顔合わせ
<アルテミス>――メンバー全員が女性。
正確な構成員の数は不明だが、100名は下回らないとされている。
狩ってくる魔物から、中核メンバーの戦闘レベルは150以上。
主な活動場所は北の大陸。
そこで素材と経験値を荒稼ぎしているらしい。
先を越された――のはともかくとして。
船なら往復1ヶ月以上かかる北の大陸へ異常なペースで入っていることから、強力な移動方法を所持していると目されている。
西方の国の首都にはすでに支部が存在し、スカウトが熱心に行われている。
東方への進出もすでに始まっていて、オーステン王国にも1年内には必ず来るだろうと言うことだ。
「<アルテミス>の掲げる思想は、女性の地位や権利の向上――だよ」
「それは……軍に限らず、ですか?」
「うむ。女が冷遇されていると、私は娘に煩く言ってきた。こと戦闘面において女が男に劣ることは事実であり、非難していたつもりではないのだが――娘には不公平に思えたのだろうな」
「<アルテミス>に憧れを持ってしまう素地は十分にあった、と」
「そうだ。そしてそのせいで、私はもう娘を止められんのだよ」
「確かに……」
女は冷遇されているから行くなと父は言う。
その待遇を改善するために行くと娘は言う。
議論は打ち止めだ。父が娘を制止するために有効な論理はない。
それでも止めようとすれば『無理だ』と『やってみなければわからない』の不毛な平行線が始まるだけだ。
「正直、娘に<アルテミス>に入ってほしくはない。<アルテミス>の思想は、王侯貴族にとってすこぶる都合が悪いのだよ。味方は増えるだろうが、それだけに敵も多い――」
「そうかもしれませんね……」
「それでも送り出すことには決めたのでしょう?」
「仲違いして出て行かれるよりはいい。士官学校に通っている間に諦めるかもしれないし、<アルテミス>がどうにかなるかもしれない」
「学校に通っている間は安全じゃろうな」
「魔物を狩るような実習もあると聞くが、あの子なら問題ないだろう。懸念があるとすれば、学校でスカウトされることだよ」
「学校で、ですか?」
「<アルテミス>は各地の士官学校にメンバーを派遣しているらしくてね」
いわゆる女性差別は士官学校でもあるために、是正とスカウトを目的に色々と活動しているとか。
「……どんだけ全力疾走なんだよ。感心するわ」
『ん、がんばってると思う』
「いずれ関わることになりそうですね」
「そうじゃのぅ」
「君たちが<アルテミス>に接触を図り、入団するというのなら止めないが……娘を推薦するのは避けてほしいね」
「承知しました」
「……もしも入団が叶ったのならば娘の入団を蹴ってくれるとなおありがたい。報酬も払おう」
「それは約束しかねます。この場で明言しておきますが、<アルテミス>に入団する気は一切ありませんので」
「……そうか」
この人、きつそうな見た目の割にかなりの親バカだな。
「話を逸らしてしまい申し訳ありませんでした。依頼の方は、そちらがよろしければお引き受けします」
「――お頼みする」
「では詳細を詰めましょう。アカシ様――」
「あ、ああ……」
バトンを渡される。
どうせなら最後までユーやっちゃいなよ……。
「陸路か海路ですが、指定はありますか?」
「ひとりならば海路を行かせるところだが、君たちがいるのならば陸路でお願いしたい」
海路は船ごと沈んでしまうのが怖いのだそうだ。
横波一発で海の藻屑となりかねないし、稀に襲ってくる魔物は大陸の魔物より数段強いらしい。
強いだけならまだいいのだが、大王的な大きさで乗られたり船に穴を空けられたりで沈むケースが少なからずあるとか。
巨大なイカとかタコとかは俺も嫌だな……味は気になるが。
「では陸路で」
「馬車はこちらで用意できる。神聖術を使える御者も付けられるが――」
回復魔法ならリーンやエイヴもいけるが、馬車の運行はちょっと怪しい。ゾネの世界では意思疎通が可能な使い魔に頼っていたため、馬に乗った経験があまりないのだ。
俺も何度か挑戦したが、とても人様をお乗せできるレベルではない。外ならミスも許されようが、街中でやると人を轢きかねないのだから専門家に頼るべきだ。
「そうですね。お願いしま――」
バンッ――。
打ち合わせをしていると、ドアが勢いよく開かれた。
「お父様っ、護衛の方がいらっしゃっていると聞きました!」
「レオノーレ――失礼だろう」
「申し訳ありません。けれど、私と旅をする方たちでしょう? 顔見せくらいさせてくれてもよろしいのではないですか?」
「ならば、もう少し身嗜みを整えてから――」
コンラットさんが言いたいのもわからないでもない。
レオノーレという少女は息を弾ませているし、髪も乱している。稽古着のままだし、鍛錬を終えてそのまま来たようだ。
「いえ、私はこれで構いません」
そう言い放って、俺たちの方へ向き直る。
「初めまして。レオノーレと申します。皆さまはAランクの冒険者だとお聞きしました。自己紹介も兼ねて、是非――お手合わせをっ」
そして、キラキラした目で一気にそんなことを捲し立てた。
ふとコンラットさんの方を見ると、額に手を当てていた。
やっちまった、という感じだ。
「――だそうですよ、アカシ様?」
「いやいや、俺はダメだろ。男だし」
というか、ちゃんと勝つ自信がない。
「こういうときのリーダーじゃぞ?」
……エイヴがリーダーだったら、アカさん相手をしてあげなさいとかって言うじゃんきっと。
「こうなっては仕方ない……私からもお頼みする。娘に稽古をつけてやってほしい。もちろん指導料として報酬に上乗せしよう」
コンラットさん、なんだかんだ言ってだだ甘じゃないか……?
* * *
『主、がんばれー』
5分後――俺とレオノーレさんは木剣を持って向かい合っていた。
結局、俺が相手をすることになってしまったのだ。
ふぅ、ともかく切り替えないとな。
あっさり負けてはAランク冒険者の沽券に関わる――。
「よろしいですか?」
「……いつでも」
「では――参りますっ」
レオノーレさんが嬉々とした表情で正面から挑みかかってきた。
……あ、よかった。
余裕を持って目で追える速度に、思わず安堵してしまう。
「はっ……!」
「っと」
木剣が目の前でぶつかる。
剣もちゃんと見えるし、ちゃんと止めることができた。
それだけのことに、ついつい感動してしまう俺だ。大闘技祭では肉を斬らせた上に骨も砕かせてばかりだったからなー……。
レオノーレさんは様々な角度から打ち込んでくる。
その動きはしなやかで、俺の目で見た限りだが、無駄も少ない。
剣を扱う技量は俺と同じくらいだ。<神器適性>の補正分を素で身に着けている。
ただ、身体能力的にはまだまだだった。
レオノーレさんの速さはアッシュは言うに及ばず、ギリアナよりもずいぶんと下だ。力も大したことはなく、俺の方が上だろう。
もしかしなくても彼女はクラス1なのだ――いや、俺もなんだけどそれは置いておく。
大陸に魔物が少ないせいで、経験値を得る機会も少なくなってしまっているのだろう。
それなら――。
<アルテミス>がすでにしていることでもあるが、レベリング作業をすればいい。いわゆる養殖によって上位のクラスを目指してもらえばいいのだ。
基礎能力が強化されれば、身に着けた技量も生きるというもの――。
「ハァ、ハァ……攻撃して、こないのですか……?」
「いや……うーん……俺が攻撃すると、一撃で意識なくなると思うし……」
隠してもしょうがないので、効果を微妙にぼかしながらも宣言しておく。
「そう、ですか……」
プライドを傷つけたかとも思ったが、違った。
「さすがはAランク冒険者です――そうでなくては!」
結局、レオノーレさんがへばって倒れるまで、俺はずっと彼女の剣を受け続けた。
技術的な指導はまったくしなかった――できなかったとも言う――が、短い時間の中でも駆け引きの面での上達が見えた。
体力が切れていなかったら、最終的には何本か取られていたかもしれない。
俺の目などさっぱりあてにならないが、少女にはやはり戦闘の才があるように思えた。
遅くなったため、夕食をごちそうになった。
避けたり受けたりだけしかしていないとはいえ、2時間動いて平然としている俺を見て、コンラットさんとレオノーレさんは信頼を寄せてくれた。
特にコンラットさんはいくら攻められても、一度も攻撃しなかった点を評価してくれたようだ。
……娘さんを傷つけていたらと思うと、ぞっとしないけど。
* * *
「なかなか興味深い話が聞けましたね」
「<アルテミス>……か」
<アルテミス>を結成したのはおそらく――異世界人だ。
「いずれ会ってみたいものじゃのぅ」
目的を同じくするなら、どこかで道が交わるだろう。
「当面あっちはあっちで頑張ってもらうとして、俺としては士官学校を見ておきたいな」
人を集めるにしろ育てるにしろ、参考になるはずだ。
一般的な卒業者の戦闘レベルも知りたい。
「いっそのこと入学してしまいますか?」
「いやいや、いくらなんでもそれは悠長じゃないか?」
卒業する前に、西方で戦争が始まってしまう。
「1週間ほどでやめてしまえばいいでしょう」
うーわー……。
最初から中途退学前提で入るとか……。
「悪くないかもしれぬぞ? 兵士や冒険者を口説くより、学生を口説く方が成功率が高いはずじゃ」
「そりゃそうだ」
すでに生き方を決めた人より、これから決める人の方が誘いやすいに決まってる。
ここは<アルテミス>に倣い、青田買いをしようか?
とはいえ、学生は2年でどの程度まで強くなれるのか……。
経験豊富な人も必要になってくるだろう。
やばい、厄介すぎて眠たくなってきた……。
「それと、本拠地も王都に構えればよかろう」
「ああ……それもあるな」
落ち着いて活動するにはホームが必要だ。
船も買いたいし……いいか、決めてしまっても。
「よし、王都に本拠地を置こう。郊外でいいから、とりあえず広いとこに」
「うむ、合点承知の助じゃ」
『すけ?』
「エイヴ……それ通じると思ってるのか?」
「むぐ……」
呻いた後、エイヴは布団をかぶった。
「明日はもう出発じゃ、早う寝るがよいぞっ」
レオノーレさんたっての希望で、出発は明日に決まったのだ。
こちらに異存はなく、早すぎると訴えたのはコンラットさんだけだったりする。
「……そうだな。俺も寝るか」
俺もベッドに上がって、横になる。
すると、枕元にアリアが降ってきた。
『主、おやすみ』
「ああ。お休み、アリア――」
妖精さんの姿に癒されながら、目を閉じた。




