(こらっ、アオちゃん暴走しすぎ)
「環」
彼は喜びを嚙みしめる。
「嫌っ!」
環に思わぬ拒絶され、両手で押されてしまい、よろける彼はその姿を見てしまった。
彼女の肌は溶け、骨も露わになった醜い姿と化していた。
碧はそのまま卒倒した。
(アオちゃん・・・あのあと、大変だったんだから、私は悲しくてずっと泣いていたんだよ。お父さん、お母さんが迎えに来て、お兄ちゃんがアオちゃんをおぶって帰ったんだよね)
あれは夢だったのか・・・。
家のベッドで目を覚ました彼は、もやもやとした中、春休みを過ごした。
それは4月1日のこと。
環はふらりと碧の家を訪ねる。
「環っ!」
夢か現かと驚く彼に、
「ちょっと話をしない」
微笑みを浮かべる彼女、
「・・・ああ」
2人は外にでて散歩をする。
碧は環に気づかれないように、まじまじと彼女の姿をみた。
それは再会した時と変わらぬ、美しい彼女だった。
(ちょっと戻るのに時間かかったもんなあ)
しみじみそう呟く。
「・・・あのさ」
「ね、びっくりした?」
環は碧の顔に自分の顔を近づけ笑う。
「・・・なにが」
「なにがって、私の姿・・・」
「・・・ああ」
「あれね」
「うん」
「嘘」
「嘘?」
「だって、今日、何の日?」
「何の日って、4月1日・・・」
「そう、エイプリルフールよね。だから、あれは嘘なの」
(私なりに一生懸命考えたんだけど・・・こじつけよね)
「そっかあ、脅かすなよ」
(アオちゃん、ありがと)
「ごめん、ごめん」
環の嘘に半信半疑だが、その言葉を信じようとする碧。
春空の下、二人は並んでゆっくりと歩く。
(あ)
彼女は彼に気づかれないよう、そっと両腕を後ろに回し、左腕をおさえた。
ポロリ。
彼女の隠した腕の肌が崩れ落ちた。
「楽しいね」
環は儚げに笑い、健気に振る舞う。 (やっとまた会えたんだもん)
ふふふ、夢みる環は再会の日々を笑った。
ぱちりと目を覚すと、窓の外から雨音がきこえる。
環はぼんやりと辺りを見渡して、再び眠りについた。
ちぇんじまいらいふのステージは最高潮に盛りあがっていた。
スポットライトを浴び、可愛く美しくも凛々しく気高いアイドルたちの姿が大きく見える。
照らすその場と相反する暗闇の観客席からは、無数のサイリウムが揺れている。
息を弾ませ彼女たちは歌い踊り最高のパフォーマンスを見せる。
環はマイク持つ右手を観客席に向け高々にあげる。
「さぁ、もっと、もっといくよ~!」
その刹那、音が止まった。
視覚はモノクロとなり聴覚が消えた。
(もう少しだけ・・・)
彼女は切に願う。
(・・・お願い)
だが何も聞こえない。
大勢の観衆。
竦む足。
環はへなへなと腰砕けにその場に座りこんだ。
泣いた悔しくてやるせなくて・・・。
みんなが駆け寄る。
だけど、何も聞こえない。
視界までも薄れていく。
(お願い・・・神様、もう少しだけ)
夢の中の環はフンと笑った。
(もういいの。いいのよ。楽しい事だけ楽しもう)
彼女が思った時、再び音が奏でだした。
「ほらね」
小さく呟いた。
そして、あの時と同じように夢の中で存分に歌い踊った。
変えられる。




