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悪巧み?


「本当に買っちゃうなんて……」


 鍛錬場で会ったレオノーレに屋敷を買ったことを話すと、彼女はどこか呆れたような表情を浮かべた。

 日本で同級生にそんなことを言われたら、俺も似たような心境になっただろう。


「――Aランク冒険者ともなると、すごく稼げるのね」

「まあね……」


 こっちの世界ではまだぜんぜん稼いでないけど。

 ……前の世界での稼ぎも冒険者稼業じゃなく、ほとんどギャンブルだった説もあるが。


「メンバーを増やして、もっと手広くやるということ?」

「ん~、それもあるし……」


 隠すことじゃないし、言ってしまってもいいのかな。


「俺たちは魔族と戦うための傭兵団というか騎士団というか、そういうのを作るつもりなんだ」

「……魔族と? どういうこと?」


「一般の人の魔族に対する認識って、どんなもんなんだ?」

「……そうね、西の大陸にいて、魔法を使う残虐な種族――といったところね」


 一般的に認知されるほど接触はしていない、という感じか。


「こっちの大陸に攻め込もうと考えてるとかは?」

「魔族が……? むしろ人族側が攻めてたと思うけど……」


 それはリーンが調べた情報と一致する。

 大陸の西側を支配する国が、魔族を滅ぼそうと西大陸に攻め込んだことが幾度かあるらしいのだ。

 聖戦などと叫んで息巻いていたが、結果はどれも無惨な敗北。


 まあ、当然の結果だろう。

 こちらの大陸では大国かもしれないが、西大陸の面積はその国の10倍以上はある。

 まして海を隔てての侵攻となれば、レベル差どうこう以前に物量差でアウトだ。

 どうして攻めようなどと考えたのか……。


「どこからか、そういう情報が……?」

「確たる筋からね。2年後、大陸の西側から攻めてくる――ってさ」

「にわかに信じがたいわね……」

「覚えておいてくれたらいい。<アルテミス>に入るなら、たぶん避けては通れない話だろうし……」


「もしかしてその情報――<アルテミス>からなの?」

「いや、違う。まあ、情報源は同じだと思うけど」


 神様情報。

 あ、でもまだ確認は取ってないんだっけ……。


「とにかくレオノーレが<アルテミス>に入りたいと思ってるなら、魔族と戦う覚悟もしておいた方がいい」

「……――ええ、そうするわ」


 レオノーレに揺らいだ様子はなかった。

 コンラットさん、どうやら娘さんの決意は固いようですよ。


「それで、得心がいったこともあるしね」

「ん、何に?」

「いくら強い騎士団を作っても、それだけでは女性の権利向上には繋がらないでしょう?」

「その騎士団が活躍する場が必要……ってことか?」

「ええ。女性の地位向上と、魔族と戦うこと――どちらの目的が先にあったのかはわからないけれどね」


 まあ一挙両得として、行動を始めたのだろう。 

 なんとなくだが確信した。

 <アルテミス>を作ったのは同郷の――日本人である、と。


「ところで、リーンさんとエイヴさんは何をしているの? ――勧誘とか?」

「たぶん……2人とも悪巧み」


 * * *


 西大陸を訪れるのは今回で6度目。


 私は徐々に内陸へと移動しつつ、魔族の調査や資料の収集を行っていた。

 この大陸が戦地となる可能性は高くはないが、念のため地図類も収集している。


 いずれアカシ様にも報告することだが、東大陸とは思想・文化が大きく異なっていた。


 人族の東大陸を男尊女卑とするなら、魔族の西大陸は女尊男卑の世界だ。


 まず、王が女性と決まっている。

 そして王以下、統治に携わる地位も女性が占有しているのだ。


 軍も同様だ。

 将軍から下士官に至るまで、ほぼ女性で構成されていた。


 男性の基本的人権が侵害されているというほどではないが、男性は政治軍事には関われない方針・体制になっている。

 これは東大陸よりむしろ極端な状態かもしれない。


 いつからこうなったのかは定かではないが、東大陸の思想に端を発していると推測される。


 東大陸には、魔法を使う者・魔法を得意とする種族の排除を奨励していた時期がある。

 排除の手段は殺害か追放――その追放先が西大陸だったのだ。

 また、魔法使用者に対する迫害から逃れ、自ら西大陸へと向かった者も少なからず存在している。


 ここで重要になるのが、『女性は男性より魔法の素養・適性が高い傾向にある』ことだ。

 つまり、迫害されていたのは主に女性であることになる。地球で言うところの魔女狩りのように。


 この辺りの事情を記した書物は今のところ東大陸では見つかっていないが、西大陸にはそれなりに存在していた。

 片方の資料で結論を出すのはよろしくないが、魔女狩りはおそらくは現実にあったことなのだろう。


 そして。


 この大陸の住人は、迫害され追放されてきた者たちを受け入れた。


 こちらの大陸へ来た人間やその子孫が王となったのか、こちらの大陸の住人が彼らに共感したのか。

 そこからの経緯は――……。


「――ねえ、そこのあなた?」


 酒場のカウンター席で情報を整理していると、甘ったるい声をかけられた。


「……私ですか?」


 私はゆっくり振り返る。

 そこには、妖艶な笑みを浮かべるダークエルフの女性がいた。


 彼女から感じる魔力は、この街で抜きん出て高い。

 これまでのところだが、この大陸で感じた中で最大だ。


「ええ、あなたよ。お隣、いいかしら?」

「どうぞ」


 前へ向き直りながら了承すると、女性は香水の匂いを連れて隣の席に座った。


「――あなた、どこの所属?」


 注文の後、そう問うてきた女性は軍服を纏っている。


 その魔力と重厚なデザインからするに、階級はかなり上のはずだ。

 もっとも、そうでなければ誘いをかけた意味がない――。


「私は軍属ではありません。一介の冒険者です」


 フィンスター様に頂いた冒険者カードは、調査の役に立ってくれた。

 フィンスター様が仰っていたように、世界のどこでも――西大陸でも通用するからだ。


「そう。冒険者なの――」


 気怠げな視線をこちらへ向けながら、グラスを口へ運ぶ。


「それが何か?」

「…………」


 コトッ――。


 女性がグラスを置いた音がはっきりと聞こえた。

 酒場の喧噪が消え、客の注意がこちらへ向いているために。


 もしかするとダークエルフのこの女性――思っていたより大物なのかもしれない。


「あなた、私の副官にならない?」

「……それは軍に入れという意味ですか?」

「そうよ」

「……――生憎なのですが、堅苦しい生活は苦手でして」


 一瞬、店内がざわつく。


「おいおい……サンドラ様の勧誘を断ったぞ」


 どうやら、サンドラというのがこの女性の名前らしい。

 あとは将軍という単語も聞き取れた。


「伊達に冒険者はしていないというわけね。ええ……それならそれでも構わないわ」

「どういう意味ですか?」


「――軍団長たる私の権限で、多くを縛らないことを約束するわ。だから、私の元へ来てもらえないかしら?」

「どうして私などにそこまで拘るのですか?」

「あなたが自分をどう評価しているのかは知らないけど――あなたほどの魔力の持ち主は、全軍を見渡してもそうはいないわよ?」


 サンドラはカラカラとグラスの中で氷を踊らせる。


「魔力は指揮官の適性とは関係ないけれど――あなたの魔力量は軍団長クラスだと思ってくれていい。有事に冒険者として遊ばせておくには、あまりにも惜しいのよ」

「……それではまるで、近々有事が起きると言っているように聞こえますが?」

「そう――受け取ってくれても構わないわ」


 どうやら、人族との戦争は既定路線らしい。


「わかりました。そういうことであれば――……」


 私はサンドラが持っているグラスに、自分のグラスを近づける。


「ありがとう」


 サンドラは魅惑的な笑みを浮かべると手を動す。

 けれど――グラスがぶつかる寸前に、その動きを止めた。


「ああ、そうそう。念のためなんだけど、魔法を使ってみせてくれない?」

「どうしてです?」

「あなた、冒険者なのよね? 冒険者は、どちらの大陸でも活動できるじゃない――」


 疑惑というほどではないのだろう。一種の踏み絵のようなものかもしれない。

 東大陸に所属する者なら、忌み嫌う魔法は使わない。使えないだろうから。


「そういうことなら構いませんよ」


 私は氷を作って、サンドラのグラスの中へ落とした。


「……無詠唱? ――ふふっ、これからよろしくね。名前を聞いてもいいかしら?」


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