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睡眠男子の異世界行脚 ~眠りあれ~  作者: えいてぃ
第1部 新たな英雄
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魔法士クラス



 大闘技祭2日目。

 バトルロイヤルを終えた戦士クラスの予選トーナメント、または魔法士クラスのバトルロイヤルを行う闘技場が多い。

 リーンがエイヴによって登録された闘技場<ファウスト>は後者であり、出番は7戦目だ。

 ちなみに、魔戦士クラスを初日に行う闘技場もいくつかあるが、2日目はやはり魔法士クラスだったりする。魔はトマトのマというわけだ。


 今日もまた、アッシュたちのパーティーと闘技場の入り口で合流した。

 今回いるのは、アッシュとコレッタとルシールさんだ。

 ルシールさんは護衛の方はお休みしてきたらしい。リーンのことが気になっているようだから、見に来たのだろう。

 デューイはシュライエンさんのパーティーメンバーが出場する戦士クラスのトーナメントの方へ行ったようだ。


 第1戦が始まる直前に入場した。

 観客は昨日に比べると、ずいぶん少ない。1~2割くらいの入りだろうか。

 これは魔法士クラスのバトルロイヤルの人気がイマイチなためらしい。


 魔法士クラスのバトルロイヤルのルールは、至って単純だ。


 動いたら負け。

 ……厳しすぎてだるまさんが転んだができない状態。


 舞台に上がった各闘士は、闘技の開始前に自分の位置を決める。

 足下にある1メートル四方の石盤がその闘士のテリトリー。

 そこから出たり、出されたりしたら敗退となる。


 要するに足を止めて魔法の打ち合いをするわけだ。

 本当の意味で魔法使いのバトルロイヤルなんてやったらカオスだろうし、そういう制限は仕方ないだろう。


 あと、石盤の交換で済まない&自力で回復不能な損害を舞台に与えないこと、観客に被害を出さないこと、というルールもあるようだ。


 これらも加味すると、火力勝負ではなく魔法の運用を競う技術勝負となる。

 大魔法ドカーン。終了。では闘技として味気ない。

 しかしながら、規模の大きな魔法が使用されないとなるとどうしても派手さには欠ける。

 玄人好みという名の拙攻のオンパレードが約束された地味な試合。

 戦士クラスのトーナメントをやってるところもあるし、客が入らないのは仕方なかろう。


 場外には、戦士クラスと同じく審判と治療役がいる。

 魔法士クラスの場合はさらに、魔具を使って障壁を張り流れ弾を防ぐ係が20人ほど。

 これは魔力が一定以上あって事前講習を受ければ誰でもオーケーらしい。いい小遣い稼ぎになるとかなんとか。


『みんな待ったかーっ? 待ってないかもしれんなっ、魔法士クラスだもんなっ! とにかく闘士の入場だーっ!』


 扱いのひどさはさておき、観客席の下、入場口から闘士たちが現れる。

 非筋肉系たる魔法士というだけあって、戦士クラスよりも小柄な人が多い。だいたい俺くらいの体格だ。中には肉体こそ俺の魔法障壁と主張していそうな方も混じっているけど。

 闘士たちは舞台に上がると、円形闘技場の縁に陣取っていった。


「まあ、そうなるよな……」


 石盤から出たら負けなのだから、場外に意味はない。

 なら、場外を背にする位置取りがベターだ。

 石盤テリトリーの広さは3分の2くらいになるとはいえ、後方の死角180度を消せるメリットはそのデメリットを補ってあまりある。


 魔法士クラスも戦士クラスと同じく、防具は共通……ぬののふく。

 杖や指輪とか、魔法使い系の武器の所持は認められていないようだ。

 裸で競え、という精神らしい。


 出てきた闘士の数はトータル15人。戦士クラスより少なめだ。


『ではではではっ、大闘技祭2日目ッ! <ファウスト>魔法士クラスの部、第1戦、いっくぞぉぉっ! 3、2、1――あ、フライングはなしだぜっ!? ゼロォォッ!』


 カンカンカーンッと甲高い金属音が鳴り響いた。

 ここ、闘技場<ファウスト>ではそれが試合開始の合図らしい。


 闘士たちが一斉に詠唱を開始した。


「ああ、やっぱり詠唱はあるんだな」

「ふむ、そのようじゃな」


 ……え?


「つまらない試合になりそうですね」


 リーンは興味を失ったように小さく息を吐いた。

 詠唱なしでポンポンと魔法を使う天魔にとっては、何を悠長に遊んでいるんだか的な感覚なのだろう。


 まあ、2人はおいといて、せっかく来たのだから楽しむとしよう。


 魔法を使うのに詠唱が必要なのであれば、魔法士クラスは戦士クラス以上に初動が大事だ。


 どの魔法を選択するか。攻撃か防御か。


 舞台で最初の魔法が放たれる。炎の矢、といったところか。


 狙いは正確、右隣にいる闘士の胴体目がけて一直線。だったが、速度は本物の矢には及ばず、矢も1本きり。

 半歩の横移動だけで、あっさり躱されてしまう。


 炎の矢は審判のすぐ傍の地面に着弾。

 ……これ、審判に恨みがあったら晴らせそうだな。


 それを合図にしたかのように、様々な魔法が舞台上を飛び交い始めた。


「……うわ、舞台の上めっちゃ熱そうだな」


 炎が炸裂することが多い。

 攻撃魔法のチョイスが炎系統に偏っているのだ。


「そうね。魔法の属性の中で、炎系が一番攻撃力を出しやすいから」


 魔法に余分な動作を盛り込まなくても、炎はそのままの状態で殺傷力がある。

 そのため、同威力・他属性の魔法と比べて詠唱が短く、発動までの時間が短くて済む。

 なんてことを、ルシールさんが説明してくれた。


「それに、定石があるのよ」

「定石?」

「足下を狙うの」


 言われてみると、闘士の足下へ炸裂する火炎魔法が多いことに気づく。


「ほほう……ああやって、石盤を熱してやるわけか」


 ルール上、有効な攻撃かもしれない。

 ……そう考えて闘士たちを見てみると、上げ底の靴を履いている者が幾人か。せこっ。


 せこいと言えば、防御に徹する戦略を採っている闘士もいた。

 規模の大きな魔法は使用不可。

 ならば、そこそこな障壁をきちんと張っていれば負けることはない、理論だ。ただしイケメンに限る。

 ……わけじゃなく、それで勝てるほど甘くはない。集中砲火で沈んだりする。

 時間切れまで粘ったとしても、最も多く倒した者が勝者というルールに引っかかって勝てない。


「ところで……障壁を張りながら攻撃したりとかはできないんですか?」

「発動媒体を持っていない状態でそれができれば超一流ね」

「えっと、障壁って、一回使ったら何秒とか何分とかって維持されるわけじゃ?」

「合っているけど、障壁を維持するには魔力を使い続けないといけないのよ。それもけっこうな量が必要なの。障壁や結界系は簡単だけど魔力消費が大きい魔法の典型だから」


 まあ大魔王ですら魔法使いくんが2つ同時に魔法を使ったときは褒めてたしな。難しいんだろう。


 あとなんとなく、夜営中に結界を張り続けてくれたりするリーンを拝んでおく。


「私の使っている魔法は詠唱魔法とは原理が違うので、感謝されるほどの労力はかかっていませんよ?」

「あそ」

「――興味深いわね。詠唱魔法とは原理が違うとは、どういう意味?」


 ルシールさんが眼鏡を煌めかせる。


「詠唱魔法は、原理からより正確に表現するなら、精霊魔法と呼ぶべき魔法です」


 おお、それっぽいな。ただし魔族は倒せない――。


「詠唱とは精霊との簡易契約の言霊であり、願い事にあたります。つまり、精霊魔法は簡易契約をした精霊が術者の代理で世界の改変を行っているのです」

「……なるほどね。そう……精霊との……そう考えてみると、腑に落ちる感覚もあるわね」

「というと?」

「障壁の維持に、魔力を使い続けると言ったでしょう? これ、魔法そのもの――障壁に対してじゃないのよ。魔法が成功したときに開いた径路に、魔力を供給しているの」


 むう、魔法を使ったことがないからよくわからない。

 ただ、理論的には――。


「その先に、精霊がいると?」

「そういうことね。ええ、言われてみると……納得だわ。それで、あなたが使う魔法は?」

「もう想像はついているのではありませんか?」

「……そうね。おそらく、魔力を用いて自分の意志で世界を改変している、といったところじゃない?」

「ええ、その認識で問題ないでしょう」

「――自分で言っておいてなんだけど、そんなこと本当にできるの? いえ、あなたじゃなく、例えばわたしがそれを扱うことは可能かしら?」

「わかりません。エルフ族、フェアリー族、吸血鬼族、妖魔族。このあたりは使っているはずです。あとは霊獣も――」

「気むずかしい長命種ばかりね……」

「うむ。もしかすると天性かもしれぬな。魔力の知覚と操作に長けていれば、あるいはといったところかの」


「ねえ、聞いておいてなんだけど……話してよかったの? まとめて発表したら、一財産築けそうな内容だと思うけど」

「自由に研究し、発表もして下さって構いませんよ」

「うむ。この光景は些か歯がゆいモノがあるしのう」


 試合に意識を戻す。


 泥仕合というか、もっと端的に表現するなら……ぐだぐだだった。


 この魔法士クラスの闘技――例えるなら、1クラス30人が全員ボールを持ってドッジボールをしているようなものだ。

 ……それが競技として面白いのかと問われると首を傾げるが、勝つには、勝ち残るにはどうしたらいいか。

 自分の手にある武器では一度にひとりしか倒せない。対戦相手をまとめて倒す手段はない、

 ならば、とにかくボールを避けることに神経を注ぐべきだろう。

 そうすれば負けることはない。攻撃は、避けつつ片手間に行う。


 それが、この魔法士クラスのバトルロイヤルで行われていることの全貌だ。


 素早く詠唱し、発動できる魔法でしか攻撃が行われていない。

 その程度の魔法の動作はボールとそう違いはなく、ただ避ければオーケーだ。

 もちろん足下に着弾すれば後々面倒だから、なるべく障壁で防いだり、魔法をぶつけて相殺にいくが、そういう防御が間に合わなくても回避は難しくない。


 多くの闘士がそういう戦闘スタイルだから、なかなか人が減っていかない。


 10人以上いる闘士の中には、状況を打開できるくらいの実力の持ち主がもしかしたらいるかもしれない。

 だが、ひとりふたり倒したとして、その後はどうなる?

 当然、狙われる。目立つほど強いヤツは周囲と協力してさっさと倒すがバトルロイヤルの鉄則。

 戦士クラスと違い、移動を禁じられている以上、同士討ちや乱戦の懸念はなく、まさに集中砲火を受けてしまう。

 1対全員を勝ち抜く自信がない限り、バトルロイヤルでヘイトを集めてはいけないのだ。


 よって、周囲に合わせる事なかれ主義が跋扈する。意外と日本人向きだな、バトルロイヤル。


 結果、集中力や魔力が切れたり、熱が靴を貫通するほど石盤が灼かれてしまったり――何かしらの要因で脱落を待つ、我慢比べ大会となる。


「……なんかこう、手に汗を握れない」


 それでも、舞台上の人数が一桁となると、ちょっとずつ白熱してきた。

 ……決して、熱々になった石盤から放出される熱気に煽られているわけではない、はずだ。


 


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