オーステン王国
人族が暮らす東の大陸は北米大陸を左右逆にしたような形、『L』を逆さにしたような形をしている。
オーステン王国があるのは大陸東部――つまりはアラスカの位置にあたるでっぱり部分で、そこを全て支配している。
面積的には大陸の1割程度だが、国力は大陸において3指に入るようだ。
その主要因は、でっぱり部分と西部の国との国境となっている山脈。
オーステン王国が他国を攻めるには嶮しい山脈を越えねばならない。逆も然りであり、オーステン王国はここ百年間、戦争をしていないらしい。
おかげで、平和惚けはしているかもしれないが、消耗していない分、国力は潤沢なのだとか。
ちなみに緯度的には日本くらいなので、雪に覆われたり寒かったりとかいうことはない。
新異世界生活3日目――たぶん10月13日だろう本日も、過ごしやすい陽気な気温だ。
砂漠でも快適に過ごせる体になってしまったのであんまり関係ないけど。
「とりあえず、この街は端っこすぎて人も少なめだし……首都方向に向かうってことでいいか?」
「それで構いません」
「異議なしじゃ」
「アリアは?」
『ん。主の行くところにわたしもいくよ?』
アリア――俺とリーンとエイヴが3文字なので、3文字縛りで決めた妖精さんの名前だ。
発表したときにちょっとエイヴが拗ねたのだが、頭文字を取って決めたとかではない。辞書を引いて、納得してもらった。
……俺のセンスなんてそんなもんよ。
呼ぶときに親愛の情を込めるからいいんだ。
* * *
「移動前の恒例というか癖というかで……なんとなく来ちゃったな……」
依頼が張られた掲示板の前で、唸る。
強力な魔物が南北の大陸に隔離気味なためか、この大陸にいる魔物はそれほど多くはないようだ。討伐や護衛などの仕事は、ゾネの世界よりもずいぶんと少ない。
ないわけではないので、それはいいとしよう。
考慮しないといけないのは、俺が頼りっぱなしにしてきたリーンとエイヴの魔法についてだ。
はっきり言って、人に見せるのはよろしくない。逮捕しちゃ、されちゃう。
だから、俺たちだけで移動する方がスムーズだし、スピーディーだ。観光ではないのだから、迅速を尊ぶべきかもしれない。
依頼を受けるメリットを挙げるのなら――人脈作り。
何かしらの戦闘集団を作るとして、その規模が大きくなればなるほどに物資が多く必要となる。
持ち運びはリーンやエイヴに頼むにしても、大量購入が可能なルートを確保しないといけない。
活動資金だってしばらくは手持ちでやっていけるが、支出ばかりではいずれ底をつく。継続的な収入源も必要だ。
……あれ? なんか思ってたより大変そうなんだけど。
だいたい俺がすぐに思いついて、できそうなことといったら、シエスタの名刺を作ることくらいだ。そういう習慣がこの世界にあるのかはさっぱりだが。
……なんで高校では経済学みたいなことを教えてくれないんだ。
こういう状況になったときに困るじゃないか……。
何故か日本の教育に八つ当たりをしつつ、依頼書を眺めていく。
コネが作れそうというと、やっぱり商会からか。と、思うも護衛依頼は見つからなかった。
強い魔物との接近遭遇が少ないと、プロを雇う意味も少ないのかもしれない。
商会からの依頼は素材の調達などだ。それも、南北の大陸に存在する魔物の。
難度はAなので、これはかなりの無茶を言っているものだと思われる。危険度の分、報酬も高く設定されているから一攫千金を狙う冒険者はいるかもしれない。
しかし、現地とは海を隔てているため船――そこそこ大きいヤツ――を持ってないとダメだし、運航を考えると強い魔物を狩りまくれるくらいでないとペイできないだろう。
……そういえば、この世界の船っていくらくらいなんだろう?
RPGの定番だし、商会からの依頼を受けるためにも経験値稼ぎ的にも、手に入れるつもりでいた方がよさそうだ。ロマン的には飛行船やら飛空挺の方がほしいけど……さすがにないか。
オーステン王国の首都は海沿いにあるようなので、買うならそこで買えばいいだろう。
「ふぅむ、ギルドからの継続依頼なんてのもあるのか……」
手紙や荷物を他の街へと輸送する馬車の護衛。
「地球でいう郵便や宅配便のようですね」
全国津々浦々に支部が存在するとなれば、そういった仕事を引き受けない手はないな。
そして、低ランク向けの依頼に配達がある。
輸送トラックが馬車で、配達の車やバイクが駆け出し冒険者――こうしてシステム化されていると、冒険者ギルドというより運送会社だな。
「何にもなければこれにしようか」
人集めにギルドを介することもあるはずなので、関わりがあるに越したことはない。Aランクのカードがあるからそれで十分という説もあるが。
さて、残りは個人からの依頼。
数はそこそこにある。アルバイト募集っぽいのが。
冒険者ギルドは人材派遣業にも手を出しているらしい。ゾネの世界でもそんな感じだったけど、戦闘の依頼が減るとよりそう見えてしまう。
『主、主――これは?』
「どれどれ?」
アリアが指を向けている依頼書を見てみる。
「おおー」
そのものずばり、王都までの護衛依頼のようだった。
条件はBランク以上、女性中心のパーティー。
報酬はそれなり。委細は面談時に、とある。
「ただ、条件が気になるな」
「気になりますね」
『だめ?』
「ダメなわけじゃないけど――依頼者が女好きか男嫌いのどっちかっぽい」
この街から王都まで、普通に進むとどれくらいだろうか。
地図の縮尺がいまいちわからないが、たぶん1000キロくらい。
エンドレスダッシュ馬車で1日100キロを移動すれば、10日前後。船旅でもそれほど変わらないだろう。
性格が合わない相手と旅をするには少々長い。
相手が男嫌いで俺だけ黙ってろ的なことなら別に構わない、寝てればいいだけだし。いや、寝てると移動不可だったりするんだけど。
例えば馬車で眠ったら、俺は眠った地点で完全停止して荷車をぶち抜いてしまうだろう。元の世界に戻っても、飛行機の旅とか絶望的だ。車も電車も、居眠りしただけで粉砕ではおちおち乗ってられない。
ちなみに、星々の動きにはちゃんと対応しているらしい。
<絶対睡眠>といい<自動回帰>といい、神様たちはやり過ぎという言葉を知らない。
そんなくだらない概念などどこかに置き忘れてきている、と表現するのが妥当かもしれないが……。
「――ま、聞くだけ聞いてみようか」
依頼書を持って受付へ向かった。
「……パーティーメンバーは3人だけですか?」
「アリアもいますけど」
『ん。わたしもいるよ』
「その子も含めれば男女比が1:3ですね。なら、問題ない……でしょう」
ギルドの紹介状を持って、依頼主のところへ向かうことになった。




