次なる世界へ
そこは以前にも来たことがあるような、実際に前の世界にいたときにジジ神に招かれたところとよく似ていた。
白い世界。
地平線まで――いや、地平線そのものがないかのように、遙か遠くまで白という一色で構成された空間。
「アカシ様、お待ちしておりました」
「おお、やはり来たのっ」
「微妙な長さのお別れだったな……」
「いえ、エイヴ様が来るまで非常に長かったです」
「え……? 時間の流れが違うとか?」
「そういうわけでは。ただ相手をするのが面倒な方がいらしただけで」
「やっほー?」
ひらひらと両手を振っているのが女神ゾネなんだろう。
明るいオレンジ色の髪にジジ神と同じく金の瞳の持ち主で、まあ、美女と呼んで差し支えないだろう。
しかも、これまで聞いてきた印象から外れ、意外なことにも燃えるような、という形容詞をつけて表現できるそれだ。
ああでも、それらはあくまで容姿がそうであるというだけの話だ。決してそれ以上ではない、それ以下でしかない。
「あれれれぇぇ? アカシちゃんてば、なんだか失礼なこと考えちゃったりしてるー?」
そうか、神様は心を読めるんだったな。ばーか、ばーかっ。
「ふうぇぇっ……!?」
罵声を浴びせてみると、女神ゾネはビクッとなって後ずさりしていった。
「アカシ様、微妙に撃たれ弱い方ですので……気持ちはわかりますがほどほどに。話が進みませんし」
「ふうん……って、お前もたいがいじゃないか?」
「ううう、リーンちゃんってばいつもなにげに酷くて……」
「やれやれじゃ。1000年前からちっとも変わっておらんようじゃの。むしろ退化しておるようにも……」
「エイヴちゃんだって、ぜーんぜん変わってないじゃない。身長とか背丈とか、胸とかバストとかおっぱいとか?」
エイヴに向け、胸を寄せて上げて強調し始めた。
「ぐ、ぐぬぬっ……!}
自分のと女神のを見比べたエイヴが唸り出す。
……うーわ、微妙に性格悪いな。
確かにボインさんのようだけど、まだ成長期に入ってない子供相手に自慢とか……大人げない……。
「ゾネ様、そんなことはどうでもいいので、アカシ様とエイヴ様にも説明を」
「……えぇー? またぁ?」
「ですから、最初に注意したでしょう。私に説明しても二度手間だと」
「うぅ……」
がっくりと項垂れる。
「ええっとね、確かー……あ、そうそうー、向こうの世界の住人は人族と魔族に分かれててー、争ってるみたいなんだけどぉ」
「その世界との繋がりからお願いします」
「そこからぁ?」
「当然です」
とりあえず、説明がグダグダだったので要点をまとめておく。
俺たちが送られることになったのは、女神ゾネの親友が管理している世界。
この1行を理解するのに10分以上を要したような気がする……。
で、その世界で人族と魔族の争いが起きている、と。
争い自体は歓迎はしないが否定もしない。
ただ、今回問題なのは――。
「どうもねー? 人族が弱くなりすぎちゃったらしいのよー?」
「……弱くなった?」
「そのへんはー、詳しくはわからないけどぉ……このまま争いが続くと、人族が全滅しちゃうかもしれないんだってー」
おいおい、穏やかじゃないな。
いや、助けを求めてる世界なんだから当たり前といえば当たり前なんだけど……この世界とのギャップは激しそうだ。
「でねー? 人族に味方してくれるコを、パーティー単位でどーんと送って欲しいってことだったからー、あなたたちにしようかなーって……いいでしょ?」
ここに来てる時点で、いいでしょも何もないだろがっ。
「うぅ、わたしも不本意なんだけどぉ……恩があって断れないのよー」
「恩って……神様同士で、恩?」
ジジ神は小遣い稼ぎとか訳のわからんことを言っていた気もするが……。
「えーっとね、この世界の99ぱ……きゅ、はち? うん、7割っ。7割の設定は彼女にしてもらったのっ。こっちに何かあったら助けてネ? ってことで」
ぴき。99パーセントって言いかけたよな、今?
何にもしてないってことだろそれっ。
だいたい99パーセントを7割って言い繕うとか……どんなプライドだよ。中途半端すぎるぞ……。
「だ、だからぁ、誰か送らないといけなくなっちゃっててぇ」
無視か。
「でもでもー、ピンチの人族に味方しないといけないでしょぉ? できるだけ強い子をって……そういうわけでお願いねー?」
お願いしてる態度じゃないだろ……。
いっそのこと命令された方がさばさばできるってもんだ。
「リーンちゃんとエイヴちゃんにはサービスしておくからー」
「……俺は?」
「えーとねー、もうあげちゃってるからー」
「ちなみに、どれを……?」
「死なないやつよっ! 役に立ったでしょー?」
まあ、そうだな……<自動回帰>がなければ龍も倒せなかったし、一応感謝しておこう。
「サービスは辞退します。あなたに弄くられるのはぞっとしませんから。それより、さっさと送っていただけませんか?」
「うむ。妾も辞退しておこう」
「えー? でもぉ……何もしないで送っちゃうと……わたしの沽券に関わるっていうかぁ……」
「へえ、沽券とか意外と難しい言葉知ってるんだな」
「り、リーンちゃんっ、アカシちゃんが馬鹿にするーっ!」
うわー……。
リーンに泣きつく女神。
沽券とか威厳とかどこいった……。
「ああ……はい、すいません。俺も早く送ってほしいです」
「すこぶる同感じゃっ!」
「そ、そう? えーっと、じゃあじゃあ送ってみちゃうわね?」
……大丈夫か、これまで送った経験あるのか? 不安になってきたぞ?
「心配いらないわ。あーやって、こーしてー、えいやっすればいいだけだからー」
教えるのが苦手な感覚派の天才、と良いように捉えておく。
「ええっと、送るときに特典をー……」
「いりません」
「ううぅ、じゃあイクわねー? イクわよー? ばいばーい!」
最後に見たのは、底抜けに明るい笑顔で手を振る女神の姿。
ゾネの世界に三者三様の溜息を残し、俺たちは次の世界へと旅だったのであった。




