赤い風
「かくして、必殺の赤い風が完成したのである」
『ある』
アリアに風魔法を使ってもらい、そこに唐辛子の粉末を放つ。
すると驚き桃の木、息を吸っただけでダメージを与えられる赤い風が生まれるのだ。
「今後は唐辛子から辛み成分を抽出して霧吹きで散布するなど、不可視かを進めたいと――」
「それは毒を撒いているのと何か違いがあるのでしょうか?」
――ぐふっ!?
毒が散布されたために吐血しそうになった。
「どど、どど、毒ぅっ!? 赤の至宝っ、唐辛子が毒だとっ!?」
「どう考えても用途が毒だと思うのですが……成分を抽出して散布するとなると――催涙ガスのようなものでしょう」
ぐ、正論だ……。
「アカシ様は制圧を考えているのですか?」
「ん~……<眠りあれ>を活かそうとするとそうなるってのもあるけど……まあ、人死にを出したくないのが本音かもな」
「それは味方だけでなく、敵にも――ですね?」
「……ああ」
人が死ぬのは嫌だ。
だから……たぶん、俺は人を殺すことになる作戦を考えるのを本能的に避けている。
「甘過ぎますね」
『主、甘いの?』
「あまあまじゃ。糖度100%じゃ」
「私も人を殺してはいませんし、殺すつもりも必要性も感じませんから、アカシ様のことをとやかくは言えませんが――つくづく戦争向きの性格ではありませんね、アカシ様は」
「まったくじゃ……」
「……わかってるよ」
呆れられても文句は言えないレベルに、煮え切っていない自覚がある。
そもそも、女神フィンスターが2年後に戦争が起きると言っているからこそ、俺は迎撃態勢をとろうとしているのだ。
もしも開戦の情報源が神でなければ――最初に考えたのは、争いを避ける方法だっただろう。
話し合いをするどころか、人間の言葉が通じないような人種が世の中にいることは俺も知っている。
それでも、まずは和平を目指す。戦争を起こさせないように動く。
平和は1翻……じゃない、平和が一番だっ。
戦場を知っている者からしたら、あまちゃん思考もいいとこだろう。
「でも、これだけは言っておく。唐辛子攻撃は本気だと!」
「うむ……効果がないとは言わぬよ……」
「むしろ、効果的ですらあるでしょうね」
唐辛子は誰が何と言おうと毒ではない――ただしハバネロは除く。
ちょっと粉末を浴びようと、ちょっと唐辛子が入った水を飲もうと、ちょっとピリっとするだけだ。
それこそ肝要。
宿主をあっさり殺してしまう致死性ウイルスはそうそう広がらない。
世界を席巻するのは大した症状を引き起こさない凡百のウイルスなのだ。
攻撃にもダメージを受けたことにも気づかれない――俺にとって、それこそが至高の攻撃。
「超上空から振りまけば、唐辛子性雨となって頭皮などに微少ダメージを与え、敵を眠りへと誘うはずだ」
* * *
「――何か楽しいことでもあったの、リーン?」
「まあ。少し」
今日一日、ちょっとにやにやしていた自覚がある。
アカシ様の思考が面白すぎる。
唐辛子を撒く? 辛い雨を降らす?
戦争のことを、軍隊と戦うことを考えていて――どうしてそういう結論が出てくるのか。
意味がわからない。まったくもって面白い。アカシ様が特異なのか、日本人という人種が特異なのか不明だが。
覚悟がないという者も少なからずいるだろうが、私はアカシ様のああいう考え方は嫌いではなかった。
むしろ、相手を殲滅するような作戦を披露していたら、失望していたかもしれない。
強大な力を振るい、敵を全滅させるなんてことは、アカシ様でなくてもできるのだから。
エイヴ様も表面上は呆れていたが、内心では朗らかに笑っていたことだろう。
悪魔たちにとって体制への反逆は必要で仕方のない行動だったが、本心では争いを避けたがっていた。人死にを避けたがっていた。
非道を尽くした天使が相手であれども、だ。
けれど――悪魔たちは最終的には武力による解決を選んだ。
その判断は間違ってなどいない。正しかった。圧倒的に正しかった。武力を用いない解決方法など最初から存在しなかったのだから。
なのに悪魔たちは『犠牲を生まない解決を諦めてしまった』と考えている。
決定を下したエイヴ様も同様に。
だから、自分たちが諦めてしまった道をアカシ様が追うなら――喜びこそすれ怒ったりはしない。
「それで――何か御用ですか?」
「これから暇? ちょっと遊びに行かない?」
「まだ訓練時間中ですよ」
「いいのよ。部下の慰労も仕事のうちなんだから。それに、終わってからだと混んじゃうじゃない――」
「……軍団長がそのような気の抜けたことを言っていて良いのですか?」
軍服を着ていながらやたらと色気を感じさせるこのダークエルフ――サンドラは軍団5万人を束ねる将軍なのだが、基本的にかなりいい加減だ。
まあ、私を勧誘して副官に任命している時点でそれは明白なのだが……。
「他の方を誘ってあげて下さい。このように、私はすでに遊んでいますので」
読んでいる書物を見せると、サンドラは呆れたように腰に手を置く。
「真面目ねぇ――あなた、男とは遊ばないの?」
「それは性的な意味で、ですか?」
ページを捲りながら尋ねると、サンドラは私と同じように土から椅子を作り出して腰を下ろした。
「他に意味なんてある?」
「ないかもしれませんが、まだ日も高いというのに――」
「娼館に昼も夜もないわよ。いつでも薄暗いんだから」
サンドラは足を組むと、艶然と微笑む。
西大陸の特徴として性も挙げられる。
西大陸には、男性から性交を求める権利がないのだ。
夫婦であっても恋人であっても、求めるのは女性からでないといけない。違反すると男性には罰則があり、裁判で悪質・常習だと判断されると去勢らしい。
裁判では偽証を防ぐ制約魔法が用いられるため、女性の不正な訴えで男性が害されることはないそうだが。
こういった社会で暮らしていれば、女性は必然的に奔放になっていく。
とはいえ、生来の気質を押し潰すほどの影響力はなかろうが。
「それで、どうなの?」
「男なら間に合っています」
「へえ、恋人いるのね――どんな男なの?」
「寝取るつもりですか?」
「そういうのも燃えるわねぇ。でも、いくら私でも部下の男に手を出したりはしないわよ」
部下でなければ、手を出すとでもいうのだろうか。
あるいは、部下の女とか。サンドラは兵に人気があるようだから、その中に相手がいても不思議ではなかっりする。
「――ああ、さっきは恋人のこと思い出して笑っていたのかしら?」
「恋人ではありませんよ。主従の関係です」
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