デモンストレーション
全長200メートルはありそうな巨大戦艦が、異世界の海に浮いている。
サイコロ部屋があったのは崖の上。
その巨大な鉄の塊の全貌を俯瞰するにおいて、絶妙な位置と角度と距離だ。
もちろん、だからこそこの場所が転移用として選ばれたのだろう。
『おおー、おおきーい』
アリアは素直に感心している。
「戦艦とは思いませんでしたね……」
リーンはどうだろう、驚き半分呆れ半分といったところか。
「どうじゃっ――!」
エイヴは見たかとばかりにドヤ顔をしている。
「おう。素直にすごい……感心する……」
「ふふふっ、そうじゃろう? 本当は進水式から見せたかったんじゃがな」
驚愕した後、疑問が湧いてきた。
「どうやって造ったんだ、こんなもん……」
戦艦。
言葉にすれば漢字二文字だが、実際はとんでもない存在だ。
世界一周を旅する豪華客船と似たような大きさがある。
これは個人が造れるレベルを遙かに超えていると思う。
しかも、俺たちがこの世界に来てまだ2ヶ月程度しか経っていないのだ。
ゼロから造ったと言われるより、地球から転移させてきたと言われる方がまだ理解できるくらいだ……。
「無論、魔法で、じゃぞ?」
で、出たよ、魔法万能説……。
「か、加工は、まあ……いいとしよう」
エイヴの力量なら、金属は簡単に溶かせるし、変形も自在にできそうだ。いや、土からテーブルやイスが形成できるなら、金属もそうやって変形させることすら可能かもしれない。
運搬にクレーン車も不要だし、溶接も炎や電撃魔法で軽くこなすだろう。
……設計図があれば、意外と簡単に造っちゃいそうだな。実際あったのだろう。少なくとも写真くらいは。
ただ、ひとつ問題がある。
「この大量の鉄だか何だかの金属はどうやって集めたんだよ……?」
正確な量はわからないが、たぶん必要な資材は数万トンは下らないはずだ。
「はっはっは、もちろん海からじゃ!」
「海……?」
「うむっ! 海には大量の金属が溶けておると本に書いてあったからのっ、魔法で集めたんじゃよっ!」
「え……そんなことまでできるのか……っていうか、それって海中から金や銀をざっくざく集められるってことじゃないか?」
「むぅ……? まあ可能じゃろう……が……今はそんなことどうでもよかろうにっ!」
エイヴが不満そうに詰め寄ってきた。
どうやらもっと戦艦について語りたいようだ。
無限の金の存在は心の底にそっとしまっておこう。
「えーと……あれ、動くの?」
「当然じゃっ! 動かぬ戦艦などただの豚っ、それでは固定砲台にも劣るというものじゃろうっ!」
「そらそうだけどさ……」
魔法で金属を自在に操れるとはいっても、駆動系を造るのは難しいと思うのだ。
魔法がある世界でエンジンがきっちり動くのかどうかすら定かではない。
「ふっふっふ、疑っておるようじゃな。よかろう。では、デモンストレーションといこうではないかっ!」
期待されているようだったので、俺たちはなんとなく拍手をした。
「――アヴォリオよ、用意はよいかのぅ?」
エイヴは満足そうに頷くと、誰かに呼びかける。
「うむ、では――……全速前進じゃっ!!」
そして、エイヴの号令により戦艦が発進した。
徐々に加速して沖へ……というより、外洋へと出ていく。
「え、おおっ……!? け、けっこう早くないか……!?」
『ん。主が走るくらい』
「秒速15メートルほどですね」
「……船としては、どんなもんなんだ?」
「30ノット。時速50キロ――あの規模の船としては大したものなのでは?」
時速で言われるとわかりやすい。車くらいの速度は出ているわけか。
「うむ、現実のスペックに近づけてみたのじゃっ」
「史実……ってことは、やっぱモデルが?」
「アカシよ、お主日本人の風上にもおけんのうっ! 日本人なら一目見ればわかるはずじゃぞっ!?」
「いや……まあ……戦艦といえば大和――だとは思うんだけど?」
「いかにもっ、あれは戦艦大和じゃっ!」
エイヴは満面の笑みで頷いた。
よかった、当たってて。
あと……日本人でも姿を見ただけで断言できるヤツは少ないと思う。たぶん。
「宇宙戦艦と迷ったんじゃがな、はっはっはっ!」
宇宙に行っても戦うべき敵はいないぞ……月にいけるなら行ってみたいけどさ。
「それで、どうやって動かしてるんだ?」
「スクリューを魔具で駆動させているのじゃ」
「ほう……正攻法か、な?」
「ですね」
「動く部分は専門家の手を借りたがのうっ。アヴォリオよ、次は砲撃を見せたいんじゃが――……うむ、頼む」
艦が回頭を始めた。
見えやすいように、元の位置まで戻ってくるらしい。
その間、待ちきれない様子のエイヴがぴょんぴょんというかトントンという感じで体を跳ねさせていた。
しばらくすると、元の位置にまで戻ってくる。
「よしきたっ! ――主砲、発射準備ッ!」
「ちょっと落ち着けって……」
それでもエイヴの指示に従い、巨大な砲身が動き出した。
正面ではなく、斜め前方へと向けて放つようだ。
「よーい――……てーっ!!」
砲撃の音や衝撃はなく、ほとんど無音でオレンジ色の光弾が放たれた。
それが糸を引き、弧を描いて炸裂したのは1キロほど先の中空――。
ここからでもはっきり見えるほど巨大な火柱が立ち上った。
「お、おいぃぃっ!?」
海と空が赤く染まった、かと思うと轟音が熱風を引き連れてやってくる。
衝撃で舞い上がったのか、海水が熱い雨となってパラパラと落ちてきた。
「ふはははははっ! 見たか――っ!」
「いや、いやいやいやっ、見たけど、あれなんかおかしくないかっ!? 主砲とかって、砲弾撃つもんじゃないのかっ!?」
「――今のは上級魔法ですね」
「えええええっ!?」
「まだまだじゃっ! 副砲も――……むっ、限界? ぬぐ……それなら仕方ないのぅ……」
* * *
ユーラシア大陸における日本列島のように、オーステン王国の南西海域には多数の島々が存在している。
島の大きさは大小様々だが、小さな島はその多くが無人島だ。
エイヴはその無人島の中のひとつで戦艦の建造を始めた。
人目につかないよう、島を隠蔽結界で覆って――。
さて、先程見た主砲は魔銃を巨大化させたような機構で作られているようだ。
当然だが、必要量の魔力を供給しなければ発動することはない。
異世界人のドワーフ一家の次男が主砲を担当していたが、どうやら一発で魔力を使い切ってしまったようだ。
寝込む、ところまではいかないが……相当ふらついていた。
彼の親父ぃは魔力を使い切るのは修業になっていいなどと呑気なことを言っていたが……。
現状の装備は主砲に副砲、対空砲などなどがある。
ただし、そういう名前がついているというか、その場所にあるだけで実際は魔砲とでも呼ぶべき兵器だ。
火柱を上げた主砲が当然威力的には一番強い。主砲が火炎系なので、副砲は氷系。対空は細いレーザーが砲の数だけ飛んでいくとか。翼竜くらいなら打ち落とせるだろう。
艦載機というか、そっち方面にはさすがに手が回っていないようだ。金属製の物体を自在に、高速で飛ばすのも難題で後回しだとか。
現在は一通り、というか……ノリノリのエイヴに戦艦内部のほとんどを案内してもらった後、甲板で昼食タイムとなっている。
「このオーバーテクノロジーな感じというか、場違い感がすごいな……まあ、ロマン満載で気分はいいけどさ」
「うむっ! 最高じゃろうっ?」
「ええ。とても貴重な体験ができています。――アカシ様の世界の一端をこうして味わえているのですから」
「ふっふっ……そうであろそうであろ。じゃがな、妾は何もロマンだけで戦艦を造ったわけではないのじゃぞ?」
エイヴは自信たっぷりに言うと、同じく自信満々で付け加える。
「半分は後付けじゃがなっ!」




