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汚泥(9)

アケとウグイスの運命は!?

 浮力を失ったウグイスの身体は、アケとアズキと共に岩壁の下へと落下していく。

 生まれてから数え切れないくらいに味わった落下に伴う重力がウグイスの身体を襲う。

 ハーピー であるウグイスが重力による落下を恐れることなど本来はない。

 しかし、それに抗う翼を失い、アケとアズキを抱えたウグイスは初めて重力と落下に恐怖、絶望する。

(ふっ2人を!)

 ウグイスは、アケとアズキを痛みのない左腕で引っ張り胸の中に抱える。

 アケは、アズキを守るように胸にぎゅっと抱え込み、身を縮ませている。

(どうする?どうする?)

 兄であるカワセミなら風の魔法を使って落下速度を落とすことが出来るが、風の魔法の使えない自分ではそれは出来ない。

(私の役立たず!)

 ウグイスは、ぎゅっとアケの身体を抱きしめる。

 せめて私の身体と水の魔法でクッションを作って落下の衝撃を和らげる。

(ごめん。アケ、わたしやっぱり嘘つきだ)

 一緒にいる約束、守れそうにない。

(王、この身にかけてアケを守ります。どうかアケを、アケを!)

 ウグイスは、この場にいない主君にこの思いが届くよう切に願い、水の魔法陣を展開させる。

 咆哮が大気を震わせる。

 岩を砕く破壊音と共に眩い黄金の光がアケとウグイスの視界を照らす。

 2人の目に映ったのは岩壁を踏み締め、駆け降りてくる黄金の光に包まれた巨大な黒い狼であった。

「主人」

「王」

 2人は、同時に彼の呼び名を呟く。

 金色の黒狼、ツキは、岩壁を蹴り上げ、重力と共に舞い落ちる。身体を細め、落下速度を上げ、落ちる2人と1匹へと追いつくと金色の光が激しく全身を包み、狼から人の姿へと変貌する。

 ツキは、両腕を広げて2人の身体を抱き止める。

 花の香りが2人の鼻腔に入る。

 ツキの背後に大きな黄金の魔法陣が展開し、無数の黒い鎖が現れる。

 黒い鎖は、瞬時に自分たちの身を重ね、編み上げ、大きな網となって3人と1匹の身体を包み、四方の先端が岩壁に突き刺さる。

 落下が止まる。

 重力だけが身体に圧し掛かる。

 ツキは、身体の体勢を変え、2人と1匹を抱き抱えたまま立ち上がり、鎖の網を蹴り上げ、宙へと飛ぶ。そして岩壁に足を掛けながら飛び跳ね、駆け上っていく。

 そして岩壁の上に駆け上り待っていたのは長い青い髪を携えた褐色の美女、青猿だ。

「お帰り」

 青猿は、にっと笑う。

 ツキは、青猿の前まで進むとウグイスを流すように渡し、その上にアズキを置く。

 身体を移すだけで折れた右腕に激しい痛みが走る。

「おう、派手に折れてるな。アズキ治してやれ」

 ウグイスの胸に乗ったアズキは癒しの炎を出そうとする。

「まっ待って!」

 ウグイスは、声を上げる。

 アズキは、炎を出すのを止める。

 しかし、それはアズキに言った言葉ではなかった。

「王、アケをどこへ・・・」

 ツキは、アケを抱いたままウグイスと青猿から距離を取った。

「主人?」

 ツキに抱かれたままのアケは、顔を上げてツキの顔を見る。

 そして絶句する。

 ツキの野生味のある整った顔は黒髪から落ちてくる血で赤く染まっていた。

 顔だけではない。

 露出した首筋も、アケの身体を抱く両腕からも、足元にも血溜まりが出来ている。

 まるで全身から浴びたように血が流れ続けていた。

 アケの顔が青ざめ、全身が震える。

「しゅ・・主人・・・血が・・・血が!」

 どこで?

 崖を降りてくる時は確かに怪我なんかしてなかったはず。しかも、こんな全身に怪我を負うような場面なんてどこにもなかった・・。

「は・・・早く治療を・・アズキ・・・」

「・・・うるさい」

 動揺するアケをツキは短く制する。

 黄金の双眸が大きく揺れ、アケに向けられる。

 そこにら浮かんでいたのは明確な怒り。

 アケの表情が青ざめ、唇が震える。

「アケ・・・」

 血に濡れたツキの唇が小さく開く。

 アケは、次に発せられる言葉を想像し、恐怖した。


 "嫌いだ"


 その言葉がツキの口から出た瞬間、アケはきっともう今まで通りではいられなくなる。

(やめて・・お願い・・言わないで・・)

 アケは、身体を震わせ懇願する。

 しかし、願い空しくツキは口を開く。

 そして発せられたのは予想外の言葉であった。

「お前は俺の何だ?」

「えっ?」

 ツキの黄金の双眸が揺らめく。

 アケは、草の上に寝かされ、その上に跨るようにツキが覆い被さる。

 アケは、蛇の目を振るわせてツキを見上げ、ツキは黄金の双眸でアケを見下ろす。

「もう一度聞く。お前は俺のなんだ?」

「・・・です・・」

 アケは、消え入りそうな声で言う。

「聞こえない!もう一度言え!」

 ツキは、叫ぶ。

 アケは、涙を飲み込むようにもう一度言う。

「妻・・です」

 その瞬間、ツキの唇がアケの唇と重なった。

 アケの蛇の目が大きく見開く。

 それはアケが今までされてきたもの中であまりにも激しく、官能的で、甘い口付けであった。

 ツキの唇がアケの唇から離れる。

 アケの頬が真っ赤に染まり、顔が蕩ける。

「主人・,なんで・・・」

「ツキだ」

 そう言ってツキは、優しく微笑んだ。

「愛を表すのにどちらか一方から示さなければならないルールなんて誰が決めた?」

「えっ?」

「俺はお前が好きだから口付けを交わした」

 蛇の目から一筋の涙が流れ、筋となってこめかみに落ちる。

「もう一度聞く。お前は俺のなんだ?」

「妻です」

 今度こそはっきりと答える。

「じゃあお前は俺のことをどう思ってる?」

 しかし、アケはその質問に答えない。

 血に塗れたツキの首筋に細い両腕を伸ばし、身体を起こしてツキの唇に自分の唇を重ねた。

 ツキは、黄金の双眸を大きく見開き、そしてゆっくりと閉じた。

 2人の間だけ時間が途切れてしまったかような悠久の空間が生まれる。

 アケの唇がツキの唇から離れる。

 そして涙に濡れた顔で花のように笑って答える。

「大好きだよ。ツキ」

 そう言ってツキの身体に大きく手を回す。

 ツキもアケの身体に手を回してゆっくりと身体を起こし、どちらかともなく口付けを交わした。


最後はイチャイチャ

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