謎の怪人
闘技場<ファウスト>、魔戦士クラスの9戦目にエイヴが登場した。
武器を使う姿はいまいち思い浮かばない。
と思っていると武器の林を通り抜けて、そのまま素手で舞台へ上がった。
「なあ……あの子、強えのか? 見たとこ10歳かそこらだが……」
「年齢は見た目の通りで、実力はたぶん……」
エイヴは悪魔王だ。戦闘技術はどうかわからないが、魔力は他の悪魔と比べても抜きん出て高い、はず。そのために悪魔王に担ぎ上げられたのだから。
そんなエイヴに対し、リーンもリーンで微妙に底が知れない。猫かぶりが続いている、とも言えるが。
「リーンと同じくらい……かな?」
「マジかよ……やべぇな」
アッシュのパーティーメンバーは、使い魔の仲介という形でリーンの異様さを知っている。
「そうですね。天性――生まれ持った素質は、私より遙かに上でしょう」
「え、そうなの?」
「心外ですね、私は努力派なのですけど」
本当かよ……嘘くさすぎる。
もっとも、エイヴの方が上というだけで自分の天性を否定したわけではない。どんな世界でも、努力する天才ほどやばいものはないしなー……。
「そんなことより、始まりますよ」
闘士が出揃い、第9戦が開始される。
それは、その直後に起こった。
「へ~ん、しんっ! でゅあっちッ!」
そんな声と共に、エイヴが直視できないレベルで発光したのだ。太陽拳的光魔法だろうか。
「エイヴ……」
「アカシ様、あれは確か……」
「いや、リーン、みなまで言うな」
光の中から現れたエイヴの姿は、そう、なんだ、事前の変身宣言通りに別人28号。
何号かはわからない――形状的に初代に近いだろう――がとにかく改造バッタ人間になっていた。
……ヒーローにしては小さすぎるが、そこは置いておく。
『うわっとぉぉっ!? なんと姿が変わっているぅぅっ!? だが防具や魔具の持ち込みは禁止だぞっ? ジャッジー、ジャッジーーッ!』
闘技が一時中断し、審判が舞台に上がってきた。
「単なる幻なので問題はないでしょう」
「見た目だけか……」
闘士が姿を変えるのは、獣人の獣化スキルという形で何度か見た。
そういうのと違って、エイヴのあれは人工物っぽいというか、皮鎧っぽいし審査されるのは仕方ないかもしれない。
「じゃ、防御力とか上がってるわけじゃねえのか?」
「そうなります。触れたらすり抜けますよ」
「おいおい、バトルロイヤルだぜ? んなもん使ってなんか意味あんのかよ……」
しばしの事情聴取後、エイヴを囲んでいた審判が場外へと戻っていく。
野球のように審判団からの説明。問題なしとのことだ。
『オッケーが出ました! 何らかの魔法によるものでしょうっ! 皆様大変失礼しましたっ、では再開ーっ!』
「はっはっはっ、待たせたのっ! では、始めようではないかっ!」
エイヴはそう宣言したが、近くにいる闘士は誰もエイヴを最初の相手に選ばなかった。
見た目が異様だから警戒されたと考えるべきか、闘士として小さすぎるから見向きもされなかったと考えるべきか……。
「ぐ、ぐぬぬっ……」
だが、参加者は20人。
全員が1対1で戦い出したとしても、1人余る計算だ。
エイヴはめざとくまだ戦いに参加していない闘士を見つけ出す。
「そこな男っ! お主を妾の相手に選んでやろうっ! さあいつでもかかってくるがよいぞっ!」
男はエイヴを見て数秒考え……その場に留まった。
「ふふん、そうきたかっ! やるではないかっ!」
どう来たんだ……。
とにかく、エイヴの中では対戦が始まっているようだ。
客観的に見ても、エイヴが対戦を申し込んだ時点で、2人の戦いは勃発している。
「ならばっ! 先手はもらうぞっ! 数多の怪人を葬り去ってきた必殺技を見せてやろうっ! とおうっ!!」
エイヴが垂直ジャンプ。
『おおおおっ!? たたた、たかーーーいっ!?』
10メートルほどの高さまで、エイヴの体が浮き上がった。
頂点で静止する。
「ゆくぞぉっ! ダイナマイト――キィィィィックッ!!」
キックの体勢を取ると、そこから物理法則を無視して、微妙に驚いている標的へ向かって一直線。
それは正しく、改造バッタ人間の必殺技スタイルなのだが……。
「オイオイッ、あれ大丈夫なのかよっ!?」
デューイが慌てて叫ぶ。
エイヴと対戦相手の体重差は大きい。俺とシュライエンさん以上、下手したら5倍くらいありそうだ。
そして心配するのも無理はなかった。
猛スピードで突っ込んでいったのならともかく、叫ぶ余裕がある程度のスピードだからだ。
そう、これはピッチャーが球を投じてバッターに届くまでのコンマ数秒間に、説明会話しまくる野球漫画的な演出ではないのだ。
男は秒速2メートルくらいの速度で迫ってくるエイヴに対し、距離を取ることを選んだ。
このままの角度では当たらない。
エイヴは男の2メートルほど手前、石盤に蹴りを叩き込むことになる。
が、そう思ったのも束の間、地上2メートル地点でエイヴの軌道が大きく変わった。
舞台とほとんど平行に、下がった男へとかっ飛んでいく。いや、進んでいく、でいいや。
さすがにそんな軌道変化をされては、いくら遅くとも避けがたい。
男の対応は、剣の腹で蹴りを受けることだった。
エイヴの足と剣が接触――した瞬間、爆発が起きた。
「おおっ……」
「んなぁっ……!?」
「そう来ましたか」
規模としては大したことはない。
だが、至近距離で爆発に巻き込まれた対戦相手はひとたまりもなかった。
ボロ雑巾にはならないものの、まさに必殺技を喰らった怪人の如く、場外へと吹っ飛んでいった。
当然だが、着地したエイヴは無傷だ。実体は幻に覆われているからたぶんだけど。
「ふはははっ、見たかっ! これぞダイナマイトキックの破壊力――っ!」
腕を組み、胸を反らしてドヤァ。したっぽいが、残念なことに顔は見えない。
……変身したこと忘れてるんじゃないか? 何にしても、悪魔王、ノリノリである。
「見た目はダイナマイトだったけど……技の名前なんか違うんじゃないか」
「……サタンを悪魔王と同一視するならば、正当かもしれませんね」
「な、なるほど……そっちか」
「それと、爆発は飾りですね」
「へ?」
「浮遊魔法で投げ飛ばしただけです」
「……は……?」
「我が必殺技を味わいたい者から前へ出るがよいぞっ! さあさあさあっ!」
前へ出た闘士はいなかったが、幾人かがエイヴへ視線を向けた。
「ふんっ、笑うとはいい度胸じゃ! 決めたぞ、次の獲物はお主じゃ!」
ビシィッと指さす。いや、獲物って……それ悪役のセリフだろうに……。
「とーうっ!」
エイヴがまたもや飛び上がる。
「あのよー、あれ、わざわざ飛ぶ必要あんのか?」
「お主っ、形式美という言葉を知らんのかっ!?」
「うおっ!?」
デューイの感想に、エイヴが空中から突っ込みを入れてきた。
形式美――つまり、お約束だな。
例えば、悪人はヒーローが変身するまで待たなければならないとか、追い詰めた獲物を前に舌なめずりして三流の誹りを受けなければならないとか。
その後、エイヴがダイナマイトキックを放ち、先程と似た光景が展開された。
2人を葬ったことで、さすがに周囲の闘士たちも警戒を始める。
「ふっふっふ、よきかなよきかな」
注目されていることにご満悦のようだ。
「いいだろうっ! オレが相手をしてやるっ!」
槍を持った闘士が名乗りを上げる。
そして、ジャンプさせじと先手を取った。
「せいっ!!」
俺では見えないほどの速度で、槍が突き出された。
が、エイヴはあっさり躱すと、懐へ潜り込んだ。
「必殺技がひとつだけだといつから錯覚していたのじゃ?」
手刀が放たれる。
闘士は槍の柄でそのチョップを受け止めるが――キックと同じく、爆発が起きた。
「ぐあっ……!?」
目の前で起きる爆発、威力的に大したことがなくても怯ませる効果はある。
その目隠しで生じた隙に、槍使いは浮遊魔法によって場外まで飛ばされてしまった。
「……つーか、なんだ? 近づきさえすれば、いつでも放り投げられるってことか?」
「浮遊魔法をレジストされない限りは、そうなります」
「かー……スゲーのは認めるけどよ、なんだかなぁ……」
まったく同感である。が。
『これはすごいっ! 謎の怪人が大暴れだーっ!!』
トリックをまるっとお見通しできず、爆発による攻撃に見えている人たちにとってはなかなか好評のようだ。
「怪人ではないぞッ! ヒーローじゃっ!!」
解説にまで突っ込みを入れる。余裕ありまくりだ……。
『これは失礼っ! 謎のヒーローが大暴れだーっ!!』
エイヴの必殺技によって、次々と闘士がリングアウトしていく。
アッシュ級のスピードを持っていれば、あるいは何かできたかもしれないが、多くはパワーファイター。
いや、それでも対抗しようとはしていた。
しようとはしていたのだが――……。
寸前で躱してみるも、地面が爆発して飛ばされる。
足を掴もうとするも、掴んだところが爆発して飛ばされる。
迎撃してみるも、攻撃は全て弾かれ飛ばされる。
舞台の縁で避けてみるも、直角に曲がってきて飛ばされる。
逃げまくってみるも、加速しながら追いかけられて飛ばされる。
障壁を張ってみても、突き破ってきて飛ばされる。
闘士たちがどう動こうとも、エイヴの必殺技の理不尽さに抗えなかったのだ。
『だいなまいときっく炸裂ーぅっ! 最後のひとりも場外へ吹っ飛んだーっ!!』
合掌。
「エイドリアーーーンッ!!」
エイヴは拳を突き上げ、叫ぶ。
……うん、よく戦い抜いたな。けど、その人って負けてなかったっけ。
ちなみに。
エイヴは変身したまま退場していった。




