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向き不向き


 王都エストリヒに入って、3日――。


 依頼を完了させた俺たちは、それなりに忙しく動いていた。

 主にホームとなる物件探しに、だ。


 王都は人口50万人とも100万人とも言われる――ちゃんと数えてないのね――東方最大の都市なので、そりゃあもう色々とある。

 幽霊屋敷とか幽霊屋敷とか幽霊屋敷とかが。

 不動産屋っぽい商売の人に案内してもらうのだが、そんな感じの物件が多いのだ。

 世間知らずのガキどもに売れ残りを押しつけてやろうという魂胆かもしれない。


 まあそこらへんはいいとして、気になったのはその劣化っぷりだ。


 でかい家をという注文だったので、案内された幽霊屋敷はどれも立派……だった。それなりに金をかけて建てられていたように見えた。

 なのに、自然な速度で劣化している。

 それは相当以前から建築に付与魔法が使われていないことを証明していた。


 その流れで武器や防具も見に行ってみたが、やはり新しく製造された武具に付与魔法はかけられていなかった……その判断をしたのはリーンやエイヴだが。

 俺にはそんなことはわからないし。


 魔具――この大陸で法具と呼ばれている――も同様だった。

 過去に製作された物は馬鹿高い値段で売られていたが、製造はしていない。

 壊れれば直す術なし。


 リーンやエイヴがちょっと呆れていた。


 ちなみに、俺は憤慨した。

 魔力があって魔法が使えるのに、生活からほぼ全てを排除してしまうとは。

 ロマンに対する冒涜だ。


 冗談はさておき、由々しき事態だ。

 人族が道具の面でもハンデを負っていることに他ならないのだから。


 どーすんのよ、ほんとに……。


 今日はリーンたちとは別行動を取っている。


 2人はそれぞれ調べ物に行った。

 これまでは護衛としてどちらかが一緒にいたのだが、今はアリアがいるので問題ない。


 で、俺たちはというと――士官学校を訪問していた。

 レオノーレが話してくれた通り、入学自体は困難ではなく、特に試験もなしに入学手続きをすることができた。


 その際、入学金と1年間の学費を前払いした。トータル金貨50枚。

 500万ジートは5000万円なり。高いよ……。医大とかの裏金込み級だ。


 もちろん、その金額の高さには理由がある。


 士官学校ではスキルを覚えられる法具が確保されていて、学生たちはそれらを使って日々スキルの習得に勤しんでいる――のだが。

 前述の通り、法具は現状ほぼ使い捨て。

 直接ぶつけ合うような壊れるような使い方はしないものの、寿命というモノがあり、法具は年にいくつも破損する。

 そうでなくとも、所有する法具の数と質が士官学校の優劣に直結する。

 そのため、入学金やら学費やら出資金の大部分は新たな法具の購入費用にあてられるのだそうだ。少なくとも受け取った入学案内にはそう書いてあった。


「――なら、アカシさんも士官学校に?」

「ああ。そういうことになった」


 来年度入学予定のレオノーレはすでに寮に入り、自主的な鍛錬を始めている。

 たまたま顔を合わせたので、学食みたいなところで話し中だ。


「Aランク冒険者が今さらという気もするけど……」

「ちょっとした……いや、けっこう深刻な事情があってね……」


 状況を好転させる材料が見つかってないのがまずい……。


「それはそうと、ここって別に女子校ってわけじゃないんだよな?」


 士官学校は今月15日に学年末試験を終え、最上級生は卒業。

 他の学年は来年1月10日まで長期休暇中だ。


 それでも校内には訓練に励む学生の姿がそれなりにあった……のだが、女子ばかりで男子の姿がないのだ。


「長期休暇中は――女にとってはチャンスなのよ」

「……ん? どゆこと?」

「法具貸出の優先順位がね、女は低いの。例えば私とアカシさんが同じ法具の使用を希望した場合、アカシさんが優先されるシステムになっているのよ」

「は? なんだそれ、そういうのって普通は早いもん勝ちなんじゃ? あとは成績順とか……」

「――……そんなふうに考える人は、少ないのよ。特に男には」


 士官学校で女が冷遇されている、というのはそのあたりか。


「そういうシステムに根拠がないわけじゃないけどね……同じスキルを覚えようとする場合、男の方が早く覚えられるから」


 男が100回のところを、女なら150回。

 1・5倍。この割合はよほどの才能や特殊な成長スキルでも持っていない限り、変わらないらしい。

 つまり、同じスキルの習得に女は常に男の1・5倍の時間がかかることになる。

 確かに、自然と男優先になっていきそうな厄介な差だ。


 けれど、それではあまりにも――。


「……どうしたの?」

「いや……じゃあ、女は何に向いてるんだろうって、思ってさ」

「……え?」

「男はスキルの習得が早い。なら――女は?」


「……おかしなことを言うのね」

「そうかな……? 男にだけそういった優位性があるのは、それこそ不公平ってもんじゃないか?」


 性差は否定しないが、総合値は同じでないと許されないはずだ。世界創造的に。


「それは……そうかもしれないけど」

「何か心当たりは?」

「心当たりと言われてもね……」


 レオノーレは腕を組み、眉をひそめた。


「例えば、士官学校で覚えるスキルはほとんど攻撃系なんだろ? だったら、それ以外のスキルとか」

「防御系や補助系ということ……?」

「そんなとこ」

「やはり男の方が早かったと思うわ。資料の上では、だけど」

「ふむ……」


 じゃあ、何だろう。

 女が男より優れてる能力がない、とは俺には思えない。


 パッと考えつくのは、魔力だ。

 魔力は男より女の方が高い印象がある。


 もしそうなら、女の優位性は人族の社会から失われてしまった魔法――かもしれない。


 * * *


「……軍事封鎖などは行われていないようですね」


 私は西大陸でおそらく最大であろう港町を眺めていた。


 港には多くの軍船が停留しているものの、船の出入りや人の往来は平時通りといった様子で戦時下とはほど遠い。

 攻める側の緊張感などあるいはその程度なのかもしれないが……。


「もしかすると、まだ戦争という結論に至っていないのかもしれませんね」


 それならそれで好都合だ。

 こうして上から見る分にはどんな状況でも構わないが、歩き回るには平時の方がいい。


 そんなふうに考えながら街へと降り立つ。

 自分の姿が特に不自然でないことを確認してから、物陰で隠蔽魔法を解除した。


 今回の目的は2つ。


 まず、西大陸のことが記された本。

 これは是が非でも入手したい――というか、どんな本でもあればあるだけ欲しい。


 次に、一般に出回っている武具と魔具の質。

 東大陸の人族のそれらと、どれだけの違いがあるかを見ておきたい。


「さて……手早く回るとしましょうか」


 といっても、あてがあるわけではないので適当に見ていくしかないのだが……。


「――……こちらの国は、ゾネ様の世界に近いようですね」


 東大陸では普人族以外の種族をほとんど見かけなかったが、西大陸には多種多様な種族の姿がある。

 最初から分かれていたのか、それとも――そういうことも記された書物があればいいのだが。その点に関しては東大陸の書物も漁る必要があるだろう。


 ゾネ様の世界に近いという印象は、魔法の使用率についても同様に言えた。

 至る所で魔力が使われる気配があり、西大陸では魔法が生活に浸透していることが窺い知れる。


「ただ……」


 概ね慣れ親しんだ街の姿だが、違和感もある。

 すれ違ったり見かけたりする軍属の人間が――女性ばかりなのだ。


 偶々だろうか?


「そういえば、偶然も3回重なれば必然だとアカシ様が言っていましたね」


 どこかの偉い人の言葉だろうか?

 根拠としては頼りなく感じる経験則だが、偶然が続けば必然を疑うべきという訓戒にはなっている。


 どのみち、軍関連の情報は最重要。

 今回は時間に余裕がないので見送るが、今後必ず調べるべきだろう。


 とりあえず武器屋を見つけたので、中を覗くことにした。


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