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買い手募集中


 1月10日の入学日まで、まだまだ日がある。


 俺は士官学校に自主的に通ってスキルを増やしつつ、ホームとなる物件を探していた。

 スキルは順調に増えてレベルも少し向上したが、物件探しはあまり芳しくない。

 幽霊屋敷の割合はともかくとして、校外の物件が意外と少ないのだ。

 現代日本のように交通網が発達していれば校外にベッドタウンもできようものだが、この世界の移動手段は馬や徒歩。

 自宅と店が同じ自営業な人にとっては問題ないが、王城勤めとなると居は近いところに構えるに限るし、王城に近いことがステータスにもなっている。

 貴族が暮らしている邸宅は都市の中央にこそ多いのだ。

 それに都市の外縁部は新しい街という意味に近しい。空きが少ないのも頷ける。


 リーンは各種の情報収集を担当してくれている。

 特筆すべきは魔族の大陸にも足を伸ばしていることだ。

 ある程度まとまったら、報告してくれるらしい。

 苦労するでしょうね、という他人事の感想が耳に残っている。

 魔族側の状況を聞くのが今から怖い……。


 エイヴは相変わらずだ。

 ちょこちょこ出かけていっては悪巧みを進めている。

 順調かと聞いてみたら、ぼちぼちじゃ、と返ってきた。

 大阪人の儲かってまっかの返答レベルに状況が明らかになっていない。

 あと1ヶ月ほどで形にはなりそうだ、ということだけは聞き出せた。

 逆に言うと、エイヴが形にするのに1ヶ月かかる……それがちょっと恐ろしい。


 アリアは雨の日も晴れの日も、見えていても見えていなくてもいつも一緒にいてくれて、俺に癒しと助けを施してくれている。

 アリアも転移魔法が使えることがわかったので、物件探しの時間はずいぶん短縮された。

 物件を見に行って――業者の人は2時間も移動にかかる郊外にはついてこない――帰りは姿を消して宿に転移という流れだ。

 魔法万歳っ、妖精さん万歳っ。


 * * *


「お……?」


『買い手募集中。値段は応相談』


 俺がそんな張り紙を見つけて足を止めたのは、士官学校からの帰宅途中。


「……どうしたの?」


 隣を歩いていたレオノーレが振り返る。


「ああ、こんなのがあってさ」


 なかなか豪華な門に張られた一枚の紙を示す。


「へぇ……ここ売り家なのね」


 レオノーレが門の奥を見上げた。

 3階建てのなかなか立派そうな屋敷の姿。生け垣に囲まれた敷地も広い。


「どこかの貴族が没落でもしたのかな……?」

「……近いわね、学校から」

「…………」


 言われて、通学路的な道を振り返った。

 ここが緩やかな丘の上であることも手伝い、士官学校の姿がはっきり見える。


 士官学校は王都の北西部に位置している。

 今でこそ正門から数百メートルの位置にこうして市街地が迫っているものの、昔はもっと人里が離れていたようだ。


 銃がぷっぱされて弾が紛失し、ヘリが飛行と墜落を繰り返す地球の軍基地ほどではないが――スキルが乱れ飛ぶ士官学校はとてもとても賑やかだ。

 年がら年中、花火が打ち上げられて太鼓が鳴らされているようなもんだ。うん、単純にうるさい。

 好き好んで近くに住もうと考える者は少ないだろう。


「こんなはずでは、って……?」

「ええ。住んでみたら想像以上に暮らしづらかったのかもしれないわ」


 実際、スキルが発生させたと覚しき衝撃音がたまに耳に届く。

 こうしている分には大して気にならないが、屋内だと妙に反響して大きく聞こえたりということもあるかもしれない。


「もちろん金銭事情が理由なのかもしれないけど」

「ふむ、話を聞いてみる価値はありそうだな」


 仮に音が原因でも、リーンやエイヴの付与魔法ならなんとかできるのではないだろうか。

 それがクリアできれば、士官学校に通う俺にとって立地は最高だ。


「ベツィング伯爵……貴族か」


 こんな豪邸を建てるんだから当然だろうけど。


「ってことで――ギルドまでご一緒することになった」


 ちなみに、レオノーレの用事は手紙の投函。

 オンシーズンなら学校がまとめて出してくれるが、今はオフなので自分で出す必要があるのだそうだ。

 出発前には月1みたいなことを言っていたが、週1くらいでは出す予定だとか。授業が始まって余裕がなくなったら、その限りではないみたいだが。


「訪ねる前に、評判くらい聞いておきたいしな」

「その方が良いと思うわ」


 評判が悪い貴族とは絶対に関わりたくない、というのが平民としての共通見解だ。


「状態は悪くないし……いくらくらいが相場かな?」

「詳しくはないけど……2~3000万ジートくらいじゃないの? うちはそれくらいだって聞いたことがあるわ。王都だからもう少し高いかもしれないけど……」

「難があるなら変わらないかもしれないな」


 金貨200~300枚。2~3億円か。

 そう考えると……士官学校の授業料はヤバイな。4年通えば、この豪邸が建ってしまう。

 この大陸の法具は超貴重な骨董品。地球でいうなら超高級なバイオリンみたいなもんだから、さもありなんといったところだが……。


 * * *


「ベツィング伯爵……?」

「士官学校の近くの家を売りに出しているみたいなんですが」


 暫定情報料の銀貨1枚を担当の人に払いながら、そう付け加えた。


「おお、その話か。確かギルドの方にも買い手募集の案内が来てたぜ。ちっと待ってな――」


 待機中、俺は改めてギルド内を見回した。


 王都エストリヒの冒険者ギルドは、王都にあって恥じない存在感を誇っている。大きいし、広く、しかも新しいっぽい。

 受付カウンターは地方の街のような総合窓口という形ではなく、目的・用途ごとにきっちり分けられている。

 最も多く用意されているのは依頼の発注と受注関連だが、物品の買い取りはもちろん、各種関係各所への紹介やら斡旋窓口などもある。

 仕事的にも雰囲気的にも、市役所とハローワークを足して1・5で割った感じだろうか。


 そんな中で俺がいるのは、総合情報窓口だ。

 依頼に必要な各種情報から国や街の情勢等々、色々な情報を時価で売ってくれる。珍しく新鮮な情報なら、売ることも可能らしい。


「おう、待たせたな。コイツだ」


 門に張られていたのより詳しい内容が書かれた紙がカウンターに出された。


「――どうも、地下室から不気味な声や音がするらしい」


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