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〜十一月〜No.1悪夢

 おひさ再開です。


 倉野碧の幼馴染、明石環が死んだのは、ふたりが5歳の頃だった。

 幼い2人は冒険と称して、有開海を見に行き、低い堤防から海を覗き込んだ。

 大きな海を自分たちで間近に見れたことに環は興奮していた。

 つい身を乗り出し過ぎた環がするりと頭から海に滑り落ち、浮かびあがった少女は身体をバタつかせる。

 碧は、彼女を助けようと必死に右手を伸ばす。 環はそれに気づき懸命に手を伸ばす・・・しかし、するりとすべり落ちた彼女の右手とその姿が沖へと流されて消えて行った。


 そんなあの日の悪夢にうなされ碧は目覚めた。  

 彼はぼやっとした頭のまま、制服に着替え高校へと向かう。

(よりによって、卒業式にでてこなくても、いいんじゃね)

 碧は環を恨めしく思ったが、すぐに首を振り、 (ごめん。ごめん)

 と、心の中で呟いた。

 寝ぼけ眼で下駄箱を開けると、そこに手紙が入っていた。

 ごしごしと目を擦り、再確認をする。

「アオちゃん、今日、へそくり山で待っています」 「これは・・・」

 彼は驚きとともに、思わず声が漏れだす。

 この高校では、まことしやかにささやかれている噂がある。

 卒業式の日にへそくり山で告白した二人は永遠に結ばれるというベタ伝説があるのだ。

(ときメモかよ)

 碧は我に返ると苦笑し、誰もいないのを見計らって手紙をポケットの中に押し込んだ。


 明石環はすうっと息を吸い込み、玄関を開けた。 「いってきます」

 その一歩を踏み出す。

「いってらっしゃい」

 背中に心強い母の声をうけて、自然と小走りになる。

「無茶しちゃ駄目よ」

「わかってる」

 彼女は、はやる気持ちを抑えられない。

 へそくり山へと辿り着くと、彼が来るのを心待ちにする。

 きょろきょろと辺りを見渡し、誰もいないのを確認すると、木の棒で地面に相合傘をかいて、アオちゃん、たまきと書いて、くすりと笑う。

 彼女は木陰に腰かけ「きらきら星」を歌った。  

 足音が聞こえる。

(来た)

 心で思い、

「・・・来てくれた」

 呟き、環の心は晴れやかに躍った。


 小高い丘に立つ、その少女は白いワンピースの上に高校のブレザーを羽織っていた。

 髪は長く赤いリボンで束ねている、透き通った白い肌に、一見、冷たそうな細い瞳にはキラキラと笑顔が輝いていた。

 それが誰だか、碧には一瞬で分かった。 「・・・環」

「アオちゃん」

 それはまぎれもない環であった。

 すっかり成長した彼女は、可愛らしくも美しく、だけどどこか儚げであった。

「・・・いや、お前は死んだはず」

「ふふふ、私はちゃんと生きているよ」

「じゃあ、なんで、今まで・・・」

「うん、お母さんが、もうちょっと待ってねって・・・」

「環、お前、本当に環なのか」

「うん。私は環だよ」

「そっか、そっか・・・よかった」

 へなへなと腰が砕けその場に座り込む、碧の目には涙が滲む。

「ずっと、ずっと、心配したんだぞ」

「うん。ごめんね」

「夢にずっとあの日の事が浮かんで・・・ずっと」 「うん。うん。私はここにいるよ」

 環はそっと碧の頭を撫でた。

 あたたかい手の感触に彼女が生きていると彼は実感した。

 それは感動の再会であった。


 だが、それまで曇天だった空が、急に暗くなるとふいに強い雨が降り出した。

「いけない」

 環は大木の影に身を隠した。 木々の葉に強い雨音が当たり響く。

「・・・どうしたんだよ」

「あっ、もう!」

「大丈夫か、環?」

「アオちゃん。来ないで」

「なんで」

「いいから」

 人という生き物は、いけないと言われたら、それをやってしまうものだ。

 碧は奇跡の再会で我を忘れてしまっていた。 彼は勢いにまかせ彼女を抱きしめ、

「環」

 と、ひとり喜びを嚙みしめる。

「嫌っ!」

 思わぬ拒絶され、環に両手で押されてしまい、よろける彼は尻餅ついた瞬間その姿を見てしまった。  

 環の肌は溶け、骨も露わになった醜い姿と化していた。

「化け物っ!」

 碧は思わずそう口走ると立ち上がるなり、環を突き飛ばした。

「ア・・・オ・・・ちゃん」

 小高い場所から転げ落ちる彼女は、あの時と同じように手を伸ばし続けた。

「・・・・・・」

 丘から見下ろす碧は、大きく首を振って走り去って逃げて行った。

 絶望。

 それは環にとって、まさにスローモーションに見えた。

 転がり続ける間、走馬灯のように彼女の頭に浮かぶ思い出たち。

(私は・・・なんの為に・・・)

 あえなく環は掘割へと落ちてしまった。

(あのときとおんなじ・・・そうなんだ・・・やっぱり・・・)

 彼女に悲しくやるせない気持ちがこみあげる。 「環っ!」

 斜面を転がりながら駆けつけた環の兄が手をいっぱいに伸ばし叫ぶ。

「つかまれっ!」

 環は一度、水面に浮かび、溶けて剥き出しになった頭蓋骨の姿のまま叫んだ。

「もういいっ!もういいっ!もういいってばっ!」  

 彼女の絶叫が辺りに響き渡る。

「頼むからっ!」

 兄は必死に手を伸ばす。

 妹は何度も首を振り続ける。

 ありとあらゆる組織が剥がれ落ち、兄がさっきまで目にしていた美しい少女が髑髏姿となってしまう。

「・・・たまき」

 兄は絶句した。

 掘割の水位は1mぐらい、立ち上がれば溺れる事もない。

 だが、環は自らの意志で水底に沈んだ。 (・・・・・・)

 そうしてやがて骨も粉々となり消えた。

 彼を恨みながら、この世に未練を残してしまった自分を憐れみながら・・・。

 暗雲は雨を呼び雷鳴が轟く。

 激しい雨は彼女の涙か・・・この日、いつまでもいつまでも掘割の水を叩きつけていた。



・・・・・・。

・・・・・・。

「はっ!」

 悪夢にうなされ深夜に環は目覚めた。

「なんて夢・・・よかった本当じゃなくて」

 ごしごし。

 袖で目元を拭う。

 彼女は大粒の涙を流していた。

 環、悪夢をみる。

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