白の消失
避難後、観客席に残ったのは俺たち3人だけ――ではなかった。
逃げる観客と入れ替わるように、闘士たちが入ってきたからだ。
その中には舞台上で開会式に参加していたアッシュもいた。
「――戦うというなら、付き合おう」
「ちぃっ……! 借りを返したいって気持ちはあったけどよ、おつりがきそうな状況だなっ」
観客席にいたデューイもこちらへやってくる。
「ちょっとちょっとみんなぁっ、龍2匹とか意味わかんないって! 逃げようよ~っ!」
うん、逃げていいと思うよ、コレッタ。
そもそも観戦に来ていた彼らには武器がない。素手では龍相手の戦力には数えられないだろう。
「……アッシュ!」
来賓席から駆け下りてきたルシールさんが、アッシュに<カタナ>を投げ渡した。国の関係者がいる席は武器の持ち込みがありなんだろう。
「助かった。ティナはどうした?」
「王女様と一緒に避難させたわ。こっちに来たそうだったけど、護衛の中で最大戦力だし仕方ないでしょ」
高位の霊獣と龍はどっちが強いのだろうか……?
怪獣大決戦みたいな事態になって欲しくはないので、確かめたいとは思わないが。
「――アイツら、なんで動かねえんだ?」
「止まっちゃってるよねー?」
シュライエンさんとお調子者の虎な人がこちらにやってくる。熊っぽい人が本戦まで勝ち抜いたようで、その身内席にいたようだ。
「先程のアカシ様の攻撃で、一時的に麻痺しています」
口からで任せすぎる……。
だいたい俺が攻撃したのって白龍だけだし。
「ほう。さすがっつーべきか?」
「ああ、まあ……」
「そんで、オメーら戦う気か? あの大きさ――ありゃあたぶん、王龍だぜ?」
「ただでさえ亜龍の10倍は強いって言われてる龍の頂点――って、話だよねー」
「放っておくわけにもいくまい」
「ここにはSランク冒険者が100人いるみたいなもんだ。やれるんじゃないか?」
「ハッ、言うじゃねえかデューイ。オレもチャンスみてーに思ってるところはあるがな……武器がねえってのがでけえ問題だぜ――……」
「アカシくんさ、アレあとどんくらい保つの?」
「え、えーと……」
思わずリーンを見てしまう。
リーンはブレスを吐こうとしている白龍を見上げた。
「避難が終わるまで――10分程度は確実に保つでしょう。装備を取りに戻るなら今ですよ?」
「――……そうか。んじゃ、ワリイが行ってくらぁっ! オイッ! 龍どもはしばらくあのままだッ、武器がいるヤツァ取りに行けッ――!!」
シュライエンさんは他の闘士へ向けて叫びながら、駆け上がっていく。
ほとんどの闘士が彼に続いた。
残ったのは俺とリーンとエイヴ、すでに武器を手にしているアッシュと魔法使いのルシールさん。意外にもというか、コレッタ。
あとは知らない顔が4人――全員魔法士クラスのようだ。
「こんなところですか」
バタバタと、4人の魔法士がその場に崩れ落ちた。
「へ……? リーン?」
「眠らせました。なるべく、立つ鳥跡を濁さず――といきたいもので」
リーンが軽く指を動かす。
「なっ――!?」
悲鳴のような声を漏らしたのは、ルシールさんだ。
今度は何がと思う前に、虚空から4体の獣が現れた。
白い虎、青い龍、朱い鳥、玄い亀。
大きさはそれぞれ小型犬くらいだが、前に馬車を引いてもらった<白虎>っぽいのもいるので4体とも霊獣であり、現状の姿は本来のものではなさそうだ。
「――ルシールさん、彼らとの契約をあなたにお譲りします」
「え……? け、契約? 私に? え? なに? どうして?」
いきなりのことにルシールさんは混乱している模様。
「もしもアカシ様が残されたのなら、アカシ様のことをお願いいたします」
「え、ちょ? ど、どういう意味?」
「半強制的で申し訳ないのですが、この契約譲渡はその対価とお考え下さい」
「だ、だからっ、もうちょっとちゃんと説明してくれないと――って!?」
4体の霊獣がルシールさんの傍に移動した。どうやらもう契約の譲渡を成立させてしまったらしい。
「あ、呆れるわね……契約の譲渡なんてことができるなんて、聞いたことないのに……ましてやこんな、高位の使い魔を……4体も――」
「リーン、先程から何の話をしている?」
「龍を倒したとき、私とエイヴ様が消える可能性がありますので」
リーンとエイヴが消える――。
「アカシ様、エイヴ様。時間停止が切れたとき、私が1体を倒します。それで私が消えたら、後のことをお願いします」
「うむ」
「アカシ様、これでお別れになるかもしれません。ご健勝で――あ、杞憂であったなら笑い話にして下さいよ?」
その言葉が終わるのを待っていたかのように、2体の龍にかけられていた時間停止が切れる――……。
「――ゴアアアアァァァァァッ!!」
ブレスを吐く寸前だった白龍は、自分が止まっていたことに気づいた様子もなく、停止中だった動画を再生したときのように、行動を再開させた。
極大の白光が、その口が向いていた観客席へ向けて解き放たれる。
……来賓席の方だな。龍の出現直後、一番慌ただしかったのはそこだし。
まともに直撃していれば、天使の付与魔法がかけられている大闘技場も被害を受けたかもしれない。
だが、破壊の嵐は吹かなかった。
光の障壁がその全てを打ち消したからだ。
「放っておいても困りはしないのですがね。私も壊してしまいそうですし――」
そう漏らしたリーンの姿が消える。
「上じゃ」
リーンは白龍の頭上にいた。
なんか見覚えのある光の槍を構えて。
「さて――どうなるかのう」
リーンの腕が振り下ろされる――。
「うっわっ!?」
リーンの手を離れた光槍は、拘束を解かれたかのように巨大な光の柱となって龍の頭部を襲った。
光柱は音もなく龍の頭を飲み込み、そのまま舞台の端に、場外に突き刺さる――。
「……ど、うなったっ!?」
目を灼いた光が収まった後に残されていたのは、頭部のない白龍と直径5メートルほどの底が見えない穴だった。
「ほ、ホントにやっちゃったよ……」
呆然自失したようなコレッタの呟きの中、首から上を失った白龍は前のめりに崩れ、観客席に倒れ込んで大闘技場を小さく揺らした。
強大な生命力を誇る龍といえど、頭を吹き飛ばされては絶命を免れなかったようだ。
「リーンは……?」
俺はリーンの姿を探した。
けれど、大闘技場のどこにも、リーンの姿はなかった。
「リーンちゃん、ごあんなーい」
いらっ。




