真実とは残酷である
「エイヴの試合は見たし、そろそろ出るかな……?」
「そうですね。もう見所もないでしょう」
エイヴの試合という今日のイベントが終わった以上、次に来るイベントは明日の<ヘルト>戦士クラスの予選トーナメント。
つまり、俺の番、というやつなのだ。どうにもならないと思うがどうにかせねば。
「ってことで俺たちはもう出るけど、3人はどうする?」
「オレはもうちっと見てくわ。……っと、晩メシはいつものとこでいいのか?」
「そうしてくれると助かる。集まらないとエイヴが騒ぎそうだし」
リーンは特に望んでいなかっただろうが、エイヴの提案により昨日も予選の予選突破祝賀会が行われた。
なので、エイヴの番だけやらなかったらふて腐れるに違いない。
「おれももうちょっといるよ……」
コレッタはあまり元気がない。……微妙にショックだったのか?
「俺は出るか――明日のために、少し体を動かしておきたいしな」
油断がなくてけっこうなことだ。
「エイヴには俺も行くと伝えておいてくれ」
そう言い残すと、アッシュは一足先に観客席を後にした。
おお。出ると言っておいてなんだか……これはチャンスだな。
「悪い、リーン。ちょっと待ってくれ」
「ええ、構いませんよ」
了解を取ってからデューイの隣に座り直す。
「ン? どうした?」
「アッシュと訓練してるって聞いたんだけどさ、いつもどんなふうに戦ってる?」
「対戦相手のパーティーメンバーに対策を聞くってか? なかなか図太いな」
「まあねえ……でも正直なとこ、それくらいしないと勝負にもならないと思うんだ」
「そうかもなぁ……ああ、別にアカシがどうのってんじゃねえぜ。アイツが強すぎるってだけだ」
デューイは鼻を鳴らし、自嘲気味に言う。
「オレがアイツとどう戦ってるかって? 稽古つけてもらってるみてーなもんだ、戦いになんてなってやしねえ……ワリィが、アドバイスはできねえよ」
「マジかー……」
デューイだって、俺の目からしたら相当やばいレベルで強いのだ。
最後の2人ってところまでは勝ち抜いているわけだし。
そんな彼をして、アッシュを相手にしたら戦いにならない? どうなってるんだまったく……。
「……まあ、ノーチャンスってことは、ねえよ。バットウジュツ、だったかな。剣を抜くと同時に攻撃する技なんだが、戦士クラスのルールじゃ使えねえしな……」
アッシュも十全というわけではないようだ。
しかし抜刀術ねえ……。あのスピードから使えるんだったら瞬殺されるぞ。
「あぁ、まぁ、だからよ、オレよりシュライエンさんに聞いた方がいいかもな」
正確なところはわからないものの、獅子の獣人たるシュライエンさんは大別すればパワータイプ。
ならば、スピードタイプとの戦い方も心得ているはずだ。
「どこに泊まってるか知ってる?」
「あ、ワリィ。聞いてねえや」
「……有名人だから、探せば見つかるんじゃないの」
と、コレッタくんがぼそり。
「そうだな。そうしてみる。あ、2人とも応援さんきゅうな」
「おーう。まったく必要なさそうだったけどな?」
ははは、と乾いた笑い声を返すしかない。
「まあ見てもらえるだけで嬉しかったんじゃないかな。あの変身魔法、けっこう調整してたみたいだし」
「変身魔法っ! 別人になれる魔法だよな、それには大いに興味がっ!」
なんかコレッタがテンション的に立ち直ってきた。
「あ、ああ……予選突破おめでとう会ででも聞いてみたらいいんじゃないか?」
「そうしようっ! ふふふっ、イケメンに変身すればおれもっ……」
妄想が漏れ聞こえてくる。
確かに、顔の一部を変えるというのは物凄く効果的かもしれない。よっぽど弄くってない限り、触られてもバレないだろうし。
うまく使えば、授業中、寝ていないふりができるな。最高だ。
「では、行きましょうか」
「ああ」
* * *
「エイヴ、おつか――」
「アカシ、アカシっ! 妾の晴れ姿はどうであった?」
元の姿に戻っていたエイヴが、ピョンピョンと跳ね回りながら感想を求めてきた。
……うーん、何と答えればいいのだろう。正直に言っておくか。
「とにかく、理不尽なくらいにすごかった」
「ふっふっ、そうであろそうであろっ!」
「――ものは言い様とはよく言ったものです」
「うるさいっ。お前もなんか言えっ」
「まさか変身ヒーローもので来るとは、という驚きでいっぱいです」
どっちがだよ。
口には出さないが、お言葉はそっくりそのままお返ししておく。
「うむっ! 構想1000年の代物だからして、それくらい驚いてもらわねば困るというものよなっ」
「……英雄が何か言ったのか……?」
「あの者は変身に憧れておったからのぅ。魔法の繊細なコントロールができず、断念したようじゃが……」
まったく、何を考えているんだか。
「お主の目から見て、再現度はどうじゃ?」
「スポンジっぽい質感といい、色といい、悪くはなかった。と思う。ただ……」
「――む? ただ……?」
「奴らはこの10年で格段に進化を遂げていてな……」
「し、進化っ!?」
「そう。あの有機的なフォルムはもう時代遅れなんだ!」
「なん、じゃとっ……!?」
戦慄したついでに、脳天を電撃が貫いたといった表情だ。
「今はもっと鎧っぽいアーマースーツとでも呼ぶべきスタイルが主流なのだよ」
「ぐっ、馬鹿な……!」
「それだけではないぞ!」
ゴクリとエイヴの喉が鳴る。
「最近の奴らは武器も持っていやがるのだ!」
「なんとぉっ!?」
「武器を持っているのは、おかしなことなのですか?」
「リーン、お主わかっておらんのぅ。改造された我が身を憂いつつ、素手で戦うところにロマンがあるのじゃぞ? 故に武器に頼るなど軟弱っ、そんなのは戦隊ヒーローどもに任せておけばよいのじゃ!」
語りながらリーンに詰め寄っていく。
熱い。火傷しそうなくらいの愛と情熱に溢れている。
これ以上は黙っておいた方がいいかもしれない……だが、リーンの救出もせねばなるまい。
「盛り上がってるとこ悪いが……エイヴに悲しい報せがある」
「むっ?」
「実はな……最近の奴らは改造されてないんだ」
「――は……?」
「改造されてなくても変身できるんだ。アーマースーツといったが……そういう鎧を纏っているだけなんだ」
「う、うそ……で……あろ?」
ぎぎぎっと振り向いたエイヴが懇願の眼差しを向けてきた。
あ、まずったかな……。
サンタさんを待つ子供の夢を壊してしまったかのような罪悪感が……って! エイヴが子供なのは体だけで精神は1000年以上生きてるし気にする必要はない。はず。
「……ホントだ」
「ばば……ばばば……ばか……な……」
まあ言ってしまえば、エイヴは昭和世代なのだ。父と同じく。
熱く語られたこともあるので俺もどちらかというなら古い方に馴染みがある。新作よりこっちを見ろ、と復刻DVDを渡されたくらいだからな……。
俺と弟は別のシリーズ見れてラッキー程度の感覚だった。小学生はそんなの気にしないのだ。きのこ派とたけのこ派に分かれて争うのも中学生からだろ、たぶん。
「では行きましょう。闘技券売り場に寄っていきますか?」
「もち」
固まってしまったエイヴをずるずると引きずりながら、闘技券売り場へと向かう。
俺に抜かりはない。ちゃんとエイヴに金貨1枚賭けておいた。
有名選手はいなかったようだからオッズの高低は少ないものの、それでも20倍以上はついた。
この金貨22枚を元手に、俺は成り上がる。成金になるのだ。
「リーン、シュライエンさんがどこにいるかわかる?」
「もちろんです。アカシ様と戦った相手ですから。念のためにマークしています」
「そ、そっか」
ちょっと怖いぞ。
でもまあ、こういうとき魔法があると本当に便利だ。
おかげで不便を感じないで済んでいる反面、完璧にリーンに依存している。依存度は携帯電話くらい。けっこう末期かもしれない。
「製作者は何を考えておるーーーーっ!?」
日光を浴びたせいかエイヴの金縛りからとけた。遅いよ。
「何十年も続いてるから製作者も代わってるし、社会情勢とかいろいろあるんだよ」




