第138話 カナリアの能力 解体新書③ 黒刃
前の世界の事は、覚えてない。けれど私は何かが原因で死んでしまった事は間違いない。
でも、この世界では……
まだ終わってない。
“無属性”だって言われて、何もできないって思ってた。ずっと、置いていかれる気がしてた。
だけど……今、この手の中にすべてを覆す力がある
(これでもっとノアを守っていける!)
自然と、頬が緩む。ようやく“世界と呼吸が合った”ような、そんな気がした。
気づけば私は、うつむいたまま――拳を、ぎゅっと握りしめていた。
「なんだか、感無量といった感じだのう」
フウゲツ師匠は腕を組み、どこか嬉しそうにうなずいた。
「魔力の消費が激しい。いったん休憩じゃ。金髪の家政婦がおいていった特製の茶がある。飲むぞ」
仕事のできるリーリャさんのことだ、きっと私たちが稽古を終えた頃合いを見計らって用意してくれていたんだろう。
師匠と私、二人分の湯呑みが、縁側に静かに置かれていた。
私たちはそろって、庭に面した縁側へ腰をおろす。
手に取った湯呑みには、ほんのりと湯気を立てる緑茶が注がれていた。
口を近づけると、ふわりとやさしい香りが広がる。
(てか……これ、まさに日本の緑茶じゃない?)
この世界で、ここまで似るなんて。不思議な感じ。
ひと口、すする。
すると、温かな液体が喉を通り抜けた瞬間――
体のすみずみに魔力が、ゆっくりと行き渡っていくのを感じた。
「くぅ~染みわたる~」
「陽の国の秘蔵の茶葉をつかっておるぞ。魔力回復の効果がある。」
フウゲツ師匠がそう言って、肩をすくめるように笑った。
フウゲツ師匠が、私の方をちらと見る。
その右目の“魔眼”がうっすらと輝き、私の体に流れる魔力の動きを静かに追っていた。
「うむ……次の訓練にも、問題はなさそうじゃな」
「次は、いよいよ攻めの特訓ですね?」
私が尋ねると、師匠は口の端を上げて笑った。
「さっしがいいのぉ。……なんというか、お主と話しておると、どうにも子供らしさが感じられん。年頃のおなごと世間話でもしとる気分じゃわい」
「ア、アハハ。よく言われるんで。大人っぽいって」
ちょっと誤魔化しながら笑い返すと、フウゲツ師匠はフンと鼻を鳴らしつつ、どこか満足そうに腕を組んだ。
「察しのとおり、お主の“黒刃”についてじゃ」
湯呑みを手にしたまま、フウゲツ師匠が静かに告げる。
「茶を飲み終えたら、使ってみせい」
「……でも、師匠。あれは……」
思わず言葉を濁す。
だって、黒刃を使えば、魔力が底を突くのはわかっている。さっきの全ての攻撃を無力化する“断界纏衣”の維持だけでも、限界ギリギリだったのに。
「わかっておる。あの刃を放てばお主の魔力が空になるのであろう?」
フウゲツは湯呑みを置きながら、にやりと笑った。
「そこも、この十日間できちんと考えてきた。任せろ」
フウゲツ師匠が、どこか誇らしげに胸を張って言い切った。
(……お、流石師匠。やることはしっかりやってくれてるな。ここはひとつ、おだてておくか)
「やっぱり頼りになりますね、師匠」
私は声を弾ませながら、そっとその肩に手を添えて、軽くもみもみ。
「準備も完璧、読みもバッチリ……あー、頼れるなぁ、ほんっと!」
内心、素直に感心していた。
軽口の裏に、しっかりとした準備と観察眼。こういうところ、本当に信頼できる先生だと思う。
「うむ。顔もよければ、気前もいい。それがこのワシ風月よ」
(ちょっと、調子乗るところがたまにキズですけどね)
「まず、能力のおさらいじゃが」
フウゲツ師匠が腕を組み、真面目な声で口を開く。
「お主の“黒刃”は、魔力を込めて放てば“斬撃”として空間を飛び、その線上にあるあらゆるものを両断する。そして、斬撃が走った先に“転移門”が出現する……という理解で間違いないか?」
「あってます」
私は頷いた。何度か試したが、いつもその現象が起きる。
「ふむ。しかし……」
フウゲツ師匠が首を傾げる。
「ワシがようわからんのは、転移するだけなら、すでに黒雪で充分できておるじゃろ?ならば何故、“斬撃の先”に転移門が出現するんじゃ?」
「……」
言われて、言葉に詰まる。
(確かに。改めて考えると、すごく変だ……)
斬撃は強力で、当たれば確実に“仕留められる”。
だがその直後、自分が動けなくなるほど魔力を消耗する。
追撃用の技とも考え難い。
(……じゃあ、何のために“門”が出るのか?現状考えられるのは――)
「……多分ですけど。黒雪と違って、“狙った場所”に出せること、かなって」
「ふむ?」
フウゲツ師匠が眉を上げて促す。
「黒雪での転移って、本物の雪と同じで、見渡せる範囲しか存在できないし。場所も無作為なんです。でも黒刃の場合、たとえ壁の向こうでも、空中でも。斬撃が届く限り、どこにでも門を出せる」
「なるほど、確実性のある転移門を作れるという訳だな」
頷きながら、もう一つ思い当たっていた使い道を頭に巡らせる。
(あとは、緊急脱出用かな~)
“すべてを超えて飛び越せる”という性質が本当なら、たとえ閉じ込められても、強敵に囲まれても、そこに斬撃を走らせれば、空間そのものを切り裂いて退路を作ることができる。追い詰められても確実に逃げが可能!
あの、よくある――敵幹部がヒーローに囲まれて、最後に“闇の裂け目”へと消えるやつが可能という訳なのだ。
考えれば考えるほど、便利で強力な能力だとは思う。
「なるほどのぉ。現状ではそれが有力か」
フウゲツ師匠がひとつ頷き、湯呑みを置いた。
「さて、カナリアよ。休憩もそろそろ終いじゃ。黒刃について、本格的に理解を深めるとしようかの」
「わかりました!」
私と師匠はほぼ同時に立ち上がり、庭園の中央へと歩を進めた。
呼吸を整え、木刀に意識を集中する。
そこに異界の魔力を流し込むと――刀身がバチバチと音を立て、ゆっくりと黒く染まっていく。
頭上に、ふわりと黒雪が舞いはじめる。
その粒子たちは、私の刀と共鳴するように淡く明滅し、まるで呼吸を合わせるかのようにリズムを刻む。
空気がひやりと冷え、庭園全体が、静かに“異界”と繋がっていくような、そんな緊張が走った。
……しかし、どう見ても悪役幹部の演出だ。
黒い刀に、黒い雪。空間が歪むような斬撃の気配。
能力だけ見たら、完全にヒーローを追い詰める“敵側”のそれ。
あまりにダーク寄りな性能だと、ちょっと複雑な気分になる。こんなに可愛らしい自分なのに。
でも――この力は、魔族を倒すためにあるの!
私は絶対に、間違わない。
そう言い聞かせながら、さらに魔力を込め、刀を構えた。
「では、行きます! 放てばいいですか?」
私は、師匠のはるか頭上。空中の一点を指差し、斬撃の発射位置を示す。
だが――
「待てい! そのままだ、放つな!」
フウゲツ師匠が厳しい表情で掌を突き出し、制止の合図を送ってきた。
「刀に力を宿したまま、その状態を維持し続けよ!」
私は言われたとおり、刀に込めた力をそのまま保つ。
黒雪を纏うときと違い、黒刃の力は勝手に解けようとしない。
維持はたしかに楽だ。けれど、そのぶん重い圧が刃先にのしかかる感覚があった。
「よし、その状態でワシと撃ち合うぞ! 力を宿したお主の刃が、一体どのようなものなのか、興味がある」
「ええっ!? で、でも!」
思わず声が裏返る。
この状態の刀を間違って斬撃を放てば、何もかもを断ち切ってしまう。
もし宿した状態の刀でも同じ事が起きてしまったら……
「ワシも全力で返す。その代わり、“黒刃”は絶対に放つなよ」
フウゲツ師匠はにやりと笑い、ゆっくりと構えを取った。
「この距離で放たれては、さすがのワシでもかわせんからな。お主も、師を殺めたくはあるまい?」
「……笑えませんよ、師匠」
(何もそんな、ロシアンルーレットみたいな命がけのやり方しなくても)
思わず内心で軽口を叩いてはみたけど、けれど不思議と、不安はなかった。
目の前にいる刀仙・フウゲツ。
彼の背中は大きく、そして何より、どこまでも“偉大”に見えた。
その存在が、私の中に残っていた迷いや恐れを、一瞬でかき消してくれた。
なら、信じて飛び込むだけ。
「行きます!」
私は、呼吸を止める。構えを低く落とし、迷いを断ち切るように――師匠へと、踏み込んだ。
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