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№3白秋祭~中編~

 ナイトパレード。

 

 岸辺の人たちが手を振る中、茜の操船する舟が狭い沖端橋を通過すると、途端に真っ暗で静かになる。

 茜は日頃の経験と前方をいく同僚の舟の灯りを頼りに舟をすすめる。

「では、かんぱーい」 

 明石一家と碧たちは、俊二の音頭で紙コップに注がれたお酒とジュースで乾杯をはじめる。

 環たちは未成年なのでジュース、明石家の父母兄は美味しそうにビールを飲んでいる。

 

 舟は御花邸の南側を抜けて、亀の井ホテルへと近づく、そこでは篝火が焚かれ和太鼓の演奏がなされていた。

 太鼓の腹に響く重低音を聴きながら、茜の慎重に操船する舟は、演者の顔が見えるぐらい岸辺すれすれを通り、みんなは手を振って演奏に感謝する。


 ゆっくりと邸の東側へと向かう。

 次第に遠ざかる太鼓の音。

「ほう」

 と一息つく環。

「凄いな」

 そう言う碧に、

「うん」

 と、彼女は正直に答えた。

 静けさを取り戻した御花邸周りをぐるり、舟は豊後橋を抜けて進む。

 再び岸辺には子どもや観光客で溢れ、声援を送ってくる。



「ようこそ柳川へ」

「いえ、柳川市民です」(和志)

「楽しんでくださーい」

「ありがとうございます」(俊二)

「あら、奥さん、楽しそう」

「あ、鈴木さん、おほほほ、たまにはですわ」(絵美)

「え?」

「むっ」(碧)

「あれって・・・ご当地アイドルの・・・」

「そうです私たち「ちぇんじまいらいふ」です!」(環、静、綺羅々)


 皆の顔には笑顔、笑顔、茜は竿を持つ手に力を込める。

 水上パレードの各所にある岸辺の広い場所には柳川市民たちが、ステージを設けて、北原白秋の歌をうたったり、楽器の演奏、祭りの出し物、高校のブラスバンド演奏がなされ、舟人たちを盛りあげてくれるのだ。


 舟は中間地点に差し掛かり茜は皆に尋ねる。

「そろそろ日吉神社にさしかかります、トイレに行きたい方はいますか」

「はい」

 と、俊二と和志は即、手をあげた。

「分かりました」

 茜は笑みを一瞬見せると、真顔に戻り竿さしに集中する。

 どの舟もトイレ休憩にここへ立ち寄るので、係留する桟橋には舟でごった返していた。

「すー」

 茜は一息吸い、

「満員御礼ですね」

 と言い、しばらく舟を掘割に漂わせて、桟橋の舟が空くのを待つ。

 すると、一隻の舟が出て、

「今だ」

 彼女はバック走行で舟をゆっくり旋回させ、狭い隙間に割って入ろうとするが、無理矢理横から入って来た舟に当てられ舟の動きが変る。

「しっかりしてよ」

「すいません」

 見るからに新人の船頭が申し訳そうな顔をして、狙っていた場所へ舟を入れる。

「・・・・・・ごめんなさい。もう少し我慢出来ますか」

 茜は頭を下げ詫びた。

「お姉様は悪くないよ。あなた割り込み駄目でしょうがっ!」

 環は口を尖らせて、新人船頭に悪態をつく。

 茜は苦笑し、

「環ちゃん、この日は船頭のみんなは緊張して一生懸命だから・・・ほら、空いた」

 彼女はそう言うと、今度は素早く舟を動かし係留させる。

「どうぞ」

「ありがとう」

 二人はそそくさとトイレへと向かった。

「慌てると危ないんでゆっくりと舟を降りてください」

「ラジャ」

「でありますか」

 俊二と和志は酔っぱらっているのか千鳥足で敬礼をしご機嫌でトイレへと向かって行った。

「・・・それが危ないって」

 茜は小声で呟く。

「本当にごめんなさいね。うちの男どもったら」

 絵美は苦笑いをして首をすくめる。

「いえいえ、皆さんは大丈夫ですか」

 茜の問いに、

大丈夫(です)

 と皆は返事をする。


 水上舟。

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