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睡眠男子の異世界行脚 ~眠りあれ~  作者: えいてぃ
第1部 新たな英雄
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魔戦士クラスの戦い?


「エイヴの決勝トーナメント進出を祝って、かんぱーい」


 時は過ぎて、大闘技祭9日目の夜。

 いつもの酒場で祝勝の宴が始まった。


 同じテーブルにはアッシュのパーティーの面々。

 ルシールさんとティナ、お姫様も揃っている。今日は決勝トーナメント進出者に誘われたことを理由にして、公務扱いで堂々と出てきたようだ。

 近くにシュライエンさんとそのお仲間2人もいる。決勝トーナメント進出者は冒険者でいうならSランク相当。同格の相手と話したい願望がある様子。

 あとは連日のタダ飲み目当てで来ていた常連客。だいたい顔馴染みだ。つまり名前は知らない。

 今夜はその常連客たちの奢りだ。なにやらタダ飲みで浮いた金を、奢ってくれていたエイヴに賭けたら儲かったらしい。

 世の中、義理と人情と勢いが大事だな。


 俺も大儲けした。常連客たちの他にもコレッタがたんまり賭けていたようで、優勝オッズは万馬券とはいかなかったが――それでも金貨10枚賭けて50倍ほどついた。

 バトルロイヤルは圧勝だったものの、色物系だったのが幸いしたのだろうと思う。あと年齢とか体格とかもオッズを高止まりさせたっぽい。

 試合予想もそこそこの額を賭けていたから、開始時70枚弱の金貨は着々と増えていき、エイヴの優勝が決まったときにはトータル674枚になっていた。


 6740万リーフ、日本円にして6億7400万円。億万長者だ。夢のようだけど夢じゃない。わーい。


 いやー、エイヴ様々である。


「妾の、妾の扱いが酷いのではないかっ!?」


 幸せな気分で串焼きに手を伸ばしたところで、エイヴからよくわからない文句が飛んできた。


「ちゃんとお祝いしてるだろ。みんなも心から祝ってるぞ?」

「それは――それはわかっておるっ! 妾が言いたいのはそういうことではなくてっ!」


 小さい手がバンバンとテーブルを叩く。


「だってさ、どの試合も身の蓋もなかったろ……」

「む……?」

「バトルロイヤルから予選トーナメント決勝戦まで徹頭徹尾、パクリ――でしたからね」

「――ぐぬっ!?」


「かめかめと言いながら魔法撃ったり、ごむごむと言いながら腕が伸ばして見せたり……」

「魔界の炎と言って黒い炎龍を出してみたり、氷の粒で相手を氷漬けにしてみたり」

「最後は相手を金縛りにしてからたこ殴り。決め台詞は、そして時は動き出す――だろ?」

「ぬぐぐぐっ……」

「いや、工夫したのは認めるよ。どれもこれも見た目はけっこう派手だったし。特にダイヤモンドダストは舞台上がキラキラして幻想的だったしさー」


 しかも一発KOしておきながら、相手にほとんど怪我を負わせていない。

 エイヴの対戦相手たちは見た目が派手な必殺技でKOされたのではなく、単に場外へ放り出されただけという話だ。


 エネルギー弾は爆発して妙な煙が発生させたが威力は小さく、間違った認識のヨガ技は相手を場外に押し出しただけ。

 炎の龍は相手を飲み込んだまま観客席の下部の壁に激突して黒い影を残したが、対戦相手は龍の尻からポイ捨てされていた。

 氷漬けも厚さ数センチの氷が体表を覆っていただけのようで、吹っ飛ばされて場外に落下した衝撃により粉々になった。


「でも、なんていうか……唐突で脈絡がないっていうか」

「観客が置いてけぼりになっていましたね。きちんと理解できるのはアカシ様と私だけですから、仕方のないことですが――」

「なな、なんじゃとっ……!? 盛り上がらなんだのかっ!?」

「あんまり。ポカーンってのが多かった。たぶん……統一感がなかったせいだな」


 全て違うキャラの必殺技。

 情報戦の様相もあるトーナメント戦では、ある意味で理想的な戦い方ではあるのだが……。


「同じことするにしても、バトルロイヤルの変身ヒーローの格好でやった方が良かった気がする」

「く、くぅぅぅぅ……」

「――八百長を疑われた可能性もありますね。対戦相手があまりに無防備でしたから」


 そう、エイヴの必殺技を喰らった相手は、開始位置から動かなかった。

 エイヴが魔法で相手を拘束していたからだ。

 首から上は動かせて、恐怖に歪んでいく表情は真に迫っていたので、その疑い自体は消えていったようだが。


「ま、エイヴが楽しめたのならそれでいいんだろうし、何よりも漫画への愛が感じられたのは日本人の俺としては嬉しい」

「……うむっ! 妾の中には日本文化への愛が溢れておるからなっ! しかし……そうか……客には受けなかったか……」


「客はよー、血湧き肉躍る戦いを見に来てんだぜ? 戦いを、だ。――余裕あんなら、次はそのへんも演出してみろよ」


 と、後ろで話を聞いていたシュライエンさん。2回言ったところは確かに大事なところだ。


「そ――そうじゃなっ! 決勝トーナメントでは客を沸かせてみせようではないかっ、はっはっは!」


 いつだってヒーローは苦戦する。最初っから必殺技使えよ、は禁句なのだ。

 競馬漫画での主人公馬の脚質が追い込みなのも、先行して逃げ切っちゃったらドラマが足りないからだ。


 それをやったらどうなるかというのが、エイヴの試合に対する観客の反応だろう。


「ふむふむ……やはり序盤は苦戦すべきか……」

「相手の技を余裕で受けるってスタンスも悪くねえと思うぞ」


 エイヴはシュライエンさんやデューイ、常連客たちと盛り上がる展開談義を始める。


「若いですね」

「そうだなー」

「2人は、特にアカシは老成しすぎだと思うが……」


「そのへんはアッシュも大して変わらんだろ」

「そうかもしれん」


 苦笑を交わした後、アッシュは真剣な顔をエイヴの方へ向ける。


「盛り上がらなかった理由は他にもある。――目が利く者ほど声を上げられなかったはずだ。驚愕し、戦慄してしまってな」

「そうでしょうね。全て魔法によるものですが、どれもエイヴ様のオリ――ジナル、ですから」


 元ネタの存在は置いておくとして、それらをエイヴが再現したのは事実だ。

 今回は見てくれだけだったが、同等の威力にすることだってエイヴなら可能だろう。


「魔法を開発できる人材は各国、喉から手が出るほど欲しいはずだ。大会の後、周囲が少々騒がしくなるかもしれない――3人には要らぬ心配だろうが」

「お気遣い感謝しますし、それなりの注意は必要でしょう。パーティーリーダーのアカシ様を籠絡しにくるかもしれませんしね?」

「面白いことのように言うなよ……」


 しかも微妙にあり得る未来だ。

 ノーダメージで本戦まで勝ち進んだエイヴにちょっかいをかけるのが命知らずな振る舞いである以上、外堀から埋めるのがいいわけで。


「相手が最終的に何を用意するのか気になりませんか?」

「いや……用意も何もそもそも要求とかしないし。興味ないで通すから」

「だとしても、食い下がってくるでしょう? けれど、女でも金でも地位でも名誉でもアカシ様は首を縦に振らない――次に何を出してくると思います?」

「普通そこまでいったら諦めるだろ……ああ、だから白旗とか?」

「それもまた、ひとつの答えでしょうね」


 なんだよ、もっと剣呑な答えがあるって?


「エイヴ目的で接触してきたんなら俺にそこまで執着しないんじゃないか?」

「いや、リーンの懸念はそう大げさではないはずだ。各国の魔法研究――その正確な内容や進捗状況はわからないが、エイヴの見せた技量はそれら全てを上回っている可能性が高い」


「……そこまでか?」

「ああ。優れた魔法開発技術は、国によっては霊獣の守護よりも価値を高く見積もるだろう」


 マジ……?


「ルシールから聞いた話では――古に上級に分類されていた魔法を国は未だ再現できていないらしいからな」

「魔法研究、そんなには進んでないのか……」

「いえ、むしろ当然の話です。精霊魔法では、契約を交わした精霊の力量を超える魔法は使えませんから」


「あれ? 精霊って、そんなに強くない……?」

「大精霊というのも存在しますが、どこにでも存在する一般的な精霊に内在する魔力量は普人族とそれほど差はありません。魔力の扱いは遙かに長けていますが」


 ほほう……。

 巨大な魔力の塊がほいほい存在してたら怖いから、そんなものなのかもしれない。


「精霊はリーンたちと同じ方式で魔法を使っている。けど、魔力量的に規模が限られる、と」

「ええ、一般精霊は上級魔法を使えない。それなのに現在の魔法研究は、中級魔法の延長線上に上級魔法がある、という考え方なのです。もっと言えば、上級魔法の詠唱を探しているわけですね」


 そんなものは最初から存在できない。

 なら、開発に行き詰まるのも当然だ。進むべき方向がそもそも間違っている。


「うーん……でも、そのへんはエイヴじゃなくても、エルフとか魔法が得意な種族に協力を求めれば済むんじゃ?」


 エンデ領主のユルキナさんも、翼竜を倒せるくらいだから上級魔法を使えるはずだ。


「上級魔法は戦術・戦略級魔法とも言えますからね――争いを嫌う長命種は広めることを厭うでしょう」

「前にルシールさんと話したとき……リーンもエイヴも、そこんとこはあんまり気にしてなさそうだったけど」


「精霊の魔力量は、普人族とそれほど変わらない――か?」


「ああ……精霊が上級魔法を使えないなら、それと同程度の魔力量じゃ……」


 上級魔法は使えない。

 もちろん使える者も中にはいるだろうし、魔具などを利用すれば使うことも可能かもしれないが……。


「実は、エルフなどにもそれが当てはまります」

「……え?」

「そもそも、上級魔法を使えるエルフはごく少数です。エルフに限らず、天魔以外で上級魔法を使える者はほとんどいないのです」


 全魔力を一度に使っても使えないってことか?

 中級と上級で、どんだけ差があるんだよ……。


「ですから、魔法の技術や概念を公開することは、それほど問題ないのです。研究というならむしろ、そちらへシフトさせるべきでしょう」


 従来型コンピュータの性能が頭打ちで、量子コンピュータの研究を始めるみたいな感じか。


「スカウトする側はその辺りの事情は知らず、単に上級魔法へのブレイクスルーを求めているのでしょうが――」

「上級魔法に最初に辿り着いた国が、色々と得しそうではあるもんな……」


 できないことを知らなければ永遠に求め続けるだろう。

 本当に、エイヴを欲しがる連中が何でもしてくる気がしてきた。


「どこかで人権みたいに講義をする必要が出てきそうだ……」


 公開して問題がないなら公開してしまえ理論。オープンソース万歳。


「魔法の場合、簡単にはいきませんよ? 理論だけでなく、実践に至らないといけないわけですから」

「やっぱ難しいのかねー」

「最低でも、新しい言語を覚える程度には」


 そりゃそうか。これまでの常識は通じず、1からなんだし。


「困ったことに俺は魔法使えないからな……講義をやるとしても、関われそうにないのがな……」

「――種を蒔いたのはエイヴ様ですから、私どもで対応しますよ」


 エイヴがノリノリでやってくれそうなので、そのときは任せれば問題なさそうだ。


「些か話がずれましたね。大会終了後はアカシ様も十分に注意して下さい。アカシ様に危害を加えることは許しませんが、危害でなければ止めもしませんから」

「暴力的な行為は慎むだろう。アカシ自身が闘技場推薦の闘士を破っているし、エイヴの不興も買うからな」

「助かるような、面倒くさいような……」


 なんだ、何が危ないんだ? うまい儲け話とか? 美人局とか?

 なんか恥ずかしい弱みを見せたら脅迫なんて可能性も――いやいや、ネットに流すぞの決まり文句が使えない世界では公開されても大して痛くないか?

 むしろ些細かつローカルな法律違反が危うかったりするのか?

 何にしても日常が企みによって浸食されていくのは勘弁してほしい。


 そうか、これが芸能人やら有名人の心境か。


「もちろん、どのような泥沼な状況に陥ったとしてもお救いいたしますよ? ――貸しひとつで」

「それは高くつきそうで是非とも避けたい……」


 そういった懸念など何の意味もなさない事態になるのは、2日後のことだった。



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