2回戦開始
大闘技祭5日目。
<ヘルト>の戦士クラスでは、2回戦から決勝戦までが行われ、代表者が決まる。
俺の闘技券が万馬券となるか紙くずとなるかも決まる。
「……アッシュに賭けた闘技券を紙くずにできるのは俺だけだけどな」
「かっこいいこと言ってみた、という感じかのう」
「そうですね。それは武者震いですか」
選手控え室と観客席への通路が分かれる場所で、カタカタカタカタという音色を踵が奏でている。
「トレーニングしすぎからなぁ。つまり、これは筋肉痛だ」
「――<自動回帰>はどうしたのです?」
「ちょっとお休み中だ」
「そんなわけないじゃろうが。……適当じゃのう」
「図太いのか繊細なのかさっぱりですね……」
「待て待て、戦いの前にびびるなんて人間として普通だろ。心臓の強度だってチキンとアイアンの間になるはずだ」
「範囲が広すぎじゃろう……」
まあな。
90%くらいチキン寄りであることは人知れず断言しておこう。
「ふうぅぅ……じゃ、行ってくるわ」
「うむ」
「それでは」
「……あれ? 激励の言葉とかないの?」
「次は2回戦ですよ?」
「対戦相手はアッシュではないのじゃぞ、激励などしても意味は薄かろう」
なんてことを言って、2人はさっさと観客席の方へ行ってしまった。
「いや、そうかもしれないけど、こう……なんて言うか、ねえ?」
いいさ、震えは止まった。気がする。
* * *
『戦士クラス予選トーナメント2日目っ! 2回戦の始まり始まりだああぁぁっ!!』
進行及び解説の雄叫びをきっかけに生み出された歓声は、昨日よりずっと大きい気がした。
……当然か。
今日、<ヘルト>の代表として決勝トーナメントへ進出する闘士の1人が決まる。
それは予選を行う各闘技場において、最大の関心事だ。
日頃からこの闘技場を贔屓にしている人にとってはなおさらに。
大闘技祭の覇者の輩出。
それこそが全闘技場に共通する悲願であり宿願であり栄誉であり、栄光への架け橋なのだ。
……今後の興行とその集客力に滅茶苦茶影響するだろうし。
『まず入場してきたのは――バトルロイヤルでSランク冒険者を撃破っ! 1回戦では血爪のギリアナを試合終了寸前にノックアウトした不死身の少年――ッ!』
だからそういう紹介はやめてほしいと何度も訴えたのに。
……もちろん心の中で。
俺にはエイヴみたくここから文句を飛ばせるほどの度胸はない。
そういえば、俺ってこの世界だと何歳くらいに見えるんだ?
普通科高校2年生の平均的外見だと自負しているから、1~2歳くらいは若く見られているかもしれないな。
『続いて入場したのは! 4月期のチャンピオンっ、我が闘技場において無類のタフさを誇る不倒のレイズッ!』
斧を担いだ対戦相手が舞台へ上がってくる。
こ……怖ええぇぇっ。
体格は先日の抽選で見た闘士たちの平均程度だが……。
浅黒く硬そうな肌に、額に生えた一本角。四角い顎に支えられた俺の頭くらい簡単に噛み砕けそうな歯。
不倒のレイズ――種族は、鬼だろう。
日本の鬼のいくらかは西洋の海賊ヴァイキング説があったりするが、奴は正真正銘の本物だ。
『闘士アカシが負かした血爪のギリアナとは因縁浅からぬ関係――不倒のレイズが唯一失神KOを喰らった相手が血爪のギリアナ! 宿敵を倒された心境は果たしていかなるものかっ!?』
「ちょっとちょっとちょっと……」
いや、確かにそんなようなことが情報冊子に書いてあった気もするけど……。
「――ヤツとの再戦、楽しみにしていたのだがな」
「すんませんね」
「ククッ、こうなってしまったものは仕方あるまい。キサマで憂さ晴らしさせてもらおう」
レイズが好戦的で獰猛な笑みを浮かべる。
……まったく、戦闘中毒者が多い。
「ああ……じゃあ、二度目の失神KOを味わわせてあげますよ」
「言うじゃないか」
フンッと大きな鼻を鳴らした。
「…………」
昨日買った冊子によると、再生スキル持ちのようだ。
ギリアナに負けたのは、おそらく失血による消耗。普通の再生能力は体力を消耗するし、失った体の一部が戻ってきたりはしないのだ。
加えてもうひとつ、防御的なスキルを有している。
『さああっ、戦士クラスの代表者が決まる2日目のトーナメント第1戦ッ! 開始だぜぅええぇっ!!』
おあっ、始まった!?
剣を握り直して、レイズへ向ける。
修業の成果を見せてやる、わけにもいくまい。
アッシュは次の試合だから見ていないだろうが、観客には見られてしまう。
もしもどこからかアッシュに情報が伝わったら万事休す。……その点に関して一番危ないのはリーンな気がするが。
故にこの2回戦は、1回戦のときと変わらない戦力で勝ち抜く必要がある。
なら、やっぱり待ち作戦か。
「――ゆくぞォッ!」
レイズが斧を振りかぶり、地面を蹴った。
ギリアナのときのように、気づいたときには目の前に、ということにはならない。
速いは速いが、常識的なレベル。
これなら対応でき――。
「フンッ!!」
カウンターを考えたところで、斧が振るわれた。
想定した斧の間合いよりも遙かに手前で。
「――ごあっ!?」
トラックにでも跳ね飛ばされたような衝撃。
ビキビキという音を立てながら体が吹っ飛び、世界が何度か回転した。
最後は俯せで1メートルほど舞台上をスケーティング。
やっべえ……っ。
口の中に鉄の味が広がる。
咳き込みそうになったところで、不意に痛みが消えた。
顔を上げる。
「……なんだ、来ないのか」
この大チャンスにも、レイズは間合いを取って様子見中だ。
「オマエとの接触はキケンなようだからな」
「ぬぅ……」
面倒な。というか、いくらなんでも警戒しすぎだろうに。
まあそのおかげで助かった。
吹っ飛ばされた後、そのままラッシュというか、追撃されてたらたぶんあっさり負けていたはずだ。
「よっこらせっと」
特にふらつくこともなく立ち上がる。
武器を離さなかった右手を褒めてあげたいと思う。
「もう回復したか……骨の幾本かは折れていたはずだが。オレより再生の早いヤツは初めてだぞ?」
「……まあ、これには俺の全才能が注ぎ込まれてるからな」
「そうか。だが、防御力そのものは上がっていない――ならば、場外に叩き出せばそれで済む」
「ち……」
近づかず、接触せずに攻撃してくるとなれば……厄介だ。




