場違いな代物
鍛錬やら本拠地となった屋敷の改装なんかを行っている間に11月が終わり、12月に入っていた。
冬シーズンに突入して寒くなってくるかと思ったが、まだほんのりと暖かさが残っている。
逆L字型大陸の半島の南側に位置する王都エストリヒは、緯度的にはおそらく日本の沖縄くらいなのだろう。
暑さ寒さをあまり感じない体とはいえ、過ごしやすい気温であってくれるのはありがたいことだ。
最近、エイヴがにまにましている。
悪巧みが順調なのだろう。
「ふふふっ、もう少し待っておれ」とか「目にもの見せてくれようぞ」が口癖のようになっていることから仕上げ段階だと思われる。
……マジで何してるんだろうな。
期待と不安が半々だったが、お披露目が迫っているために否応にも期待が膨れてきていた。
いや、思い知らせてやると言っているのだからやっぱり不安が大きいかもしれない。
リーンは定期的に魔族軍に顔を出している。
竜人との接触は報告していないようだ。
報告する場合、戦闘の内容も報告する必要が出てくるため面倒くさいのだろう。
俺はというと、新しい攻撃方法を2種類取得した。
まず音というか、空気振動を利用した攻撃。
太鼓を叩いたときに出る低周波でダメージを与えることが可能だった。ただし、アリアに障壁で後方を守ってもらわないと無差別攻撃になる。
次に、光による攻撃。いわゆる太陽拳だ。
スキンヘッドの代わりに鏡を使って太陽光を反射し、相手の網膜にダメージを与える。
まさに光速の領域。攻撃を見たときにはすでに攻撃を喰らっている。お前はもう眠っている、と言いたくなる感じだ。
この攻撃に関しては閃光弾的なモノを造れたらいいのではと思っている。そうなるとやはり無差別だが、こちらはグラサンひとつで防げるだろう。
とまあこのように、いくつか攻撃法が増えた。
けれど集団への範囲攻撃という点では停滞気味だ。
基本的に、範囲攻撃は単体攻撃よりエネルギーを多く使用している。ショットガンをゼロ距離で撃つと最も威力のあるパンチになる、という理論からもそれは明らかだろう。
逆に言うと範囲攻撃を行うには大量のエネルギーが必要なのだが――そのエネルギーを生み出す術が俺には決定的に欠けている。
仮に魔法を使えたとして、魔法で相手にダメージを与えて<眠りあれ>が発動するかというと首を傾げざるをえないが……。
さらに1週間ほどが過ぎ、エイヴの行動がさらに怪しくなった。
幻覚でも見ているのでは、と疑ってしまうくらいに常にブツブツ言っている。
まあその行為自体はいいのだ。端から見れば怪しいが、打ち合わせをしているという立派な理由があり、目に見えない携帯電話で喋っているようなものだから。
ではそれのどこが問題なのかというと、夢中になって喋っているのを見ている俺やリーンに気づくと、慌てふためいて取り繕うところだ。
「なななな、なんでもないぞっ!?」とか「なななな、なにも聞いておらんなっ!?」とか。
うん、怪しいというより微笑ましいといった方が正確かもしれない。
そっちに集中してはと何度か言ったのだが、あくまで個人的な動機による行動であり、本分であるパーティーでの活動が疎かになっていかん、ということで一日の半分以上はこっちにいる。
妙なところで頑固だ。
が、リーンと違って切り替えがまだまだで、何をするにもそわそわと落ち着きがない。
禁断症状っぽい感じだ。
しかし、それもやっと――終わりを迎えた。らしい。
「お、お主ら……きょ、今日の予定は、どうなっておるのじゃ? あ、空いていたりは、せんかのう?」
その日、起床していつものように食堂に集まると、エイヴがそんなふうに話を切り出したのだ。
リーンと顔を見合わせる。
それから、チラチラと上げたり下げたりの訴えかけるような視線に応じた。
「俺たちに見せたいモノが出来上がったわけだな?」
「――う、うむっ! 先日めでたく完成したのじゃ!」
「わかった。俺とアリアは空いてるぞ」
『ん』
「私も構いませんよ。何が見られるのか、楽しみにしていましたしね――」
「そ、そうかそうかっ! ではさっそく行くとしようっ!」
「いやいや、急きたい気持ちはわかるけど朝メシくらい食べていこうよ」
「むぅ……それもそうじゃな。腹が減っては戦はできんと言うからのうっ!」
そうこうしている間に、先日雇った料理スキルが高い使用人さんが朝食を用意してくれた。
食事の時間、エイヴはずっと、うずうずとうきうきとそわそわをまぜこぜにしたような状態だった。
なにしろ、自分の箸がまったく進んでいないことに気づかなかったくらいだ。
俺たちが食べ終えた後に指摘され、慌ててかっ込み喉に詰まらせ水を飲むというテンプレの後に――出発となった。
出発といっても、転移魔法を使うので目的に一瞬で到着するのだが……。
* * *
到着したのは、6畳くらいの広さの部屋だった。
いや、部屋というより倉庫といった印象だ。
ドアも窓もなく、壁も打ちっ放しのコンクリのような状態。ゾネの世界で旅をしていたときに、リーンやエイヴがよく土魔法で創っていた簡易テーブルや椅子の質感に似ているだろうか。
「この部屋、ってわけじゃないよな?
「もちろんじゃっ! ――ワンクッションあった方がいいと思うてのっ!」
いきなり目の前に、ではなく、心の準備をしてから見ろというわけだ。
出来によっぽど自信があるらしい。
何が現れるか――わくわくするし、ざわざわもする。ぐにゃあ~って、ならなければいいんだけど……。
「はっはっはっ! ついに、ついについについにっ! お披露目なのじゃあぁぁぁぁぁっ!!」
サイコロが展開されるかのように、天井が開いて壁がバタバタと倒れていった。
天然の光が場を照らす。
寄せては返し、何かにぶつかって弾ける波の音も聞こえてくるようになる。
「さあ刮目するがよいっ!!」
「な――んだと……!?」
刮目するまでもない。
見つけよう、探そう、とする前に、その威容が視界に飛び込んできたからだ。
エイヴが見せたかったモノ、悪巧みの成果は――海に存在していた。
「まさか……」
俄には信じがたい。
そんなモノがこの異世界の海に浮かんでいるなんて。
現実には見たことがない。
テレビや写真でチラリと見たことがある程度だ。
だが、見間違いはしない。勘違いもしない。
誰でもそれと確信できる姿がそこにある。
「戦艦……!?」




