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[第10話]土魔法術師、温泉に入る

「着きましたよぉ、ご主人さまぁ〜」


 絶景を見つけたというターリスについて行ってみると、そこにあったのは……。


「これ、温泉じゃないか」


 水面から立ち上がる湯気と硫黄の香り。

 人里離れた森の中にまさかこんな立派な天然温泉があったとは。


 俺は水際に近づいて、手を温泉に浸した。

 温度は大体40度といったところか。入浴するにはちょうどいい温度だ。


「オンセン? 温泉って何ですか、ご主人さまぁ〜」

「地面の熱で温められた湧水のことだ。東の国には温泉がいくつもあって、入浴する文化が根付いているんだ。温泉に入ると病気や怪我が治った気になれる効果があるらしい。それに美肌効果もあるらしいぞ」

「わぁ、すごいですぅ〜。ご主人さまぁ、入りましょうよぉ〜」

(わたくし)もぜひ入ってみたいですわ」


 美肌と聞いて目を輝かせる女性陣。

 そうはいうが、森の中とは言え女の子が外で裸になるというのはあまりにも無防備すぎる。


そこで俺は土魔法で浴場を建設することにした。

 まずは脱衣所と洗い場を作って……。

 それから岩を使って風呂の縁と風呂底を形成。外から見えないように目隠しの柵を設置した。

 東国の商人から聞いただけの露天風呂のイメージをなんとか再現した。

 でも、これだけだと寂しいな……。そうだ、壺湯や打たせ湯なんかも作ってみよう!

 細部にもかなりこだわったから、俺の土魔法でも10秒もかかってしまった。


「待たせたな、これで『温泉』の完成だ」

「エアルトさまの土魔法……っ、何度見ても素敵ですわ! 王都の建築士たちには何ヶ月もかかるような建物をこんな一瞬で!」

「ふふん、当然ですぅ〜。ご主人さまは史上最強の土魔法術師なのですからぁ〜」


 なぜかターリスが誇らしげに胸を張る。


「さすがに褒めすぎだろう。とりあえず中を案内しよう。まずは脱衣所だ。ここで服を脱ぐんだ。それから、この扉の先が……」


 扉を開けると温泉の景色が飛び込んでくる。


「まあっ、なんて趣のある内装! 素敵ですわ」

「ああ、東の国をイメージしてみたんだ。お湯に浸かる前にこっちで体を洗うんだぞ」

「ご主人さまっ! 滝が、滝がありますよぉ〜」


 興奮するターリスが指差す先には打たせ湯があった。


「あれは打たせ湯って言ってな。あの下でお湯に打たれることで、頭や肩のマッサージができるんだ。ちなみに水の汲み上げは魔力で動く水車を使っているから途中で止まる心配はしなくていい」

「エアルトさま、こちらの水がめは何でしょう。人ひとり入れそうな大きさですが……。あら、お湯が張ってありますのね?」

「これは壺湯だ。わざわざ温泉に来たのにあえて閉塞感を感じたい人向けの風呂だな」

「温泉といってもいろいろありますのね」


 初めて見る温泉に目をキラキラさせるふたり。

 喜んでくれているみたいで何よりだ。


「ご主人さまっ、さあ早く入りましょぉ〜」

「待て待て。お前たちは隣の女湯だ」

「ええ、一緒じゃないんですかぁ〜。私、ご主人さまと一緒に入りたかったのにぃ〜」

「そう言うなよ。これも東の国のしきたりだ。分かったら、早く行ってくれ」


 俺はそう言ってターリスにキスをした。


 ――チュッ。


「はぅあぁ〜。んっ、分かりましたぁ〜。ご主人さまの命令なら仕方ないですぅ〜」


 ターリスとエレノアが女湯に向かい、俺はようやく温泉に浸かることができた。


 こうして何もせずにただ湯に浸かっているというのも悪くないな。

 思い返してみれば、勇者パーティーにいた頃からずっと慌ただしい毎日だった。

 ……俺がいなくなって勇者パーティーは無事やっていけているだろうか。

 想いにふけっていると垣根の向こう、女湯の方から声が漏れてきた。


「わぁ〜。王女さまのおっぱい、大きいですねぇ〜」

「きゃっ。何をするのっ、ターリス。あんっ。も、揉まないでくださいま、んあっ」

「それにこんなに柔らかくて……。これですかぁ〜? このおっぱいがご主人さまを誘惑するのですかぁ〜?」

「あっ、んっ……、ああっ。ターリスっ、そこは……っん、だめっ、なのぉ……っ!」

「へぇ〜。王女さまったら、ここが弱いんですねぇ〜」

「もおお……んっ、だめぇっ! 許してぇ……っ、ください、んんっ、ましぃっ!」


 静かな森の温泉に響くエレノアの嬌声。

 やれやれ、壁の向こうで一体何が起こっているのやら。


………

……


 温泉に浸かってもう30分くらいは経ったか。


「そろそろ上がるか」


 脱衣所の扉を開けたその時。

 俺の目の前に全裸の美少女が現れた。

 濡れた黒いロングヘアー。低い背と細い体つきには不釣り合いに大きな胸。


「ターリス、なんでお前がこっちにいるんだ?」

「えへへ、来ちゃいましたぁ〜」

「来ちゃったって……」

「お背中だけでもお流ししようと思ってぇ〜。私、ご主人さまのメイドなのでそれくらい、いいですよね?」

「はあ、全く……。分かったよ」

「ふふ、やったぁ〜。では座ってください、ご主人さまぁ〜」


 俺はターリスの上目使いに負けて、洗い場の椅子に腰掛けた。

 ターリスは石鹸を手で泡立てると、俺の背中に優しく触れる。

 彼女の細い指が俺の背中を伝う。


「お加減いかがですかぁ〜? どこかかゆいところはございませんか、ご主人さまぁ〜」

「大丈夫だ、ありがとう。……ところで、エレノアはどうしたんだ?」

「えっと、王女さまは……。の、のぼせられたようなのでお休みになられていますよぉ〜」

「そうか。無事で良かった」

「むぅ〜、それどういう意味ですかぁ〜? だいたい、ご主人さまは王女さまのことばかり――きゃっ!」


 短い悲鳴とともに、ターリスが後ろから抱きついてきた。

 背中に何か柔らかいものが当たる。


 ――むにっ。


「おい、大丈夫か?」

「は、はいぃ〜。石鹸を踏んで滑っちゃいましたぁ〜。すみません、ご主人さまぁ〜」

「いや、怪我がないならいいんだ。……ところで、まだ離れないのか?」

「ふふっ、このまま続けますねぇ〜」


 ターリスがそう耳元でささやく。

 背中に触れる柔らかいものが上下に往復する。


「温泉には美肌効果があるんですよね、ご主人さまぁ〜。どうですか、私のお肌すべすべになっていますかぁ〜?」

「……そうだな」

「えへへ、ご主人さまに褒めてもらえて嬉しいですぅ〜。次は前、お流ししますね?」


 ターリスが俺の膝にまたがる。こちら向きで。

 こうして俺は全身洗われたのだった。


………

……




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

[勇者視点]


 一方その頃森の中では勇者ライがドラゴンと戦っていた。

 否、ドラゴンに追われていた。


「うわああああ! 来るなああああ!」


 ドラゴン退治の命を受け、森に訪れた新勇者一行は幸運にも岩山で眠るドラゴンに出くわした。

 しかし、勇者ライは愚かにもドラゴンの頭めがけて剣を振り下ろした。

 どんな金属よりも硬いドラゴンの鱗。当然、通用するはずもなく……。

 眠りを妨げられたドラゴンの怒りは激しく、口から炎を撒き散らし、鞭のような尻尾で周囲の木々をなぎ倒す。

 その咆哮はまさに雷鳴のようだった。


 ――グルルルラアアッ!!


 新しく勇者パーティーに加入した冒険者ふたりはというと、勇者ライのことなど置いてさっさと逃げ出した。


「なんで僕だけがこんな目にいいいいい!」


 勇者ライの無様な叫びが森に響いた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

[エアルト視点]


 ――グルルルラアアッ!!


「ターリス、今の聞こえたか?」

「はい、雷でしょうかぁ〜。変ですね、こんなにお天気なのにぃ〜」

「様子が変だ。行ってみよう」


 俺たちはすぐに服を着て外に出た。

 そして俺たちがそこで見たものは――。


「ドラ……、ゴン……ッ!」


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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