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地下墓地=


「すごいな、これは……」

『骨、たくさん……』


 悪霊が出てこなくなったので、俺たちは地下空間の様子を確かめるために穴の中に入った。

 怨霊が多数存在していたことから予想はしていたが――そこにはかなりシュールな光景が広がっていた。


 とりあえず、地面が骨製なのだ。もちろん人骨だろう。

 特に頭蓋骨が目立つのだが、100どころではない数が転がっている。

 この体育館程はある地下空間全てに、死体が詰まっていたのではないかと思えるほどだ。


「――地下墓地、とでも呼ぶのでしょうか」

「そんな上等なものではなかろうよ」

「だな……」


 王やそれに準ずる人物の墓である前方後円墳やピラミッドとは違い、不特定多数の人間の墓だ。

 それも、きちんと埋葬された様子ではない。


「戦争か疫病で発生した多数の死者をまとめて放り込んだのでしょうね」

「疫病……?」

「心配いりませんよ。特にアカシ様はウイルスなど効かないでしょう――」


 体に必要のない異物は<自動回帰>が排除してくれるみたいだからな……。

 いや、でも不気味なこと違いはない。ほら、ピラミッドに立ち入った調査員が次々に謎の死を遂げていく、とかよくあるし。


「現在は火葬のようですが、この時代は土葬だったのでしょう。それでも通常の墓地であるなら、ああはならなかったのでしょうが……」


 こうするしかなかったというような事情もあったのだろうが……。


「こんな葬られ方じゃ、化けて出たくもなるわな……」

「非論理的じゃのう」

「いやいやいや、この状況からどんな論理を導けと……?」


「死に瀕した誰かの魔法によるもの、でしょうね」

「魔法の仕業……だと?」

「おそらくじゃが、な。魔法には決まり事や作法があるが、そのようなことを気にしていられない状況も存在するじゃろう?」

「……そういう状況だと、どうなるんだ?」

「正常に発動せんのじゃよ」


 生存本能や未練――そういったものが元になって魔法が構築され、文字通り命を振り絞った魔力によって、魔法が実行される。

 奇跡が起きることもしばしばあるだろう。

 だが多くは失敗し、その失敗の一部は自他を巻き込み、こうした形となってしまう……と。


「何ともやるせない話だ……」

「魔法が存在する世界の宿命じゃよ」


 誰のものとも知れない骨を踏み砕き、元屍を超えて歩く。

 積み重なった骨の厚みがわからない。下手をしたら骨の中に埋もれてしまいそうで怖い。

 ちなみに、リーンやエイヴは骨を踏まないように浮遊して移動している。ずるいぞ……。


「……2人は下がこんな状態だって予想してたんだろ? よく買う気になったな……」


 この屋敷は無数の髑髏の上に建っている。

 それが平気だというなら神経が太すぎるってもんだろう。世の中には墓地の傍であるというだけで嫌がる人もいるというのに。


「それはのうっ……いや、弔えば良いだけの話じゃからな」

「同感です」


 うん、この2人の神経は太すぎる。


「そういうアカシ様はどうなのですか?」

「俺? 俺は……ここまでだと知ってたら敬遠したかもしれないぞ?」


 怨霊の群れと戦ったせいで感覚が麻痺気味の今でさえそんなもんだ。

 ホント……知らなきゃ良かった的な光景だしな……。


「――アリアはこういう場所は怖くないのか?」

『ん。怖くはないよ。空気が淀んでて、好きじゃないけど』

「んじゃ、さっさと調べてさっさと上に戻ろうっ」


 ところどころに残っているゴーストを倒しつつ、中を調べて回った。

 壁の下の方に、部屋の入り口らしきものがいくつかあった。これから推定するに、骸骨は1メートル以上は降り積もっているようだ。


「しっかし……かなり古そうだよな」


 天井を支える柱は多くが腐食してボロボロになっている。

 ちょっと引っ掻くと木くずがこぼれ、軽く叩けば上の方からパラパラ落ちてくる。

 内部はまだ無事なのかもしれないが……。


「これ、屋敷ごと崩落してもおかしくないんじゃないか?」


 この空間の天井がどういう構造なのかはわからないが、骸骨の存在よりむしろそれが怖い。


「とりあえず、補強はしておきましょうか」


 リーンはすれ違う柱に手をかざしていく。

 どうやら付与魔法をかけているらしい。一瞬煌めきを放った柱は、触っても爪が弾かれるほどに硬度と強度を増していた。

 これなら100人乗ってもだいじょーぶだろう。


 柱をあらかた補強すると、リーンは壁に――というか、空間全体に付与魔法をかけた。

 元の状態がイマイチなので完璧ではないが、100年は保つだろうということだ。


「それで、肝心のこの骨たちはどうしようか?」


 放っておくのは精神衛生上ちょっと……。

 けどこの量では、運び出せたとしても扱いに困る。


「はっはっは、それは妾に任せるがよいぞっ」

「おう、じゃあ頼む」

「うむっ」


 空間の中央にエイヴが立ち、俺たちはその後ろに待機する。


「まずは、浄化じゃな」


 エイヴが指を鳴らすと、暖かな光が地面から溢れ出した。

 光は全てのモノを包み込み、空間を満たすと――やがて淡くなり、薄れていった。


『……ん。空気、きれいになった』

「だ、だな」


 俺には変化がいまいち感じ取れなかったが、たぶんそうなんだろうということで頷いておく。

 邪気が払われたというか、不正な魔法の影響が消えたというか、そんな感じのはずだ。きっと。


 これで、怨霊が再び発生することはなくなったのだろう。

 が、まずはと言っていたから続きがあるはずだ。


「次は――皆を塵に還そうぞ」


 エイヴが両手を上に向ける。


 と――そこに巨大な火球が現れた。

 直径は2メートルほどで、太陽の如き輝きを放っている。


「おいおいおい、あんなの出して大丈夫なのかっ!?」


 あんなのぶっ放したら、地下空間どころか星そのものが大ダメージを受けそうなんだけどっ。


『だいじょうぶ。あの魔法の効果範囲は、あの燃えてるように見える空間だけだから』

「ほう……」


 あの小太陽は魔法の待機中というわけじゃなく、すでに効果が発動して発生したものってことか。


「熱を感じないないのもそのせいか?」


 あの魔法は周囲に影響を及ぼしていない。

 超高熱の塊が概ね密封状態の空間にあれば、温度はあっさりサウナを超えるはずだ。下手したら蒸し焼きで、体質がどうのという以前の問題だろう。


「あれは単なる転送魔法ですよ」

「え?」

『ん、あれは転送先が見えてるだけだよ』


 えーと、自分を含めて移動する魔法が転移で、自分以外を移動させる魔法が転送だっけか。


「どこに……?」

「どこでしょうね。上か下か――」


 上って、太陽? さすがにそれはな……。


「名を知らぬ故、供養はできぬが――大地の炎にて安寧の眠りへと送らせてもらうぞ」


 がらがらがらっと音を立て、誰とも知らない人の遺骨たちが浮遊を始めた。

 ――ちょっとしたホラーだが、それはひとまず気にしない方向で。


 骨は天井近くまで浮上すると、向きを変え、エイヴの頭上で輝く火球の中へ、ひいては転送領域へと次々に飛び込んでいく。

 火球に吸い込まれた骨は一瞬にして燃え尽き昇華し、塵へと還る――。


 エイヴの火葬は、1時間ほどかけて終了した。


 * * *


「おつかれ」

「お疲れさまです」

『エイヴ、おつかれー』


「うむっ。肩が凝ったっ」


 1メートルの高さから着地したエイヴは、ぐいんぐいんと腕を回す。

 そりゃあ、ずっと手を上げてたしな……。

 もしかしたら『厳かな感じ』を出していたことによる精神的疲労かもしれないが。


 揉んであげようかと思ったが、肉体的疲労など回復魔法で一発だ。

 情緒がない……俺の体もだけど。


 ともかく、エイヴのおかげで骨はきれいさっぱりなくなった。


 おかげで本当の地面が顔を見せている。

 でもこれって、人の肉が腐って微生物に分解されてできた土っぽいのだが……どうなのだろうか。

 リーンもエイヴもまだ微妙に浮いてるしな……。


「こうしてみると、やはり地下はいいのうっ。ちょっとした秘密基地を作れそうではないか、はっはっはっ」


 発想が少年だ。

 愛読書が少年漫画なので別に不思議でもないが……。


「そっちはまだ家が建っておらんかったなっ。今のうちに可動式の扉を作れば……ふっふ、地面が割れて出現するロボット……たまらんのうっ」


 不謹慎だからと抑えていた妄想が露わになった感じだな。

 しかしまあ、この浮き浮きした様子からするに――。


「エイヴ、この地下空間――実はメチャクチャ欲しかったんじゃないか?」

「そのようですね。その点については、私も同様ですが」

「リーンも?」

「エイヴ様ほどではありませんが――大っぴらに魔法が使えない以上、こういう場所はあった方がいいと思うので」


 リーンの場合はラボ的な用途か?

 パーティーメンバーを増やすことを前提にすると、確かにそういう場所は必要かもしれない。


「さて、怪音の対処はしましたし、今日はひとまず引き上げましょうか」

「だな。おーい、エイヴー」


 飛び回って妄想を逞しくしていたエイヴに声を投げる。

 付与魔法のおかげか、声がけっこう響いた。ちょっとしたコンサートホールっぽいな。


「いっぺん戻らないかっ、そろそろ腹減ってきたしさーっ」

「――むっ? そうじゃなっ、あとでゆっくり……いや、いやいやっ、妾にはまずすべきことが……くっ、しかしこちらも……ぐぬぬぬっ」


 悶絶しながら戻ってきたエイヴと共に、俺たちは屋敷内の地下室へと戻ったのだった。


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