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モグラ叩き


「これを早く何とかしないと住めやしないな」


『怨怨怨怨怨怨怨怒怨怨怨怨怨怨怨怨恋怨怨怨怨~』

 と、そんな当て字で聞こえてくるアンダーグラウンドな声が絶え間なく屋敷に木霊している。

 肉体的なダメージは受けないものの、精神をヤスリがけされているような感じだ。


「では、さっさと解決してもらうとしましょう」


 ん……?

 微妙な言い回しに首を傾げながら、パーティー4人で地下室へ向かう。


 * * *


 地下室はそこそこに面積がある。一般宅のリビングより広いだろう。

 けれど、窓がなく天井が低いせいもあって圧迫感があった。

 背徳感と言ってもいい。なんというか、地下室というと拷問が行われているイメージがそこはかとなくあるのだ。

 が、今はそんなこたぁどうだっていい。


「ぐおおお……」


 頭が割れそうだった。


 発生源に来たせいで、音はさらにおどろおどろしさを増した。

 死界へと誘う死者の手が、床から無数に生えているような幻覚を見てしまうほどだ。


 質が悪いことに、耳を塞いでも怨霊のコーラスは鳴りやまない。

 ガキ大将の悶絶リサイタルを無理矢理聴かされる人たちの気持ちがよくわかる……。


 精神ダメージが肉体にまで影響を与えれば<自動回帰>が修復してくれるっぽいが、回復までタイムラグがある以上<自動回帰>は常時攻撃に弱いという側面がある。

 例えば爪を1秒に1回剥がすという拷問を受けた場合、エンドレスに剥がされ続けることになるわけで。

 その様を想像していると、ちょっと楽になった。苦痛は恐怖で誤魔化せるらしい。


「神聖術とやらを使える者には現場を見せなんだのかのぅ?」

「近年の神聖術は本当に回復魔法のみのようですよ」


 神聖なイメージのある、悪霊の浄化などを行う魔法も使われなくなっているらしい。

 神聖術を使える術者はゴーストバスターとかスイーパー的な仕事はしないのだ。

 動く骸骨や死霊などのアンデッドモンスターの退治に用いられるのは、やはりスキル。炎属性で燃やしたり、光属性で朽ちさせたり。


 しっかしまあ、2人は余裕そうだな。精神防御も高いのだろうか。


「――アリアは平気なのか?」

『ん、へっちゃら』


 アリアも頼もしい。可愛い。


『主、精神防御の補助魔法、いる?』

「えっ! そんな魔法もあるっていうか、使えるんだ?」

『使えるよ?』

「じゃあお願いしよ――」

「ちょっと待って下さい」


 リーンの制止がかかった。


「今後のためにもここは魔法に頼らず、耐えるべきです」

「……耐えてたら、精神防御が上がるとでも?」

「ええ。素の耐性も上がるでしょうし、これは精神防御系のスキルの取得するのに都合の良い状況ですので」


 精神防御系のスキルか。持ってて損はないだろうが……。


「……何よりつまらないですし」

「なんか言った?」

「いえ、別に」

「だよね?」

『つまらないって、言ってたよ?』

「だよね?」

「些細なことはよいではないですか」


「で? こんな状況で耐久24時間とか言われたら泣くぞ? というか、覚える前に病む自信がある……」

「私の予想が間違っていないなら、時間はそこまでかからないはずです」


 そこまで、というのが不安を誘うが……。


「探知によると、この地下室の数メートル下に――空間があります」


 丘陵の内部に、この家よりも広い地下空間が存在しているという――盛り上がっているのだから地下というには語弊があるかもしれないが。


「要するに、この家が建ってる丘は前方後円墳やらピラミッドやら、そんな感じの遺跡だと?」

「そのものずばりです」

「え……ええっと……」


 ずばりって……。

 その2つは遺跡であり――墓。


「論より証拠を――といっても、証拠を見る前に一仕事ありますが」


 リーンの魔法が地下室の隅を、床を静かにぶち抜いた。


 異変は数秒後。

 リーンがこちらへと引き返してくるその途中で起きた。


「――ひ、ひええええっ!?」


 怨霊だか悪霊だかゴーストだかファントムだか知らないが、そんな名前がついてそうな実体を持たない魔物が穴から這い上がってきたのだ。

 1体だけでなく、2体、3体と……うようよわららわと。


 朽ちた服を纏っている風な半透明な体。不気味に揺らめく赤い瞳。

 そして、生者を道連れにしようとするかのような怨嗟の呻き――。


「では、アカシ様――この怨霊の歌に耐えながら100体、倒して下さい」


 と、リーンが亜空間から木剣を取り出し、渡してきた。


「…………え?」


 受け取りながら、ポカーンッとなってしまう。


「属性つきのスキルを覚えたのですから対応できるはずです。<眠りあれ>もありますし」

「<眠りあれ>って……霊にも効くのか……?」

「神にさえ効くのであれば、実体がない程度でその効果から逃れることは不可能でしょう」

「そりゃそうか……いやいやいやっ、じゃなくてさっ! それがスキルの覚え方なわけっ!?」

「ええ。資料が正しければ、ですが。それよりいいのですか? 放っておくと、どんどん溢れてきますよ?」

「うっ……」


 穴から出てきた死霊の数はすでに10を超えていた。

 加えて、床越しだった声が直に空間に響いている……。


「強力な個体が現れたら私が倒しますので、アカシ様はスキル取得のために邁進して下さい」

「ふむ、そういうことなら黙って見物させてもらうかの」

「くっそ……」


 どうやらやるしかないようだ。


『主、がんばって』

「おうっ」


「――反応の差が腹立たしいですね」

「そんなの当然だろ……理由は自分の胸に聞けってなもんだっ」


 いちいち厄介な状況に放り込んでくれるからな、リーンは。

 今回だって、スキルを取得させるためとかじゃなく、面白いからやっているに決まってる。


 リーンが後ろに下がるのを待っていたかのように、怨霊が動き出した――俺に向けて。

 あいつらからすると、俺が一番狙いやすいというか……憑きやすいんだろうなぁ。


 幸い、連中の動きは鈍い。

 ゆらゆら漂っていて秒速50センチくらいだし、水を掻くような両手の動きも大リーグ養成ギプスでも着ているかのようにゆっくりだ。

 触ったらどうなるのかちょっと怖いけど……。


「ふぅ……」


 行くか。

 使うスキルは光属性――<聖光斬>でいいはず。

 ちなみにこのスキル、名前は大層だが光属性を持っている斬撃でしかない。


「成仏してくれぃっ!」


 一足飛びに接近し、白い光を纏った剣で袈裟に斬りつけた。

 手応えは……微妙。あるのかないのかわからなかった。

 それでも、ちゃんと効果はあったようだ。


『グヴォォォ……ォォ……』


 スクワットのような動きで苦しみながら半透明な体が薄れていった。

 そして、断末魔を残し、消失する。


「いけそうだ……!」


 穴から現れるゴーストを次々と屠っていく。

 稀に親玉のようなヤツが出てくるが、それは宣言通りリーンが始末してくれた。


「なあっ、こいつらあとどれくらいいるんだっ……!?」


 早く終わってほしい。一方でスキル取得のためには100体の討伐が必要。

 ちょっとしたジレンマだ。


「1000体ほどはいるのではないかと」

「はっ……!?」


 血の気が引いた。


 が、その心配は杞憂に終わった。


 ほぼ一太刀で倒せるので、悪霊が穴から沸くペースより倒すペースの方が早い。

 結果どうなったかは……わかるな? MMORPGなんかでもよくある光景だと思う。


 沸即斬。


 今回は穴から顔を出した瞬間<聖光斬>でぶっ叩く作業なので、モグラ叩き状態だった。


 途中で何らかの精神防御・耐性のスキルを得たらしく、精神ダメージも緩和され、ますます盤石。

 3時間ほどかかったことを除けば、悪霊退治は大成功に終わったのだった。



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