なかーま
大闘技祭6日目。
今日は魔法士クラスの予選トーナメント1回戦、2回戦が行われる。
戦士クラスと日程が異なるのは、魔力的な問題だ。
怪我や体力は主催者側の回復魔法で容易く回復できるが、魔力はそうはいかない、らしい。
魔力が尽きるという現象がリーンやエイヴには起きないのでその辺りまだよくわからないのだが……。
ただ、2日目に2回戦~決勝までやるのは、元の世界でいえばバスケを1日で4試合やるみたいなものだろう。
体力――ひいては魔力の量も実力の内ではあるが、ちょいと無茶が過ぎる。
バトルロイヤルからトーナメント戦になるにあたり、魔法士クラスではルール変更がある。
移動の解禁。動いてもオッケーになる。ただし、攻撃は魔法のみ。肉体による攻撃は不許可だ。魔法で作り出した武器で攻撃するなら可。
当然ながら、敗北条件も変わる。
だるまさんが転んだが消えて、戦士クラスや魔戦士クラスと同様の戦闘不能・場外・降参だけに。
あ、舞台の破壊や観客への被害などの反則負けもあったか。
「――お待たせしました」
抽選に行っていたリーンが戻ってきた。
ちなみにエイヴは観戦用のお菓子やら何やらを買いに出ている。
「何戦目になった?」
「2番を引いたので、1戦目です」
「……なんかどっかで聞いた話なんだけど?」
「そうですね、偶然とは恐ろしいものです」
どこが偶然だというのか――……い、いかんいかん。落ち着けっ。ペースを乱されるな。平常心大事。
「アカシ様に合わせたというのはともかく――1戦目だと予定が立てやすいと思いませんか?」
「そりゃーそうだけどさ……」
1回戦の初戦は午前10時から、2回戦の初戦は午後5時からの予定だ。
特に1回戦は、抽選からの待ち時間が少なくていい。
……俺は2戦目くらいがいいけどな。オープニング試合とか緊張で吐きそうになるし。
「ところで、闘技券の発売は9時からでしたか?」
「ああ」
組み合わせが決まったことで、闘技券売り場が騒がしくなっている。
コンピュータ制御じゃなく手作業なのでなかなか大変だろう。
「1~2回戦は私の勝ちに全額賭けてみてはいかがです?」
「ほう?」
リーンと目が合って、ばちばちと火花が散った、かもしれない。
「1回戦と2回戦は必ず勝つと、神に誓いましょう」
「神に誓われるとむしろ怪しいんだけど……」
しかも1~2回戦限定か。
やっぱり優勝予想に賭けるのはリスクが高い気がするな……。
アッシュに賭けた分の払い戻し――金貨20枚はそっくりそのままアッシュの本戦優勝に賭けるとして。
残りの軍資金は金貨20枚。200万リーフ。2000万円。
微妙に感覚が麻痺してきている気がする。泡銭とはいえ、こんな大金を賭博に――……。
いや、そうでもないか。
勝ちが決まっている闘技券を知っているのだから。
運否天賦をしている他の人からすれば反則みたいなものだ。
ま、そこは知っている情報の差と思って諦めてもらうしかない。
情報は金なり、なのだ。
それに――ギャンブルは勝利を確信したときこそ危ないというのが定説だ。
欲張れば一瞬で勝ちが溶ける可能性がある。
「ま、そうだな……リーンの分は全額賭けておくよ」
1~2回戦は勝つと言っているのだから、落ちた金を拾う主義的な感じで資金を増やすのが常道。
それでもエイヴに賭ける分がなくなると困るので軍資金は2分割だ。
リーン用10枚とエイヴ用10枚。
「――何倍くらいでしょうかね?」
「相手は?」
「闘技場推薦の闘士のようですよ」
「それなら試合オッズで3~4倍くらいになるかもなー」
バトルロイヤルは平凡な戦いぶり、に見せかけていたし。
あとはリーンの外面が生む応援票がどこまで入るかで決まるだろう。
* * *
「待たせたのっ」
しばらくすると屋台やら何やらを回っていたエイヴが戻ってきた。
「……買いすぎだろ」
漫画のような買い物の事後だ。
大きな袋を胸に抱え、腕にはいくつも袋がぶら下がっている。
リーンなら亜空間に収納するところだろう。
人目があるから、正しいっちゃ正しいのだが……。
「エイヴ様……それはすべて食べ物ですか?」
「うむっ、観戦のお伴じゃ!」
半日とか1日見るなら昼食やら夕食の時間が挟まるが、それを差っ引いたとしても多すぎる。
「先に行っておるぞ」
「はいよー」
130センチほどの背丈からしてフラフラしそうな量ではあるが、エイヴの足取りはしっかりしていた。
「では、私もそろそろ――」
「ああ。必要ないだろうけど、がんばれよ」
* * *
「やあ、アカシ」
「……ん? コレッタ?」
呼ばれて振り返ると、怪しさと人懐っこさが混ざった笑顔に出会った。
「奇遇……でもないか」
「だねえ。リーンさんが出るんだから応援せねばなるまい?」
「ほう、さてはリーンに賭ける気だな?」
「もちろん。おれは落ちてる金は拾う主義でさ」
お前もかっ。
「あ、あ、あんな恐ろしい霊獣を従えていた彼女が負けるはずがないしなっ……」
ガクブルっているけど、どうしたのだろうか。
……霊獣に攻撃でもされたのか?
「他人のよしみで忠告しておくけど――」
「なにそれ、なにげに扱いひどくない?」
できれば他人のフリをしておきたいタイプだからな、コレッタは。
「必勝は1回戦と2回戦だけだ。それ以降は負ける可能性がわずかばかりある」
「ほっほう……そりゃまたどうして?」
「俺が3回戦で負けたから」
「……なーる。主の顔を立てる、と」
「いや、まあ……うん、そんなとこかもな」
だいぶ違うけど、結果はそんなに違わないかもしれない。
「ふっふ、さすがの奥ゆかしさっ」
それは大いなる勘違いだと思う。
「んでわ、お互い気をつけて賭けるとしよう」
「そうしよう」
がっちりと握手、したような気分になる。
ついでに、越後屋、お主も悪よのう、なんて言いそうになった。




