№2白秋祭~前編~
晩秋の祭り
11月1日の夕刻。
茜たち船頭は西日さす掘割の中、どんこ舟を沖端の町へと移動させていた。
50隻ほどの舟が、町の掘割に集結し混雑している。
持ち場へと舟を係留させた彼女は、袖で額の汗を拭い一息ついた。
時刻は17時を回っている、白秋祭水上パレードの開始まで後一時間半となっていた。
白秋祭は、柳川の偉人、北原白秋の命日11月2日を偲んで行われるお祭りである。
その中で開催されるのが白秋祭水上パレードで1、2、3と3日間にかけて行われる。
貸し切りのどんこ舟で、会社や個人で、それぞれ舟の中にお酒、ご馳走を持ち込み、どんちゃん騒ぎで舟の旅を楽しむ。
それがおよそ3時間かかるのである。
茜は同僚の船頭自分の舟を見てもらうようにお願いすると、すぐそばの観光案内所のトイレへと歩きだす。
ぼちぼち人が増えて混雑しはじめる観光の町沖端。
すると、
「あ、お姉様」
「環ちゃん」
紙袋を持った環と、クーラーボックスや食材を手にした明石一家と茜は出くわす。
「今日はよろしくお願いします」
父俊二は頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ、お舟ご利用いただきまして、ありがとうございます」
「環ったら、茜さんの舟に乗れるって、めっちゃ楽しみにしていたんですよ」
母絵美がそう言うと、環は顔を真っ赤にして、
「お母さん」
と、咎めるような口調に、母は柔和な表情を見せ、
「ごめんごめん」
と謝る。
「よろしく頼む」
環の兄和志はコミュ障なので横柄な態度に見えるが、茜は営業スマイルで、
「はい。皆さんの乗る舟は18番になります。すぐに戻ってきますので」
「荷物はのせても・・・」
絵美の伺いに、茜は大きく頷き、
「はい。他の船頭がいますので、私も戻って来たらお手伝いします」
「ありがとう」
茜は軽く頭を下げて、早足で案内所へと向かった。
次第に日が暮れて、ざわざわとした喧騒がしている。
舟には灯りがつけられ、食材を持ち込む飲食店の店員やお客で、桟橋はごった返す。
18番舟に乗り込んだ環たち舟の先頭には1「明石家御一行」と書かれた行灯がぼんやりと暮れなずむ辺りを照らしている。
舟内には明石一家と碧、静、綺羅々の面々。
「今日は誘って頂いてありがとうございます」
皆に先駆けて静がそう言うと、碧と綺羅々は一礼をする。
「いいのよ。みんな気にしないで、今日は楽しみましょうね」
絵美は両手をぶんぶんと振って笑顔を見せた。
「さあ飲むか和志」
「おう父」
俊二と和志の親子は出発前からビールに口をつけた。
「そこ早いっ」
「もう、お父さん、和志ったら・・・」
環はツッコミを入れ、絵美は首をすくめる。
パンパンパンっ!
と花火の音が辺りに響く。
それは出発を告げる音。
雅楽隊の雅な音が奏でる中、粛々と舟が一隻ずつ沖端町の桟橋を離れていく。
茜は両隣の船頭と顔を見合わせ、竿を握りしめ、そっと舟のデッキ上へと乗り移った。
「では、明石御一行様、こちらの舟も出発します」
「うむ。よきに計え」
という和志の一言に皆は大爆笑した。
白秋祭水上パレードはじまる。




