No.5お忍び瀬戸内トラベル2
お忍び。
ホテルは海辺の小高い丘にあるこじゃれたリゾート風の建物だった。
ちょっとだけ離れた岬にはチャペルがある。
無事にチェックインを済ませ、二人はホテルのプロムナードを歩く。
上が吹き抜けになっており、明るい。
「おーなかなかいいね」
「お気に召しましたか。姫」
「おお、余は満足じゃぞ」
「お前、それ殿様やん」
「てへ」
ふたりはスイートルームに入るとベッドに倒れ込んで寝た。
19時。
フロントから夕食の知らせが入る。
「はい、はい・・・あ、すません。今から行きます・・・おい、環」
碧は環の背中を揺さぶる。
「ん、ん~、もうちょっと~」
「起きろ。メシだ。30分の遅刻だ」
「へ」
「爆睡していたんだよ」
「それはしまったなり」
「だな」
二人は寝ぼけ眼をこすりながら、レストランへと向かう。
豪華なディナー料理が並ぶ。
「名物っ。みかん鍋とな」
「高そうな牛肉もありますぜ。旦那」
「そちも好きモノよの・・・やめぃ・・・あ、生ビール2つお願いします」
側でしっかり恥ずかしい会話を聴いていたスタッフに、倉野は恥ずかしそうにお願いした。
「お、気が利くね」
「つーか、めっちゃ恥ずかしかったわ」
「まあまあ」
「・・・こやつ」
二人はビールで乾杯をし、美味しい料理に舌鼓をうった。
その後、
「ジャーマネ、温泉の前に卓球しよ」
「腹ごなし、ってか・・・つか、まだごっこ続いてるの」
「オフコース」
「フルコース今お腹いっぱーい」
「はいはい」
「・・・・・・」
環は持ち前の運動能力で、温泉卓球よろしく碧をこてんぱんにした。
それから温泉に入って、寝る前に庭から星空を見た。
「見ろ。あれがオリオン座・・・」
「流れ星でないかしら」
「俺の話・・・」
「ああ、ごめん。願い事したいなって」
「・・・願い事か」
「そ」
「それは叶いそうか」
「どうだろね」
「・・・・・・」
「あ、流れ星っ!」
「どこ?」
「うっそ、ぴょーん」
「おい環っ!」
「あばよ~。とっつあーん」
環はそう言うと、笑いながら片手に持った部屋のカードキーを振り回し、全速力で部屋に駆け戻る。 「待て~待てぃ~」
碧は彼女の後姿を必死で追いかけた。
「ふふふ」 環は笑いながら、部屋のカードキーをドア付近のセンサーへあてる。
カチャリと音がする。
「おっと、それまでだぜ」
彼はドアノブを押さえた。
「ちぇっ」
残念そうな彼女。
部屋に戻ると、ごっこ逃避行、旅の疲れ、お腹いっぱいと眠気が襲い、二人は何も言わず自由時間(仮眠)となった。
ごそっ。
先に目を覚ましたのは倉野だった。 ダブルベッドの隣にいるのは元アイドルの環。
彼は天井を見上げると、涙が流れ出す。 「俺・・・は」
消え入りそうな声で呟く彼の手をそっと彼女は握りしめる。
「・・・環」
「いいの。これでいいの」
「・・・・・・」
「来て」
「・・・・・・」
倉野は環と身体を重ねる。
夜明けはもう近い。
早朝、ふたりは手を繋ぎチャペルへと向かう。
中は開いてなかったが、環と碧は・・・。
なんとなく祈った。
静かに・・・。
それがなんに対する祈りかでもなく。
碧は空を仰いで言った。
「帰ろうか」
環は頷いた。
「うん」
とらべる。




