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発見と発見


「ふーむ……」


 使えそうなスキルの名と効果をメモしながら、ページを捲る。


 ここは士官学校の図書室。

 読んでいるのはスキル大全なる書物だ。

 これにはその名の通り、存在が確認されているあらゆるスキルが記載されている。


 休み中ということもあって人がいないので、アリアも実体化して植物図鑑を見ている。

 地球のそれと違い、資料は手書きの絵がほとんどだが、それも味があっていいそうだ。

 ……ちなみに、ページは魔法で捲っている。何気に羨ましい。


 さて、スキル大全だが――。


 攻撃系はさすがに充実していた。

 剣を中心に、あらゆる武器のスキルが記載されている。

 大闘技祭で痛い目を見た衝撃波をぶっ飛ばす系は是非とも覚えたい。


 防御・耐性系は少なめだ。

 これは覚え方の問題だろう。100発攻撃を受けるとか辛すぎるし、必要な状況を作ることがそもそも難しい。

 <呪殺耐性>も、覚えるにはゴースト100体が必要だしな……。


 移動系はそれなりにある。

 <三角飛び>とか<二段跳躍>とかロマン的に覚えたいところだ。


 その他の探知や強化などの補助系や分類できないスキルも多々。

 ユニークらしきスキルも載っている。


 あと、複合スキルなんてのもあった。

 代表的なのは、攻撃系同士を繋いだ連撃系。

 あとは攻撃系と移動系の組み合わせで、飛び込み斬りみたいな感じのがある。


 この大全に載っているスキルを全て覚えるには、一生かかっても足りない。それくらいの量がある。

 これなら、欲しい効果を探して見つからないなんてことは滅多にないだろう。


「けど、さすがに――……なさそうだな」


 俺が思いついたのは電撃作戦だ。

 電撃戦とは関係なく、意味は文字通り。


 金属のネット、あるいは水場などに電気を流し、相手軍に微ダメージを与えて眠らせることを狙う作戦だ


 実現するための障害やら問題がありすぎて、現状ではただの思いつきにすぎない。


 地球ではこんな作戦は使われないだろう。市街戦なら皆無ではないかもしれない、程度のものだ。

 人は靴を履く。それが軍用ブーツでなくとも、靴底の材質は基本的にゴムだ。手でもついてくれない限りそうそう感電なんかしない。

 水場でも、どこにでも電気がある世の中なのだから感電の警戒くらいするだろう。


 この世界でも、その辺りの事情にさほど違いはない。

 当然ながら靴は履いているし、魔法を使う魔族軍の場合は川や水場は浮遊して越えるはずでチャンスがない。


 さらに、いざ実行しようにも電撃を作り出すスキルが少なかったりする。

 属性スキルの中にはあるが、さすがに威力不足。


「あてが外れたな……」


 電撃作戦は一時的に廃棄。

 後々ブラックボックスから取り出すとして、他の方法を考えることにする。


「網を使うなら、電気の他に通せるのは熱だけど……さすがに伝導効率的に厳しそうだ。かといって、力で引っ張り上げるとか無理だしな……」


 <眠りあれ>的には引っかけて転ばせる程度でもオーケーなのだが、地面に隠しておいた網を遠くから引っ張り上げるのはどう考えても腕力的に不可能。

 できるとすれば、せいぜいロープ1本だが、それでは一列しか攻撃できない。一列でもこかせば隙が生まれるかもしれないが……。

 あと、滑車なんかを間に挟んでも攻撃判定が発生するか、確かめなければなるまい。

 衝撃波だとどうなる? 耳元で叫んで相手が眠るかも知りたい。


「……漫画みたく頭が爆発しそうだ」


 爆発……爆発も知りたいな。

 爆発の産物である爆風や礫や砂煙などはどうだろうか。


 砂煙とくれば……砂嵐。


 方向性はそっちがいいのかもしれない。

 攻撃されていることに気づかれず、多くの相手に微少ダメージを与える攻撃ができれば……。


 酸性雨とか?


「そんなスキルはさすがにないだろうな……はは」


 煮詰まってきたので、スキル大全を閉じる。


 ふと、アリアが見ている植物図鑑が目に入った。


 赤い絵の具、赤い実をつけた植物が描かれている。


「……これだ、これしかないっ」

『主?』

「俺は赤石赤司……! ならば使うブツは決まっているじゃないか……!」


 赤い実――すなわち。


「唐辛子……!」


 * * *


「山じゃな……!」


 レガーロシリーズはヴェステン帝国内の防具屋に満遍なく配られているようで、偏りからは工房の位置をあぶり出せなかった。


 だが。


 鍛冶や陶芸といえば、山だ。

 それ以外は許されないし、許さない。

 ……まあ鍛冶にしろ陶芸にしろ日常的に火を使うから、薪を得やすい場所に工房を構えるのが自然なのだが。


 そして、表に出ようとしない姿勢から、その場所は山は山でも山奥がある山深い山の中の山だろう。

 ついでに、そんな場所で暮らすのなら近くに水場があるはずだ。


 そう推測し、渓流沿いに捜索を始めて――3時間ほどだろうか。


 人里から離れた渓谷にて魔力反応を発見した。

 その場所に近づくと、金属がぶつかる甲高い音も聞こえてくる。


「はっはっは、ビンゴじゃっ……!」


 レーダーで金色の球を見つけたときの如くスピードを上げて接近。

 見えた家の前に着地する。


「ふむ。家も工房も質素な造りではあるが……」


 建材それぞれに付与魔法がきっちりとかけられている。

 偶然の産物ではありえない。


「たのもーっ」


 声を張り上げた。


 仕事を邪魔するのは本意ではないが、槌の音はすでに止んでいる。

 あえて引っかかって入ったが、探知用の魔具が使用されていた。

 来客にはすでに気づいているはずだ。


 工房の方から気配が近づいてきた。


「どちら様かいの」


 のそっとした感じで、煤けた顔の鍛冶職人が現れた。


 妾とさほど差がない背丈ながら、横方向はがっちりした体躯。顎には長い髭。

 鍛冶を得意とするドワーフ族で間違いないだろう。


「……お嬢ちゃん、迷子――ではなかろうな」

「無論じゃ」

「こんな場所に何用かね?」


「お主が――お主らがレガーロシリーズの製作者で間違いないかのぅ?」

「ふぅむ……」


 ドワーフ族の鍛冶師は長いあごひげを撫でる。


「いずれ誰か来るとは思うておったがなぁ……立ち話もなんじゃろう、入りんさい」

「うむ。お邪魔するとしようかのっ」


 ということで、ドワーフ族の工房へと入らせてもらう。


「いらっしゃいまし――」

「なんかえらく若い客人だなぁ」

「……ホントだねぇ」


「とりあえず紹介しておこうか、家内と息子2人じゃよ」

「エイヴじゃっ。帝国とは無関係なので悪しからずじゃぞ?」


 名乗りつつも、つい工房内が気になってあちこちに視線を巡らせてしまう。


 さすがにドワーフの工房だった。

 用途が知れない道具や魔具がいくつもあった。


 おおっと、いかんいかん。

 今はちゃんと話さねば。


 ぐいっと気合いを入れて視線をドワーフ一家へと向ける。


「お嬢ちゃんは依頼に来たってことでええんかね……?」

「うむ――っと、依頼内容を話す前に聞いておきたいんじゃが……」


 まどろっこしいのは抜きにして、単刀直入に聞いてしまうことにする。


「もしかすると――お主らも異世界人じゃったりせんかの?」

「むぅ……」


 4人が顔を見合わせた。


 うずうずむずむずしながら待っていると、結論が出た。


「も、というのは――お嬢ちゃんも、という意味でよろしいのかな?」

「うむ。妾も女神フィンスターに人族の助けとなるよう頼まれておる」


 異世界人同士、情報交換を始める――。

 

 この世界に降り立って1年と半、ドワーフ一家はずいぶんと苦労したようだ。


「どうにも偏見がありましてな」


 とは、大黒柱たるアヴォリオの言だ。

 現在この東大陸には普人族以外の姿がほとんどない。普人族中心の社会であり、容姿が大きく異なる種族を亜人種と蔑む者も多い。

 そのため、作った武具を手に国との契約を希望したり、武具を見せて弟子を取ろうとしてもうまくいかなかったらしい。


「あとは魔法だよ魔法……」

「禁忌指定とかどうなってんのって感じだね」


 息子2人は戦慄の面持ち。

 魔法使用の疑いをかけられ――事実だが――彼らは当初いた国を後にしたそうだ。


「偉そうなくせに肝心の技術ときたら、児戯にも劣る有様で……」


 妻はおっとりっぽく見えて意外と辛辣な性格らしい。


 とまあ紆余曲折を経て、今はレガーロシリーズを密かに市場に流している。

 ――ちなみにそのレガーロシリーズ、まだ半人前の息子2人の作だそうだ。


 収入の疑問を尋ねると、今のところ必要ないという答えが返ってきた。

 素材の仕入れは、女神からもらった特典――毎日一定量の素材を大地から創出してくれる魔具で行っているからだという。

 他にも、好きな温度に調節できる高性能な炉や、大量の物品を収納できる魔具などももらったとか。


 話してもらってばかりで申し訳なかったが、愚痴を吐き出しているっぽかったのでよしとしておく。


 一段落したところで、本題を切り出すことにする。


「ここへ来たのは他でもない――お主らに、これを作ってもらいたいのじゃっ」


 英雄の部屋にあった写真資料を見せる。


「なんと精巧な……」


 ドワーフ一家はまず写真に驚いていたが、次にそこに映っているモノに興味を移した様子だ。


「これは、おぬしの世界の……?」

「また別の世界のモノじゃな」

「左様か……いやはや……しかしこれは些か畑違い……」


「案ずるでない。お主らに頼みたいのは本体部分ではなく――」


 妾は文字通りの細かい話に入るのであった。


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