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運用方針


「妾も本心ではアカシの意見に賛成しておる」

「俺の……?」

「お主と同じで、妾も犠牲は――極力出したくはないのじゃ……」


 敵味方、どちらが命を落としてもやりきれぬ思いばかりが募っていく。

 そんなことをエイヴは語る。


「しかし、人が死ぬのを厭うても、開戦してしまえば血みどろの争いになることは避けられんじゃろう」

「そうですね。互いの存亡を賭けての戦いなら、なおさらに――」


 一方が滅び去るまで徹底的に、か。


「交流も不可能じゃなさそうなんだけど……どうしてそこまでこじれたんだかな」


「エイヴ様の話も気になりますが、先にわかっていることをお話ししましょうか?」

「……どうする?」

「む、構わんぞ。聞いておいた方が良かろう」


「まず、魔女狩りの一件。魔法を使うものへの迫害でただでさえ印象の悪いところに、人族側が戦争を仕掛けたことで決定的に関係がこじれました」


 それだけなら国交が断絶する程度で済んでいたかもしれないが、ここに男系社会と女系社会における思想の違いが影響してくる。


「魔族の大義は、男性に抑圧され、差別されている女性の解放です」

「それって……敵は男だけってことか?」

「掛け値無しにその通りです。作戦行動も男のみを標的としています。兵士として戦に出てくれば性別は関係ないでしょうが――」


「……まずい話じゃのう」

「ええ。東大陸の女性全員が不遇であり不幸であるはずもありませんが……それでも、魔族側の思想が流布されれば共感する女性が多く出るはずです」


 例えば、西大陸で奴隷といえば、基本的には性奴隷の女性を指す。

 借金で売られるのは女性からだし、貴族などに目をつけられ不当に貞操を奪われることもある。


 それでも強かに生きるのが女という性だが、それは我慢と忍耐を重ねることが可能であるだけで、その境遇を認めてはいないし受け入れてもいないだろう。


 基本的にそういう立場の女性に権力や武力は与えられていないが、武力で上回る魔族側はそんな協力は求めない。

 彼女たちが知り得ている情報で十分だし、工作員を引き入れてくれれば万々歳だ。


「――……<アルテミス>は、どっち側なんだ?」

「なるべく早く確認しておかないとまずいでしょうね。<アルテミス>を結成したのが異世界人でない場合、魔族側の策略という可能性が高くなりますから」


 このまま膨らみ続け、そっくりそのまま魔族側につかれたらことだろう。


「異世界人で、魔族側につく可能性だってなくはないしな……」


 女神に頼まれたからといって人族につく必要はないのだ。

 究極的には、良心やら正義やら欲望やらの不確定なモノに委ねられている――チート的な能力をもらっているなら義理や人情を優先する可能性が高いが。


「そちらの確認もしておきましょう」

「ああ、頼む」


「まとめておきますと、魔族の最終目標は人族の国・支配体制の消滅――その後、魔族の秩序の導入です。客観的に見ると、一般人にとってはさほど悪い話でもありませんが――」


「国と敵対する以上、戦は不可避ってことだな」

「しかもじゃ、人族は魔族を『魔法を使う残虐な種族』として忌み嫌っておるからな。協力する者はそう出んかもしれぬし、降伏せず徹底抗戦する可能性もあろう」


 魔族の支配など受け入れられない、ってことにもなるか。

 特に男は支配側にいたのが支配される側になる。王族・貴族たちにとっては屈辱だろう。まあ魔族に統治権が移った状態で、彼らが生存しているとも思えないが。


「ふぅー……んじゃ、まあ話を戦艦に戻すか。どう運用するんだ?」

「うむ……」


 一呼吸置いて、エイヴが宣言する。


「――制海権を取るっ!」


 東西の大陸は海を隔てて存在している。


 リーンやエイヴのような規格外の例外を除いて、両大陸の移動は船が主体だ。

 地球のように大陸間が接近している部分もあるものの、その辺りは岩礁地帯が多く、連続航行距離は変わらないという。


 故に。


「制海権を我らが取れば、戦争は続行不能になるはずじゃ」


「なるほどね……」

「理屈はわかりますが、エイヴ様や私が搭乗していない限り――その理論は成り立たないのでは?」


「うむ……まず間違いなく、こんな艦が浮かんでおれば、相手は上級魔法を撃ち込んでこよう」

「あー……」


 上級魔法――海戦なら強力かつ一方的な護衛能力を発揮するわけだ。

 制海権は現状、戦艦級の軍団長を多く有する魔族が持っていることになる。


「上級魔法の砲撃を防げるのは妾とリーンのみじゃ。アリアの助けを借りればアカシもいけるかもしれんが」

『ん。主砲くらいの魔法なら平気だよ』

「ま、マジかっ……!? すごいな、アリア……!」


 思わずテーブルの上に座っている妖精さんの頭をぽんぽんしてしまう。


『ん……』


「つまりは、相手が脅威に思える艦艇は最大3隻しか運用できんということじゃ」


「だなー。それに……相手に主砲を撃ち込むつもりはないんだろ?」

「無論じゃ。それをするなら、妾とリーンが直接出れば済む話じゃからな」


 主砲は威嚇にしか使わないということだ。

 十分効果はあるだろうが……。


「よって、妾は今後――潜水艇を造ろうと考えておる」

「せ、潜水艦ッ……!?」


「敵船の船底を打ち抜ける程度の魚雷を装備させるつもりじゃ」

「なるほど……」


 沈没させる・航行不能に追い込むにはそれくらいで十分だ。

 相手の船が付与魔法で強化されていても、エイヴやドワーフの技術なら何とでもなるだろう。


「上級魔法が広範囲攻撃といっても、目視されなければ反撃される可能性はかなり低くなるでしょうね」

「敵艦隊の後方へ回り込むとかのう」

「被弾率の低さが潜水艦の売りだろうしな」


 魔法相手でもそれは変わらないようだ。


「そんなわけで、妾はこの戦艦を旗艦とした潜水艦隊を結成したいのじゃが――」

「いいと思うぞ。潜水艦、ちょっと乗ってみたいし」

『わたしも潜水艦見たい』

「同艦です。海中を旅したこともありませんしね」


 戦艦と潜水艦隊で制海権を取る。


 以前エイヴが言っていた通り――マイナスにはならない。

 むしろプラス、全力で支援してもいいくらいの策だ。


 戦争の勃発を防ぐには先制攻撃が必要で葛藤がありそうだが、開戦後でも兵站を絶てる。

 長期化や泥沼化は防げそうだ。


「よし。じゃ、正式にパーティーの方針にするか。潜水艦を運用するメンバーは集めないといけないんだろ?」

「うむ。1隻につき4~10名ほどかのう」

「ずいぶん幅があるな……」

「小隊単位で運用できる程度の魔力消費量に収めたいが、どうなるかはわからんしのぅ――」


「ロマンに走りすぎて凝りすぎないようにな?」

「う、うむっ、善処しようっ」


「それじゃ、エイヴが開発担当で、俺たちは勧誘担当だな」

「な、仲間はずれは嫌じゃぞっ」

「今まで単独行動してただろうに……まあいいけど。士官学校以外で人捜しするときは一緒に行けばいいのか?」

「うむ。妾も面接官になりた――わ、我が子を任せるのじゃからな、当然じゃろうっ」

「ブラックで理不尽な質問はしないようにな……」


「魔力基準での勧誘になりますね」


 といっても、俺は魔力の保有量なんてわからない。


「アリア、魔力の高い人って、わかる?」

『ん、わかるよ。リーンやエイヴみたいに隠せる人はむずかしいけど……』


「え……隠してるの?」

「当然でしょう。本来の魔力をサンドラあたりに気取られていれば、話がもっと大きくなってますよ」


「戦闘レベルの方には……?」

「隠すだけなら影響していませんね」


 だけ――ね。

 女神フィンスターとの会話からしても、なんかリーンはまだ色々と隠してそうなんだよな。まあ、年齢さえ知らないからいいんだけどさ。


 ただ。

 その隠している力を、女神に世界を壊さないでくれと請われた力を――全力で揮うような事態には、絶対になってほしくない。




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