汚泥(9)
愛情と友情の違い
「もう、人前で何してんのよ」
青猿の腕の中から降りたウグイスは、愛し合う2人を見て気恥ずかしくなって左手で顔を覆う。
「はははっお盛んだねえ」
青猿は、笑いながら折れたウグイスの手にアズキをくっつける。
アズキは、身体を燃え上がらせ、癒しの炎を発する。
違う方向に曲がっていたウグイスの手が少しずつ戻っていく。
「愛を伝えるのに下手くそな言葉なんていらない。必要なのは行動だ」
青猿は、そう言って柔らかく微笑む。
「・・・結局、王には敵わないな」
痛みの取れていく右腕を見ながらウグイスは切なげに呟く。
あれだけ必死に動いたのに結局、王の存在と行動で全て丸く収まってしまった。
(私が動いたことなんて意味なかったんだな)
そんな思いを描くウグイスの頭に青猿が優しく手を置く。
「何言ってんだよ。お前のおかげだよ」
そう言って口の端を釣り上げる。
「でも、私は・・・」
「お前がいなかったらアケもこのウリ坊も確実に死んでたぞ。竜魚が大地を砕いた時、私ら本気で焦ったからな」
その時の王2柱の顔は歴史にも語れるものだったろうと青猿は苦笑する。
「私たちが来るまでの間、アケと何話してたんだ?」
「・・・アケが大好きだってこと。何があってもずっと一緒にいるって言いました」
「そりゃ凄く嬉しかったろうな。アケ」
青猿は、優しく微笑む。
「お前のその言葉があったからアケは救われたんだ」
「でも・・・」
「でもも何もないよ」
青猿は、ウグイスの頭を撫でる。
「お前がいなくて黒狼だけだったらきっとアケは、怯え続けただけかもしれない。信じなかったかもしれない。お前が解きほぐしてくれたから今があるのさ」
「そうなんですかね」
「そうだよ」
青猿が言うとウグイスは、恥ずかしそうに、そしてら嬉しそうに微笑んだ。
「酒に例えるなら友情は飲みやすくて親しみやすい麦酒、愛情は甘く、酔いやすい果実酒、どちらにも良いところがあり、とても美味いが時間をかけて付き合わないと真の楽しさを味わえない」
青猿は、悦に入ったように例えるが酒を飲まないウグイスにはイマイチよく分からなかった。
つまりはアケもウグイスもそしてツキもこれからもっと付き合って関係を深めていけと言うことなのだろうと勝手に解釈した。
重い雲が切れ、刀傷のような隙間から太陽の光と青空が見える。
「あっ・・・」
空を見上げたウグイスの口から驚きの声が漏れる。
その声に釣られてアケとツキ、青猿、そしてアズキも見上げる。
遥か上空を青と赤の魚が艶やかに泳いでいる。
竜魚だ。
その姿はあれだけ暴れ回っていたとは思えないほどに優雅で美しい。
そして2匹の竜魚の周りを緑、橙、紫の稚魚が甘えるように泳いでいる。
「どうやら無事に産まれたようだな」
ツキは、黄金の双眸を細める。
「綺麗だね」
アケも嬉しそうに言う。
その口調はいつも通りの穏やかで明るいアケのものであった。
ツキは、黄金の双眸を大きく見開き、そして嬉しそうに微笑んだ。
「帰るか」
「うんっ」
アケは、少し恥ずかしそうにしかし、嬉しそうに頷いた。
それを見たウグイスは涙ぐみながらも嬉しく笑った。




