[第11話]土魔法術師、ドラゴンと邂逅する。
――グルルルラアアッ!!
「ターリス、今の聞こえたか?」
「はい、雷でしょうかぁ〜。変ですね、こんなにお天気なのにぃ〜」
「様子が変だ。行ってみよう」
俺たちはすぐに服を着て外に出た。
雷鳴のような音はだんだんと近づいてくる。
ざわつく森に武器を構えると……。
「うわあぁぁああ、助けてくれぇぇええ!」
木々の間からひとりの少年が飛び出てきた。
「あれは……、勇者さまぁ?」
顔は泥だらけ、服はぼろぼろ。この以前とは見る影もない勇者ライだった。
あいつ一体こんなところで何しているんだ?
が、その疑問はすぐに吹き飛ばされる。
勇者ライに続いて森から姿を現す巨大な怪物。
山羊のような巻き角、闇より黒い鱗。
鋭い牙の隙間からは炎が漏れ、ギラギラした目は見た者を凍てつかせる。
大きな翼を持ち、全長15メートルは優に越すそのモンスターは……。
「ドラ……、ゴン……ッ!」
ドラゴン。それは一晩で街を滅ぼすほどの力を持った伝説の化け物。
だが、ドラゴンは大昔に滅びたはず。それがなぜ今ここに……。
いや、今はそんなことを考えている暇はない。
ドラゴンの喉元が赤く光る。
次の瞬間、炎の激流が勇者ライを襲う。
「うわああああああ!」
「土魔法《土壁》!」
間一髪、俺の土魔法が間に合った。
勇者ライの目の前に土壁が立ちはだかり炎のブレスを防いだ。
だが、さすがは伝説のドラゴン。厚さ1メートルの土壁がぐにゃりと溶け、ぷつぷつと音を立てる。
2枚張っていなかったら、勇者ライは今ごろ消し炭になっていたことだろう。
「ライ、はやく立て」
「エ、エアルト!? どうして君がここに……?」
「それはこっちのセリフだ。だが今はそんなこと言っている場合じゃない。あのドラゴンをなんとかしないと」
俺は改めてドラゴンに対峙した。
「ターリス。まずはエレノアを安全な場所に」
「はい、先ほど森に避難するようにお伝えしましたぁ〜」
「優秀だな、俺のメイドは」
「えへへ、もっと褒めてくださいぃ〜」
「……。行くぞ」
俺の合図とともにターリスが駆け出す。
ドラゴンとの距離を一瞬で詰め、身の丈を超える戦鎚を振り下ろす。
「はああああああっ!」
――ガキンッ!
金属同士がぶつかったような鋭い音が響く。
ターリスの戦鎚は確かにドラゴンの眉間をとらえた。
しかし、分厚い鋼鉄の鱗に阻まれダメージには繋がらない。
「ギャルルルルラアアアッ!」
ドラゴンが反撃に前足を振り上げた。
鉤爪が日光を受けて鋭く光る。
「させるか。土魔法《泥土罠》!」
俺の土魔法でドラゴンの足元が一瞬でぬかるむ。
前足を上げていたドラゴンはたまらずよろめく。
「まだだ。土魔法《土槍》!」
俺はすかさず攻撃魔法を重ねた。
地中から直径50cmの大槍が無数に突き上げる。
が、やはり鋼鉄の鱗を持つドラゴンには効かなかった。
ドラゴンの鱗に弾かれた土の槍は無残にも土くれに帰した。
それどころかドラゴンは宙に羽ばたき、土魔法《泥土罠》まで無効化されてしまった。
「そんなぁ〜っ、ご主人さまの土魔法でも倒せないだなんてぇ〜っ。あわわわっ、逃げましょうご主人さまぁ〜。私、ご主人さまさえいれば他にはもう何もっ――」
「落ち着け、ターリス。まだ負けたわけじゃないぞ」
「で、でもぉ〜っ。あの鱗にはどんな攻撃も効きませんよぉ〜っ。私の全力のスイングでもびくともしませんでしたし、ご主人さまの土魔法だって……」
「俺に秘策がある。あとさっきのは別に俺の全力じゃないぞ」
「ひ、秘策……ですか?」
「ああ。やつの力は他の魔物と比べて圧倒的に強すぎる。まさに『天災級』だ。だからこちらも『天災級』の方法であたらせてもらう」
「わあ、なんだか凄そうですぅ〜。さすが、ご主人さまぁ〜。そして、その方法とはぁ〜?」
「ふむ、それは説明するより見てもらった方が早いだろう」
俺は上空を舞うドラゴンに狙いを定めると、土魔法《岩塊投擲》を放った。
大小の岩がドラゴンに直撃するが、その全てが鱗に阻まれ砕かれる。
だが想定内だ。
――ギャオルルルラア!
苛立ちの雄叫びをあげるドラゴン。
その喉元が再び赤く輝き始める。
俺は周囲の状況を改めて確認した。
ターリスは俺のすぐそばにいるし、エレノアはすでに避難済み。
勇者ライはいつの間にかいなくなっているが、あいつもすでに逃げたのだろう。
そして俺とドラゴンは温泉を挟んで向かい合っている。
想定しうる限り最高の状況だ。
そして次の瞬間、ドラゴンは口を膨らませ灼熱の炎を吐き出した。
「土魔法《土壁》!」
俺は温泉の水際に出来る限り高い壁を建設した。
「ご、ご主人さまぁ〜っ。土壁じゃドラゴンのブレスは防げませんよぉ〜っ。せめて2枚は張らないとぉ〜」
「いや、これで大丈夫だ」
土壁は炎のブレスの熱で赤い輝きを発する。
高温で熱せられた部分がぐにゃりと曲がる。
そのまま土壁は温泉に覆いかぶさるように倒れ――。
「伏せろ、ターリス! 土魔法《土円蓋》!」
俺はターリスに覆いかぶさりながら呪文を唱えた。
分厚い土のドームが俺たちを包み込んだ次の瞬間。
――ドッカーン!
森中に響わたる爆発音と噴煙が上がった。
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