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No.4お忍び瀬戸内トラベル1

禁断の愛の逃避行。


 空が白んできた。

 環と碧は今、車中にいる。

 夜中の高速をぶっ飛ばして、徳山東インターを降りた。



 下松の名物牛テールラーメンを食べたいが、いかんせん時刻はまだ5時を回ったところだ。

 ハンドルを持つマネージャーの倉野は電子タバコを片手にとるが、助手席で寝息をたてているアイドルを見てポケットに戻した。

 すーすー。

 すっかり安心して気持ちよさそうに寝いきをたてている。

「ふう。お気楽だな」

 倉野はそう呟き胸ポケットをまさぐって、サングラスを取り出すと眩く明かりのつきはじめた世界を落ち着かせる。

 車はゆっくりと南下して海ぞいを走った。

 免許をとって間もない彼は、不慣れな運転に不意に眠気が襲いかかった。

「ふぁ~」

 欠伸をし、ナビに従い周防大島の海岸線へと進む。

 途中、眺めの良い道の駅で休憩をとった。


「・・・・・・」

 倉野はジャケットを脱ぐと、寝ている彼女にそっと被せ外へ出た。

 それから一人ゆっくりと歩き海辺へ立つ。

 瀬戸内海の海がキラキラと輝き、穏やかに波だっている。

 彼は電子タバコを吸った。

「思えば遠くに来たもんだ」

 と苦笑する。

「はあ」

 溜息が青空へと溶ける。

 彼はしばらく海を眺め続けると、

「よし」

 缶コーヒーとオレンジジュースを買って車へと戻った。

 ばたむ。

 寝ている彼女を気遣い、優しくドアを閉めた。  

 助手席の缶ホルダーにオレンジジュースを置き、倉野は外で開けた缶コーヒーを一口啜った。

「どうしたもんかな」

 と、ひとり首を竦めた。


 プッシュスタートボタンを押しエンジンをかける振動で車が揺れる。

「ん・・・んん~」

 ぱっ。

 彼女の目が開いた。

「おはよう環」

 倉野はおはようの挨拶をした。

「おはよう倉野マネ。ここは?」

「お姫様の申し出通り。遠いところだよ」 「・・・そう。ありがと」

「どういたしまして」

「えっ!めっちゃ景色いいじゃん」

「周防大島だよ」

「瀬戸内海のところ?」

「そう」

「愛の逃亡劇っ。おまかせにしたけど、センスあるじゃん」

「どういたしまして」

「ちょっと外見てくる」

「ああ」

 環は狂喜して外へと飛び出して行った。


「ごっこが過ぎるだろ」

 碧はひとり車中で呟いた。

 環はさっきの彼と同じように海を眺めていた。   

 ふさっ。

 彼は彼女に頭からジャケットを被せるとサングラスを渡した。

「ちょ」 驚く環に、

「姫様、初志貫徹ならば身バレは厳禁だぜ」

 碧の言葉に、

「そうだね」

 彼女は冷静にそう返し、サングラスをかけると車へと乗り込んだ。

「8時か・・・ホテルのチェックインまで、ずいぶん時間があり過ぎるな」

「そうね」

「岩国とか宮島の方に行くか?」

「うーん」

「キツいか」

「・・・まあ、少し。それにここ綺麗だし」

「だな」

「・・・そうだ。ここ景色いいから、島を一周しない。まあまあ時間潰れるでしょ」

「なるほど」

 2人はそう決定し車は海岸線を進む。


  環は助手席の窓を開けて潮の匂いを嗅いだ。 ごそごそと彼女はカバンを取り出し、パーカーを着て頭にフードを被る。

「これでよし」

「見事な変装で・・・」

「でしょ」

 碧のツッコミにも全く気にすることなく、環は車窓から海を眺めた。


 一月の凛として澄んだ日差しの中、吹き抜ける風は肌寒いが心地よくもある。

 逆方向の山手には段々畑に柑橘系の背の低い樹が青々と葉を茂らせていた。

「いい天気だね」

「そうだな」

「逃避行って暇だね」

「・・・そんなもんだろ」

 他愛のない会話が二人にとって、心地のよい時間となる。

 環は笑いながらオレンジジュースを飲み干した。


 昼食は海辺のキッチンカーを見つけハンバーガーを注文する。

 テイクアウトし、海辺に降りて東屋で食事する。 「ちょっと寒いわね」

 ぶるぶると身体を震わせ環は言った。

「冬だからな・・・ほれ」

 碧は紙袋から彼女が注文したフィッシュバーガーとホットタピオカミルクティーを手渡し、テーブルにフライドポテトを置く。

「ありがと・・・あったまる〜」

 彼女は両手でホットミルクティーを握りしめる。

「ああ」

 彼は素っ気なく返事をすると、テリヤキバーガーを頬張り、アイスコーヒーで流し込んだ。


「ちょっと食べるの早いよ」

「俺はこれが普通なの」

「そう」

「そ」

「そんなんじゃ、女の子に嫌われるよ」

「別にいいよ。彼女は今ここにいるし」

「へ・・・うん、そうだね・・・」

「ん?」

「なんでもない。なんでもないんだよ」

 環は顔を赤らめて碧から視線を逸らした。


 ふたりは穏やかな海を見た。

「なんか落ち着く」

「そうか」

「来てよかったよ」

「そあか」

 食事を済ませ、砂浜を散策した。


 車に乗り込み、碧は腕時計を見る。

「14時か」

「チェックインまで時間があるね」

「ああ」

「どっか、ジェラート屋さんない?」

「寒くないか?」

「スイーツは別腹だもん」

「・・・・・・さよけ」

 彼はスマホを取り出し、店を検索してみる。 「あった?」

「ちょい待ち・・・ああ、こっから5㎞先にあるな」

「じゃいこ」

「合点承知之介」

「なにそれ」

 車を走らせジェラート屋に着いたのはいいが、その店はすでに潰れていた。

 店はあるものの看板も外され、中はカーテンで締めきられていた。

「・・・これだから、ネット情報はあてにならない」

「だね」

「どうする?」

「ちょっと早いけどホテルに行こうよ」

「ブ・ラジャー」

「・・・寒っ」



ごっこ(笑)。

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