[第12話]土魔法術師、ドラゴンを倒す
「土魔法《風化》」
土魔法《土天蓋》を解除した俺たちの目に飛び込んできたのは……、一面の焼け野原だった。
温泉施設は焼け落ち、湯は干上がり、当のドラゴンは死体すら残さずに消し飛んでいた。
「えっ、あれっ? あのっ、ご主人さま? あわわっ、あの……っ」
目をぱちくりさせながらもなんとか言葉を絞り出そうとするターリス。
まあ、この光景を見れば動揺するのも不思議じゃない。
俺自身、これほどの威力とは思っていなかったしな。
「大丈夫だ、落ち着け」
俺はターリスを落ち着かせるため、彼女を抱きしめた。
「はうあっ、はいぃ〜。でもご主人さま、これは一体何が起こったのですかぁ〜? 土壁はドラゴンのブレスで破られたのに、あの後どうなったのでしょう? それにドラゴンはどこへ?」
「まあ、落ち着け。ひとつずつ説明しよう。俺の土魔法《土壁》はドラゴンの炎に溶かされて、水面に覆いかぶさったんだ」
「で、でもぉ〜。普通、土と水が爆発なんてしませんよぉ〜」
「普通は、な。だが今回は別だ。ドラゴンのブレスで熱せられた土が溶岩のようになっていたんだ。水が溶岩に触れるとどうなると思う?」
「えっ? えーっとぉ、あったかくなるぅ……でしょうか?」
「そう、急激に沸騰するんだ。沸騰すると水は液体から水蒸気に変わるだが、この時体積が増大する。だから急激に沸騰した水は急激に体積が増えて爆発が起きる。俺はこれを水蒸気爆発、そう呼んでいる。しかも水面を覆っていた溶けた土壁が水蒸気爆発で、さながら火山噴火のマグマのように弾け飛ぶ。さすがのドラゴンもひとたまりもなかったな」
「なるほどぉ〜。火山……、だから『天災級』なのですねぇ〜っ。そんなことまで知っているなんて、さすがご主人さまぁ〜。その深遠なる知識で見事ドラゴンを倒されたのですねぇ〜っ」
「やれやれ、そんなたいしたものじゃないんだがな。原理としては揚げ物をするときに油がパチパチ跳ねるのと一緒だ」
「でも、もう温泉に入れなくなったのは残念ですねぇ〜」
黒こげになった施設と枯れた温泉を見て悲しそうにするターリス。
「まあ、いいじゃないか。温泉はここ以外にもあるさ」
「それもそうですねぇ〜。ああ、今度はご主人さまと一緒に入れる温泉がいいですぅ〜」
そんなことを話していると森の陰から男がひとり現れた。
「おお、これは一体……っ。ドラゴンはどこへ……!? はっ、貴殿は土魔法術師のエアルト殿?」
裕福そうな服装に貴族風の口髭の初老の男。
どこかで会ったような……?
そうだ、王と謁見した時に見かけたことがある。王の側近のひとりだ。
「失礼。私、宮廷の使者のグレイと申します。勇者さまに同行しドラゴンの討伐を見届けるように王から仰せつかったのですが、途中で勇者さまとはぐれてしまって……。この爆発、もしやドラゴンを……?」
「ああ、ドラゴンなら――」
「ドラゴンは僕が倒した!」
俺の言葉をさえぎったのは勇者ライだった。
今までどこかに隠れていたのに、突然現れて手柄を主張しはじめた。
「……やれやれ。何を言っているんだ、ライ?」
「そうですよぉ〜。ドラゴンはご主人さまが倒したんですぅ〜」
「うるさああああい! 倒したのは僕だ! 僕は勇者なんだぞっ!」
喚き散らす勇者ライ。
「いやはや困りましたな。私はその場にいませんでしたから、どちらが倒したのか分かりかねますぞ」
「僕だ、僕だ、僕だあああああ! 僕は勇者なんだっ。そしてエアルトはただの土魔法術師だ! 見ろ、この爆発を。これを土魔法術師なんかに出来ると思うのか!?」
「うーむ。そう言われるとそんな気もしないでもないような気がしますな。むむむ」
勇者ライのゴリ押し論法に納得しかける使者の男。
やれやれ、俺はターリスにした説明をもう一度グレイにした。
「ドラゴンのブレスで水蒸気爆発……? いや……、むむっ、難しそうな話ですな」
「ププッ。火山だって? エアルト、それはどう考えても炎魔法の領域だろう。君に出来るはずがない!」
首を傾げ考え込むグレイと、はなから理解する気もない勇者ライ。
やはり、科学の知識に乏しい連中に理解させるのは無理があったか?
「うむ。状況的にドラゴンを倒したのは勇者さまで決まりですかな」
完全に軍配が勇者ライ側に上がりかけたその時。
「お待ちください、グレイ卿」
「あ、あなたさまは……っ」
森に避難していたエレノアが現れ、待ったをかけた。
使者の男は彼女を見るとすぐさま膝をつき目を伏せた。
「ドラゴンを倒したのはこのエアルトさまです。この私が証言しますわ」
「はっ」
王女の一声で一気に俺が優勢になった。
それを気に食わない勇者ライがエレノアに食ってかかる。
「何を言うんだ君は、いきなり出てきて! 君は一体何様のつもりなんだ!」
「おお、なんと無礼な……っ。勇者さまっ! この方は王位継承権第一位、王女エレノアさまですぞ!」
「ええっ、王女だって!? こ、これは、そのっ、失礼しました!」
王女と聞いた瞬間、勇者ライは急に態度を豹変させ膝を折る。
エレノアが表面上だけ微笑んだ顔で告げる。
「いいえ、知らなかったのなら仕方ありませんわ」
「ほっ」
「ですが、ドラゴン退治の手柄をエアルトさまから奪い、陥れようとしたことは王に報告させていただきますわ」
「そ、それは、なんと言うか……、ただの勘違いで」
「それに勇者でありながらドラゴンに恐れをなし、エアルトさまが戦っている間ずっと木のかげに隠れていたこともです」
「み、見られていた、そんなとこまで……!? ううううう、うわあああああああ!」
勇者の任命権を持つのは国王だ。
これほどの痴態を知られてしまっては称号の剥奪は必至だろう。
自らの運命を察して、勇者ライはその場で泣き崩れた。
エレノアは泣き喚く勇者を軽蔑するように一瞥した。
それから俺の方に向かって来て、俺の手を取った。
「女神さまに誓って、あなたの名誉は私が保障しますわ」
凛とした態度で微笑む彼女は高貴で美しかった。
だが……。
「保障してくれるのはいいんだが……。その前に服を着てくれ、エレノア」
「へ……? きゃああああああ!」
やっと自分が裸だと気がついて、胸を両腕で抱え込む。
その細い腕では到底キングメロンのようなおっぱいは隠せそうにもないのだが。
やれやれ、前にも似たようなことがあったな、と俺は呆れながら自分のローブをそっとかけた。
………
……
その後、エアルトたちは再び自動馬車で王都を目指した。
王女を送り届けると言う目的に加え、ドラゴン討伐の報告をするために。
誰もいなくなったはずの荒地にひとつの人影。
美しい銀髪を風になびかせる謎の美女。
一際大きいその胸を隠そうともせず、腰に手をやり不敵な笑みを浮かべる。
「ふふ、やっと見つけたのじゃ。わらわを満足させられる、我が夫に相応しい男よ……」
舌なめずりするその妖艶な美女にはドラゴンのような巻き角と尻尾が生えていた。
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