報告タイム
「じゃあ軍に潜入中なのか……」
リーンの報告を聞いて、何してんだかとちょっと呆れてしまう。
諜報的には必須の行動かもしれないので、文句を言う筋合いはないが……。
「ええ。週に2度ほど訓練に出ればいいということになっています」
「それくらいじゃないと困るわな……」
西大陸とは8時間ほど時差がある。16時間か? まあどっちでもいい。
向こうに常時滞在するのではなく、こちらとの二重生活を続けるなら、毎日はしんどいだろう。
「それにしても、よく疑われなかったのう」
「魔法を見せていますからね――」
「ふむ。魔法のレベルはどうだったのじゃ?」
「一般兵が使う魔法はやはり中級魔法までのようです。むしろ特徴的なのは、戦闘用の魔具ですね」
リーンは亜空間から魔具を取り出すと、テーブルに置いた。
「これって……まさか――銃?」
『ん。銃……っぽい』
アリアがしげしげと覗き込んでいる銀色の魔具の形状は、地球に存在したリボルバー式の銃とよく似ていた。
「これは私が再現して作ったものですが――銃と呼んで差し支えないでしょう」
「そうじゃのう」
銃と呼ぶための特徴は、弾を放つ銃口と銃身、それに引き金が存在していること――といったところだろうか。
リーンの出した魔具にはそれらが不足なく揃っているし、加えて、リボルバー的な弾倉機構も備わっている。
「違うのは、発射される弾が金属ではなく魔法であることです」
「魔法を撃つ銃か……」
「ええ。魔族軍では一般兵の通常装備として、これが採用されています」
「これを使うメリットは?」
「同じ魔法を所持者全員が使えることと魔法の発動に詠唱を必要としなくなること――ですね」
リーンは銃式の魔具を手にすると、シリンダー部分を横へずらし、弾倉を露わにさせた。
込められている弾は6発のようだ。
「これらの弾丸はそれぞれ詠唱を肩代わりするための魔具で――」
リーンはシリンダーを元に戻すと、撃鉄を引く。
するとレンコン弾倉が回転した。
撃鉄の位置は勝手に元に戻り、もう一度引くとさらに弾倉が回る。
「このようにして、撃つ魔法を切り替えることができます」
「なるほど……それで、肝心の威力はどうなんだ?」
「使用者が魔具に流す魔力次第です。ただし――」
リーンが銃口を窓へと向けた。
「おい、窓開いてないぞ……?」
と俺が言った瞬間、銃そのものが爆発した。
「どわああっ!?」
銃の破片が礫となって部屋に――飛び散らなかった。
その結果を予期していたリーンが、腕を囲うように障壁を張っていたために。
「魔力を注ぎすぎると暴発します。発動の速度は上がりますが、威力は中級魔法の域を出ませんね」
「へえ……じゃなくて。なんか言ってからやってくれよ、びびるだろ……っていうか、銃が暴発して無傷とかおかしくないか?」
銃を握っていた、というか、銃の残骸を握っているリーンの手はきれいなままだ。
指の欠損はおろか、掠り傷ひとつない。
「私は怪我をして喜ぶアカシ様のようなマゾではないので、自分が怪我をするような行動は取りませんよ」
「いやいやいや、俺も怪我して喜んだことなんか一回もないぞ」
「そうなのですか? 爪で刻まれながら笑っていたように記憶しているのですが……」
『主、痛いの好きなの?』
「そんなことはない。俺に怪我をさせて喜ぶ人はそこにいるけどな」
「それは誤解というものです。怪我を喜んでいるわけではなく、怪我で苦しんでいるのを喜んでいるのです」
なんだそのドS発言は。
「つーか……それ、俺が怪我で苦しんでるって認めてるだろ」
「それもそうですね」
『主……リーン、いじわるだよね』
「まったくだよな」
「アカシがMでリーンがSなのはよう理解できたから、話を戻してくれんかのう?」
「そうですね」
リーンは握っていた魔具の破片をテーブルに置く。
「この魔具の戦力評価ですが――相当人数により斉射された場合、上級魔法に近しい威力になると予想されます」
「まあ……火縄銃でも1000丁横に並んでたらやばいしな……」
その一発一発が中級魔法クラスなら、絨毯爆撃と変わらない威力・状況になるかもしれない。
「今の人族で、対応できるのか……?」
「このままぶつかり合えば、為す術がないでしょうね。軍としてでなく、言葉通りの意味で全滅する恐れがあります」
ぴ、ピンチすぎる……。
「た、対応策は? なんかないの?」
「それを考えるのが、アカシ様の仕事ですよ?」
ぐぬっ……。
「エイヴ様や私の回復・補助魔法で被弾しつつも強引に突破――でも構いませんが、策があるに越したことはないでしょう」
「そりゃね……」
魔法喰らいながら強引に突破とか、それこそドMの誹りを免れないというものだ。
それでもそれしかないとなったらやるんだろうが、それしかない状況でなければ決してやりたくない。
ふぅ、厄介な課題が出たものだ……。
「ああ、それと追加情報なのですが――」
「ん?」
「王やその側近、第13まである軍団の長は、一部の上級魔法を使えます」
「へえ……上級魔法を、ねえ……」
何気なしに頷き、その言葉をゆっくり咀嚼して後、リーンがやばいことを言ったことに気づく。
「ま……マテマテマテッ! 上級ってことはあれか、爆撃クラスの魔法が飛んでくるってことかっ!?」
「そうなります。指揮官が最前線に出るかはわかりませんが、司令部のような後方からでも十分に届くでしょうし、長距離からの先制砲撃もあり得ますね」
あ、いかん……目眩が……。
* * *
私の魔族軍での立場は、サンドラ将軍の副官だ。
副官は私1人だけでなく、他にも10人くらいはいる。
役割的には秘書に近いかもしれない。私の場合はどちらかというと外部顧問に近い形なので、特に何をするでもないのだが……。
「ねえ、アンタさぁ……」
読んでいる本に影が落ちたので、視線を上げた。
訓練していた兵が3人、私を囲むように立っていた。
「将軍のお気にだからってさぁ、ちょーちチョーシ乗りすぎじゃあなーい?」
「そーそー、訓練場で本なんか読んでさぁ、はっきし言ってジャマなんよー」
「……ここは演習場の端ですよ。邪魔にはなっていないと思うのですが」
とりあえず、正論を言ってみる。
「そーいうことじゃなくてさぁ?」
「そーそー、あぶないって言ってんのー」
「ほら、流れ弾とか飛んでくるかもしれないっしょ?」
にやにやと笑いながらそんなことを言う。
ここは演習場の隅、しかも兵舎側であり――こちらへ向けて魔法を撃つことは禁じられている。
軍隊では規律は絶対だ。破れば罰則がある。
まかり間違っても、前方から流れ弾が飛んでくることはない。
「――あーっ」
と、わざとらしくひとりが声を上げた。
「……流れ弾というのは、それのことですか?」
私は前を向いたまま、後ろへ指を向けた。
そこには、兵舎側から飛んできた水球がある。
もしも当たっていたら、私はずぶ濡れになっていただろう。
「な……」
「……どうなって……」
ああしかし、予想外のことが起きたからといって、その反応は語るに落ちると言うものだ。
「人がいる方へ向かってくるなんて、制御を乱してしまったのでしょうか――ああ、制御といえば」
私は無抵抗主義者ではないし、被虐趣味もない。
なので。
「ひっ!?」
「きゃあっ!?」
「うわっ!?」
3人の目の前、鼻先を掠めるように氷の槍を1本ずつ降らせてあげた。
それだけでなく――。
「ちょ、ちょい、アレ……アレェーッ!?」
「なっ……!?」
「あ、あ、アンタ――!?」
私たちの上、10メートルほどの位置に、100本ほどの氷槍を浮かべておいた。
尖った矛先を、地面に向けて。
「私はこう見えて訓練中ですので、制御を乱されると困るのですが?」
中にはこういう輩もいるが、全体的に見ると魔族軍はとても勤勉だ。
団体訓練においては、魔銃を用いた集団戦闘の練度を高めている。
斉射には数種類のパターンかあり、相手軍は反撃のタイミングを掴みづらいだろう。
個人訓練では、砲台としての役割で求められる魔法だけでなく、近接戦において用いられる強化魔法や戦闘技術も磨いている。
これなら剣士などに切り込まれても、隊は瓦解すまい――もちろん、その剣士の力量次第ではあるが。
「アカシ様は対抗策を考えつくのでしょうかね――」




