釘打ち
「えーと……龍退治って、こんなんでいいんだっけ?」
集中砲火により、ゴムとが……鉄の性質を併せ持つような強靱な皮膚を破る。
肉を僅かずつ抉り、掘り進んでいく。
チェーンソー一発でラスボスをバラバラに、という爽快感とやるせなさはここにはない。
1ダメージずつ地道に与えていくというマゾい仕様だ。
「うむ。ちくちく攻撃万歳じゃ。人間には知恵があるのじゃよっ!」
エイヴ的に問題ないみたいだからいいということにしておこう。
「今度こそ、このままいってくれるといいんだけどな……」
まだひとつくらいトラブルがありそうだ。巨大隕石の掘削でガスが吹き出したように。
「……龍って、毒とかはないのか?」
「む? むう、生き血は危なそうじゃが……それ以外は聞いたことがないぞ?」
「ふむ……肉は食えたりするのか?」
「何たら大橋を吊れそうな強度の肉じゃぞ? 調理できる者がいるとは思えんがのぅ……」
「そらそうだ」
そんな金属的な筋肉が常温でどうやって動いているのか。
電気信号による収縮運動が意外と容易く行われているのかもしれないが……。
「ドラァァァッ!! ウルァァァッ!!」
気合いの声に続き、ゴギャッとか、ガギンッとか、いう音が響く。およそ生物を叩いて出るような音色ではない。背中から出てきたフライパンとバットがぶつかり合わないと。
「カーッ……! ダメだろ、コイツはっ……!」
「――問題発生かの?」
またまた単純な問題にぶち当たったようだ。
頭班は頭蓋骨露出まではいったが、どうも頭蓋骨が分厚く硬すぎる模様。
「首組ーっ、そっちはどうだーっ!?」
「こっちもだめだ! 2層目の筋肉が厚すぎて刃が通らん! 武器がイカれるヤツ続出だ! くっ、コイツ倒せなかったら大損だぜっ……!?」
喉首班は頭部を支える筋肉が太すぎて進行が止まった模様。
まあ5トンはありそうな頭を支えて振り回す部分だし……龍の首は人間ほど急所ではないのかもしれない。キリンなんかが良い例か?
何にしても、討伐作業が止まってしまった。俺は背中でナイフを刺してえぐるというサディスト行為を続行中だけど。
「よろしくない状況じゃのう。お主ほどではないにしても、龍の生命力や再生力もなかなかじゃぞ? このまま傷を放置すれば、元の木阿弥じゃ――」
「そりゃまずいな……」
武器も痛んできてるようだし、このまま押し切ってしまわねば。
頭蓋骨か筋肉か、どっちかを突破しなければ……。
「ん~……」
「――アカシッ、なんかいいアイデアねえのかっ!?」
「ちょっ!? なして俺っ!? みんなも考えようよーっ!」
とりあえず攻撃中断のようなので、頭の上へ移動した。
「……アッシュはやってみたのかっ?」
「ああ。だが、頭蓋骨は掠り傷しかつけられん。傷を何度か重ねてみたが……もうすでに消えかけているな」
「そっか……首の方はどうだった?」
「外側の皮や肉より、粘りがあるな。断つ前に絡め取られる感じだ」
なるほど……。
頭部も頸部も、ここまでは比較的順調に掘り進んでこれた。
奥部に来て通用しなくなったのは――……おそらく、魔法による強化のせいだろう。
鱗や皮膚などより、内部のより重要な、体幹をより重点的に強化していても不思議ではない。……脳みそは最重要だからもっと硬かったりしてな。
まあさすがにない、はず。
「例の攻撃は?」
「いや……だが、この様子では大した戦果は期待できまい」
威力的にはシュライエンさんなんかのフルパワーとそれほど変わらないくらいか……?
どちらにしても、そのあたりがこの場における最大威力の攻撃。
それが通じないとなると、個人での打開はきついということか。
剥き出しの頭蓋骨の前に飛び降りる。
ベチャッ……!
「ほううっ!?」
下が血でぬかるんでいた。危ういところで転倒を回避。
「オイオイ、危なっかしいな……」
いや、ホントに危なかった……危うく龍とヘッドバット勝負をするところだった。
「とりあえず……ふんがっ!!」
俺も頭蓋骨に試しにぶち当たってみた。
「ぐ……ちょ、ちょこっと、欠けたか?」
ジーンッという手に痺れと引き替えにできたのは、1ミリくらいの穴。
マジか。リーンの付与魔法つきでも貫けないとは。
正式な用途が魔具とはいえ、アッシュの<カタナ>でも斬れなかったからこんなもんか。
それでも傷はついたし、赤龍のナイフの方に欠損はない。強度はこちらが上だ。
足りないのは力。
「……シュライエンさん、ちょっと」
「ン?」
「あんまり、やりたくはないんですけどね……」
うまくいけば、ノーダメで済む。うまくいきすぎるとミンチ肉。失敗してもミンチ肉だ。
「このナイフが釘で、シュライエンさんの槌が金槌ってことで」
露出している頭蓋骨からなるべく滑らなそうな、平らな部分を探してナイフを立てる。
打つときにずれてはいけないので、釘を打つときにそうするように柄は握ったままだ。
「なるほど、ソイツを打ち込むってワケか……悪くねえが」
「ナイフはたぶん、保ちますよ。ナイフは」
危ないのは俺の手だ。
失敗したら人差し指を金槌で打ってアイタタタとかいうレベルでは済まない。
「試してみる価値はあるな」
「頭蓋骨の厚さがナイフ以下ならいけるはず」
「よし、いっちょやってみっか……!」
「あ、最初はちょっとお手柔らかに」
「オウよ、ちゃんと固定しとけよ?」
右手でナイフをしっかり握り、シュライエンさんの指示で角度を微調整。
「まずは軽めにイクぜ――」
2メートルを超える巨体が、餅つきの杵の倍くらいは楽にある槌を振りかぶる。
やややっ、やっべえぇっ!?
そのド迫力っぷりに目を瞑りたくなる。
が、インパクトの瞬間――は見えないだろうが――攻撃の始動くらいは見ておかなければ心構えができない。
「ウッ、ラァァッ……!!」
軽くといいつつ、俺の目には追えない速度で振り下ろされた。
――ギギギンッ!!
ナイフの底も槌の打撃部も平らなので、ずれることなく打ち合わさり、ハンマーの圧力がきっちり切っ先に集中して骨へとぶつけられた。
「つううぅっ……!」
それでも衝撃は手に返ってきて、しばらく痺れていた。
「どうだっ……?」
「……ご、5ミリくらい、かな?」
おお~っと感嘆の声。
こんなんでもこれまでの戦果の中では最大だ。
何度か同じことを繰り返し、2センチほど切っ先が刺さったところで――。
「次、全力で打ち込むぜっ……!?」
「りょ、りょーかい……!」
これまではその場での打ち下ろしだったが、今度は3歩ほど下がったところから攻撃が始動した。
ハンマー投げのように体を回転させ、遠心力を利用して先端部を加速――。
「お――オオオオオッ、ラアアアアァァッ!!」
鬼の形相で、神鋼製という巨大な槌が振るわれた。
激突の音は、ない――代わりに、接触部から光が溢れたかのように感じた。
これまでの数倍、いや、10倍にも感じられる途轍もない衝撃に、音のない世界が鳴動する。
強烈な空気の振動によって皮膚どころか、体ごと吹き飛ばされそうな感覚。
――まるで目の前で爆発がおきたかのようだった。
やべっ……!?
そんなとんでもない攻撃の余波を俺の腕力で抑えきるのは容易ではなく――ナイフが傾いてしまう。
グチュルルゥッという不穏な音が、脳に直接響き渡った。
あ……。
その瞬間、目の前に火花が散った。
「……っづぐうぅぅぅっ!?」
「――ッ――……!?」
「おおっ、ぐおおおおおおっ……!!」
やばいやばいやばい、右手からボトボトと何かがこぼれ落ちていく感じがする。
きっと良い具合にペースト状になった、指とかの残骸……。
正直、見たら心が折れそうなので右手から顔を背け、ただただ痛みに耐える。
「――っ――――」
誰かが駆け寄ってきて、周囲に何か言っている。
あれ、これって鼓膜破けてる? そりゃ音が消えるわけだ……。
「い、いえ……もうそろそろ……くっ、ふうぅぅぅぅぅ……」
痛みが消えたところで右手を見る。ある。指がちゃんとある。
にぎにぎしてみる、動作も正常。
「はーーーっ……」
「いくら治るからって……無茶しすぎだろ」
音も聞こえるようになっていた。
「他の人には、任せられん役回りでしょ……」
大槌と頭蓋骨に挟まれ、弾かれたナイフを探し、拾い上げる。
折れてたりしたらまずかったが、無傷。リーンすごすぎる……。
傷の様子は、と。
「……2センチくらい掘れたかな?」
「いけそうではあるな」
「じゃ、シュライエンさん、もっぺん頼みます」
釘打ち再開だ。




