三人称小説18ページ 【最終回・感謝の終焉】
「母さんも、気は強いが心は同じだ!」
「――赤ちゃんの頃」
「初めて俺の指を握ってくれた」
「初めて笑ってくれた」
「初めてこの腕で眠ってくれた」
「初めて寝返りをうった」
「初めてつかまり立ちした」
「初めて歩いた」
「何でも口に入れるし」
「深夜だろうと泣く」
「一つ一つの行動に、親はハラハラするんだよ。しかし同時に嬉しいんだ!」
「毎日が不安と感謝の連続だ!」
「大きくなっても感謝は変わらない」
「仕事中でも気にかかる。幼稚園で泣いてないだろうか?」
「小学校では友達できただろうか?」
「中学校ではいじめられてないだろうか?」
「時が経つのは早いもので、もう高校生か……」
「お父さんに言えない事もあるだろう」
「それでもいいんだ!」
「ただ、これだけは言わせてくれ」
「これまでの16年にありがとう。心揺れる思春期だ。ただの一つも嘘をつかれたことがなかったのは、奇跡に等しいと心得ている」
「最後に、一つだけお願いがある」
「俺はお前を信用している!! だから、お前が、ホントに本当!! 心の底から愛した相手が居るのなら、2回、2回音を鳴らしてくれ。1回だったら、お相手、察しの通りだ」
「2回だった場合、何が何でも!! 世界がひっくり返ろうとも!! 全身全霊をもってその恋を味方し、万が一、万が一にも、裏切られたら―― く!! 終焉だ」
「俺のありったけを受け入れてくれたなら、返事を聞かせてくれ!!」
ドン
扉を閉じたクローゼットの中からでも、二人には父親が土下座をし、頭を床に押し付けた本気が伝わった。
タケルは、ユリがうらやましかった。
ここまで本気の大人を初めて感じ取り、いったいユリはどうするのかと。
タケルがあまりに重い責務の念に駆られていると――。ユリの涙がポタリと手の甲に落ちた。
ひとしずくの涙が、タケルの心身を、理屈抜きで貫き通す。
感極まって抱きしめた。
―――― コン
―――― コン
ヤスオは立ち上がり、真意の丈を吼える。
「その恋、俺は信じる!!! 」
一見を省く事で、盲目の縛りを懸け、ヤスオは家を後にした。
【完結】
ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。
他にも『ばかやろう(たった一つの愛)という作品もありますのでよければどうぞ。
ばかやろうは、小説のタブーに挑戦した感動物語ですが、他所で完結していますので、ググれば最後まで読めます。
このサイトでは他にも短編と『カクテル×カクテル』という9年がかりで考えた世界初の試みを織り交ぜた長編を投稿予定です。
もし、あなたに自信作があるようでしたら勉強したいので、私に読ませていただけると有り難いです。
ありがとうございました。
by ネギモバ