ざんねーん!
「ところでさ、法具はどういうタイプなんだ?」
入学にあたって――いや、本来なら入学前に調べておくべきことを尋ねる。
「誰でも使えるのか、何か力がないと使えないのか……」
「――両方あるわね。でも、ほとんど法力を使うタイプのはずよ」
「へ、へえ……」
あー……なんか嫌な予感がしてきたな。
法力って、名前が違うだけでつまり魔力のことだろ……?
俺は<自動回帰>のせいで魔力を外に出せない体質だ。
つまり、俺は魔具に魔力を――法具に法力を注げない。
「あのさ……俺も法具って借りられる?」
* * *
さて、皆さん――残念なお知らせがあります。
俺……法具……やっぱり、使えなかったよ……。
「……アカシさん、Aランク冒険者よね?」
「うん、一応ね」
「これまで法具を使ったこと、なかったの?」
「手持ちのスキルだけでやってきたから。まあ、たぶん使えないだろうとは思ってた。それを改めて確認した感じかな……ははは」
『主、手伝うよ?』
うんともすんともいわない剣を持って乾いた笑いを浮かべていると、アリアが肩に現れた。
「う、うし、頼むしっ」
『ん、いくね?』
「おう、ばっちこいっ」
アリアによって法力を注がれた法具が発動した。
剣の鍔からボワッと炎が吹き出し、刀身が赤い炎で包まれる。
「お、おおぉっ……!」
炎の剣だ。
「えっと、どうすればいいんだっけ?」
「100回素振り――よ」
「おし……!」
頭上に掲げた炎の剣を振り下ろす。
ぼふっ。
「…………」
剣の軌道に炎――の残滓が煌めいた。
剣を止めたときには炎がどっかにいってしまっていて……ああでも、すぐに新しい炎が吹き出して剣を覆った。
「……これで、いいのか、な?」
レオノーレに聞いてみる。
風圧で炎が吹き飛ぶという、ちょっとばかり疑問を覚える挙動だった。
「ええ。だいじょうぶよ」
そうらしいので、残り99回の素振りを消火……消化すべく、剣を振っていく。
これで覚えられるのは、攻撃に炎属性を纏わせるスキル――<火炎斬>だ。
希少スキルの範疇に入るようだが、簡単に覚えられるため、他の属性も含めて誰もが取得しているスキルらしい。
ただし、属性を得るだけで攻撃の威力が向上するわけではないので、使い勝手はそれほどよくないとか。
まあ、入門的に覚える通過儀礼的なスキルなのだろう。
* * *
10回ほど余分に数えてから、素振りを終えた。
アリアに法力の供給を切ってもらい、炎の剣をただの剣に戻す。
「さ、いけるかな……?」
スキルの使用を念じながら、剣を構える。
すると、剣の周囲に炎が発生した。
『おー』
「きたきたっ……! ふっ……!」
成功を喜びながら、剣を振った。
先程までの素振りと違っていのは、炎が散らずに最後までちゃんと剣を覆っていたことだ。
法具はただ炎を起こして剣に纏わせただけ。
一方の<火炎斬>は、どうやら別の原理で炎を纏っているようだ。だから風圧の影響を無視して燃え続けることができる――。
「おめでとう、でいいの?」
「おう。さんきゅぅ、レオノーレ」
魔法剣っぽいスキルが使えるようになって、俺的には非常に嬉しい。
とりあえず、属性剣は今日中にコンプリートしてしまおうっ。
――なるほど、ほとんどの生徒が覚えているわけだ。
ちなみに、このように回転率がいい法具ほど借りやすいらしい。
「にしても……これはもう、アリアがいないと士官学校通えないな……」
『ん。いつでもいっしょにいるから、だいじょうぶ』
「……アリアさんって、すごいのね」
「ん……?」
「法具に触れずに法力を注げるだなんて――……」
「……俺にはよくわからないけどさ、やってやれないことはないんじゃないか?」
「簡単にできるならもっと広まっているはずよ。アカシさんみたいに法力を扱えない人もスキルを覚えられるようになるし――上位のスキルを覚えられる人も増えるはずだから……」
法具を発動させて、100回の試行。
この炎の剣くらいなら法力の消費は少ないが、強力な法具であるほど、強力なスキルを覚えようとすればするほど、法力の消費量は多くなる。
加えて、試行回数が多くなれば――。
「ん~……ってことは、姿を消したままやってもらった方がいいのか……できる?」
『ん、できるよ』
アリアの姿を同級生諸君にお見せできないのは残念だが……。
「それじゃ、掛け声か合図を決めとかないとな」
どんなのがいいだろう。光よーっ、とか?
毎回言うのはちょっと恥ずかしいな……。
「えーと、『ゴー』で」
『ごー? ごー。ん、わかった』
法力供給の掛け声を決めたところで、次なる法具を借りに行くことにした。
* * *
「今日は助かったよ、レオノーレ」
「ええ。でも、大したことはしてないわ」
「いやいや、色々教えてもらって感謝してる。俺に何かできることがあったら言ってくれ。俺に、できることな?」
そこは大事なところなので強調しておく。
「そうね……手合わせ、といいたいけど……」
「俺とやってもあんまり練習には……」
旅の最中、一度攻撃してくれと頼まれて攻撃したのだが、俺の剣を止めたレオノーレはやはり寝てしまった。
打ち込み稽古的なものになら付き合えるが、現状のレオノーレでは攻防が成立しない。
「そうよね。なら、野外実習の時、あなたのパーティーに入れてもらえない?」
「……俺の? って、<シエスタ>って意味じゃなく?」
「パーティーを作って、遠征する授業や試験があるのよ。現役冒険者だとリーダーに選ばれると思うわ」
「ふむ……そんなのもあるのか」
リーダーねえ……あんまり適性があるとは思えないんだけどな。
<シエスタ>でもやらされてる感バリバリだし。3人が俺を立ててくれてるから何とかやっていけてるだけだ。
先頭に立って、メンバーを引っ張るとかあんまり……。
でもまあ、現役Aランクともなれば、そんな役が回ってくるのは必然か。
それに、そんな授業があれば、勧誘も自然に行えるかもしれない。
「いいよ、俺のとこでよければ」
「ありがとう、助かるわ」
「ちょっと大げさじゃないか……? レオノーレの実力がどのへんなのかはわからないけど、パーティーに入るくらいでそんなに苦労はしないだろ?」
ちょこっと勝ち気なところで好みが分かれるかもしれないが、コンラットさんの心配もあながち過剰ではないと思えるくらいに見目麗しい少女だ。
我がパーティーにと望まれこそすれ、敬遠されることはないと思うのだが……。
「入るだけなら、ね。その後があまりゾッとしないわ――アカシさん、わかってる? パーティーの活動は野外で行われるのよ?」
「……実際、何か起きたことが?」
「噂ならいくらでもあるわね。それが女の役目とまで吹聴する輩もいるし、それが許されてしまうような風潮さえあるのよ」
「穏やかじゃないなぁ……」
「自衛のためには特定の相手を作ってしまうのが一番なんだけど……それもまた厄介事の種なのよね」
「……どゆこと?」
「女の扱いに慣れた貴族の子息が本気だって、一体誰が断言できるというの――」
「それは……遊びだった、ってことで?」
「そういうこと。相手が遊びだったら、ろくな目には遭わないわ」
なんか溜息が出てくるな……。
「……いっそ、男女を完全に分けるべきなんじゃないか?」
「無難な対応だけど、そうもいかないのよね……」
「どうして……?」
「――貴族の息女が、それもどちらかというと位の高くない家の娘が、士官学校に入るのはどうしてだと思う?」
強くなりたいから――ああ、それは否だろうな。
「――玉の輿狙い?」
「ええ」
「貴族社会の社交場のひとつってわけか……」
「貴族の家に生まれた者にとって、男女の関わりなんてそんなものでしょう?」
「そうかもな……」
結婚は家のためにするものであり、家にメリットのある相手を選ぶ、という考え方だ。
自由恋愛は存在しない。まあそれを否定はしないけど。自由恋愛だけだと出生率の低下を招く気がするし。
「だからこの問題に関しては、解決のしようもないわね……」
「でも……それで平民出が割り食ってるってことだろ?」
「そうね……」
そもそも、平民は貴族相手に強く出れないのではないだろうか。
言いなりとまでは言わないが……泣き寝入りを強いられていておかしくはない。
とりあえず俺にできることは――……。
「パーティーに入れたい子がいたら、言ってくれ」
これくらいのものだろう。




