1日目終了!
「でゅふふふ……」
自ら進んで戦いに行く必要は特にない、だが興奮物質が脳内にたっぷり出たせいなのか自然と次の獲物を探してしまう。
1人倒した大剣持ちの闘士が手持ちぶさたっぽいので近づいていく。
「――お、おいおい、オメー手ぇ壊れたんじゃなかったのかよ?」
俺の接近に気づいたらしく、剣を構えた。
「いやあ、俺ってば自己治癒力が高いんで、骨折くらい1分で治るんですよ。だから相打ち上等ってね?」
「どんだけだよ……」
たぶん身体能力も技量も俺が劣っているだろう。
だが、相手は妙に気圧されていた。
「くふふふっ、いきますよぉ」
ゆらりゆらり、ふらりふらりと間合いを詰める。
相手にとって不幸だったのは、大斧と大剣の間合いにさほど違いがなかったことだ。
いっそもっと短い武器を持っていたら、自分の間合いにするため長尺の武器の弱点を突くため、接近を試みていたはずだ。
「――おるぁっ!」
「むうっ……!」
攻撃が届く距離は同じ、だから彼は、先に放たれた俺の攻撃を大剣で受けてしまった。
ああ当然だ、自らの武器で相手の攻撃を防ぐ、それが通常の動きだ。が、俺に対しては失策となる。
びくんっとガードに成功したはずの男の体が強ばる。
即座に瞼が落ち、意識が夢の中へと飛んで戦闘不能だ。
眠った相手が倒れるのは待たない。急所に軽く加撃してやる。
これなら、意識を失わせた攻撃は2撃目に見えてもおかしくない。
……どう考えても1撃目が怪しいが、まあ一瞬麻痺させるだけとでも思ってもらえれば儲けモノだ。
「さあ、次は誰かな……!」
後にリーンに聞いたところによると、俺の顔には凶相が浮かんでいたらしい。
そんな状態になったつもりはなかったのだが……。
とにかくこんなことを繰り返している間に、舞台で立っているのは俺だけになっていた。
予選の予選、通過である。
* * *
夕刻。
昼から始まったバトルロイヤルは8戦が消化されている。
今は9戦目が始まるまでの待ち時間中だ。
全15戦なのでまだ半分だが、すでに40分×8の320分――5時間以上経過している。
なのに、観客のボルテージは開幕と変わらない。どころか上昇傾向だ。
同じ展開は1戦としてないし、酒が入っていることもあるのだろうが、よくもまあ飽きもせず熱狂できるものだと感心する。
まあ夏の甲子園で朝から見に行く人もいるしな……。
俺なんか自分の試合が終わって席に戻ってからはぐったりしていた。疲れてないし眠たくもないけど、なかなかその状態から立ち直れないでいる。
なんだろう、やっぱり似合わないことはするべきではないということか。
――別にシュライエンを倒した後のテンションがおかしかったとか言われて落ち込んでいるわけではない。
「そろそろ食事に行きませんか?」
「そうじゃな。アカシの予選の予選突破記念といこうではないかっ!」
その理論だと明日も明後日も突破記念がありそうだが……外へ出るというのは賛成だ。
売り子がそこらで飲み物食べ物を売っているし、闘技場内にもお食事処はあるが、正直この喧噪から離れたい。
元の世界でいうと、ゲームセンターだ。耳がおかしくなりそうで困る。……<自動回帰>で修復されてそうだから気分の問題だが。
「そちらの3人もどうじゃ?」
後ろの席にいるのはアッシュとデューイ、それにコレッタだ。
王女様と護衛役の2人は6戦目が終わったところですでに宿に戻っている。
「おお、オレは行くぜ。腹へっちまった」
「おれもご一緒させてもらうっ!」
「アッシュはどうするよ? まだ見ていくか?」
「……いや、俺も行こう。予選を免除されている者は、どのみち見られないしな」
* * *
「ヨォ」
闘技場を出たところで、見覚えのある獣人が気安い挨拶で声をかけてきた。
2メートル越え。横に広い体躯。黄金の鬣と腕毛。シュライエン・……なんだっけ。まあいい。というか名前なんて今はどうでもいい。
――スルーが無難。
「ちょっくらいいか、アカシ。なぁに、手間はとらせねえ」
名前を呼ばれたら、さすがに無視はできない。
ていうか、何で名前知ってるんだ。ああ、勝ち残りは公開されるか。
「り、リベンジとかは勘弁してくれるとありがたいんですが?」
「ケチつける気はねえよ。だいたい、闘技祭の開催期間中、勝ち残ってる闘士に手ぇ出しゃお尋ねもんになっちまうだろが」
「そう、ですか」
……開催期間中? 大闘技祭が終われば襲ってもオッケーと言ってるようにしか聞こえんぞ。
「ただ聞きに来ただけだ。オメーの武器を吹っ飛ばしたところでプッツリ意識が飛んでやがるからよ。なんだったんだ? オレぁオメーの攻撃でヤラれたのか?」
ううむ、どうするか。近くにアッシュがいるからな……。
「別に構わないのでは。アッシュ様もほぼ正解を口にされていましたよ?」
……だったらいいか。
「え、ええ。一応そうなりますね」
「そうかい。あの一撃でか? それとも見えないとこでオレを攻撃してたのか?」
「まさか、俺の攻撃はあれだけですよ。ちょろっとダメージが通ったんで、スキルが発動したんです」
「ほう……」
「実力じゃはっきりいって、どうやっても勝てないんで。スキルが発動するのに賭けたんですよ」
「フム……まんまと乗せられちまったわけか」
シュライエンさんは顎下のヒゲ部分を撫でる。
「挑発したのはそっちでしょう? 乗ったまでです」
「ちげえねえな。オウ。悪かったな、アカシ。呼び止めちまってよ」
「いえ」
「オレに勝ったんだ、優勝しろ……とまでは言わんが、本戦までは行けよ?」
「……いや、無理っす」
「オイッ!?」
「だって、攻撃に付随するスキルってことは、攻撃が当たらなきゃ話にならんわけで」
「オオ……そりゃあそうなんだろうがな……」
「世の中には、相性って世知辛い問題が山積してましてね……」
ホントどうするかな……。できるなら穏便に負けたい。というか、やっぱり気絶はまずいだろう。
アッシュと当たることになったら、事前にルールでも決めておくべきか……。
「シュライエンさん、オレら飯食いに行くんすけど、いっしょにどうすか?」
と、シュライエンさんに声をかけたのはデューイだった。
「ほう、それはいいのう。Sランク冒険者ともなれば、冒険譚のひとつやふたつ、披露できよう?」
「お、オウ、なんか妙に威圧感のある嬢ちゃんだな」
お、歴戦の猛者には何かしら感じるモノがあるのか?
「気まずいならしゃーないですけど」
「ハハ、祭なんだ、んなシケたことは言わねえよ――同行させてもらうぜ」
夕食は直接戦った敗退者を加え、7人による祝勝会っぽいものとなった。
シュライエンさんの話は、さすがSランクという成功談もあれば、若気の至りという失敗談もあり非常に楽しめた。
その他にも、色々と話してくれた。
彼が普段使っている武器はドワーフの鍛冶屋が造った神鋼製の大槌。
スキルを使ったときの威力は闘技場にある舞台を粉々に破壊できるくらいだそうだ。ありがちに剛爆とでも名づけてあげよう。……<自動回帰>は粉々になっても復活できるのだろうか。
彼のパーティーは獣人族ばかりだそうで、物理攻撃力は高いが魔法がからっきしで苦労があるとか。
魔法使いを勧誘しても、パーティー構成を見て、やんわりと辞退されてしまうとか。そりゃ彼みたいなのが5人いる中に入ってくのは勇気いるわな……。
「ふむぅ……」
10時を過ぎると、エイヴがうつらうつらしてきた。
俺もちょっと眠い。冷や汗とか脂汗とか嫌な汗をたっぷり掻いたから、今日は寝る前にお湯浴びしたいのだ。
「そろそろ戻ろうか……」
「そうですね。もう少しすると混みそうですし」
そう、どの闘技場も0時くらいまでで予定を組んでいるので、そろそろ最終戦だろう。
「……うむ……そうじゃのうぅ……」
エイヴはぐにぐにと目尻を擦っている。
「俺たちも戻るか?」
「そーだな。デューイは……ほっといていいか」
しばらく前にカウンター席へ移動したデューイとシュライエンさんは意気投合しているようだ。
一応アッシュが声をかけたが、もう少し飲んでいくということだ。
「勘定は……これで、足りるか、のぅ……」
寝ぼけ眼のエイヴがジャラジャラと適当にテーブルに落とした金貨で支払いを済ませる。
カジノでの勝ち金、全額を取り立てることはなかったが、それでもエイヴは大金持ちだ。
エイヴはパーティーの財産だと思っているらしいので、まあ遠慮はしない。
「明日、リーンは<ファウスト>だったか?」
「はい。7戦目、といったところです」
「わかった。ではな」
「ああ、またな」
「よい夢を、お嬢様方」
「ふぁぁ……うむ。お主もの――」
こうして、大闘技祭の1日目が終わった。




