大闘技祭開幕!
10月1日――午前10時。
大闘技場にて大闘技祭の開会式が行われた、らしい。
こちらの入場も抽選。倍率20倍くらいを勝ち抜かないと入れない。
正直、抽選も長蛇の列だったので俺たちは敵前逃亡・不戦敗を選んだ。
別にそんなに見たいものでもない、どこかのお偉いさんの無駄に長い話とか聞くのは面倒だし。
開会式が終わって2時間ほどすると、各闘技場で予選が開始される。
人数を絞るバトルロイヤルからの勝ち抜きトーナメントという形が一般的だが、予選方式は各闘技場の裁量に任せられているようだ。
秋葉が如くジャンケン大会で代表を選ぶのも事前に公示しておけばオーケー。……闘技場の施工が間に合わかったなどという事情がなければそんなことあり得ないようだが。
予選用に割り当てられている日程――10日までに終わらせて、闘技場の代表者を決めればなんでもいいというわけだ。
なので、予選の日程は闘技場ごとに微妙に違う。
戦士クラスの代表を決めてから次に魔法士クラスという闘技場もあれば、各クラスのバトルロイヤルを最初にまとめて済ませる闘技場もある。
俺が参加することになった<ヘルト>は後者のシステムだ。
バトルロイヤルの制限時間は30分。後始末や次戦の用意に、時間切れなら判定などがあり、1戦で使う時間は40分だ。
掲示された予定表通りに進行され、時間に余裕ができても予定を早めたりはしない。遅れることは多々あるらしいが。
アッシュたちも含めた身内の中で、初日に戦うのはアッシュと俺。
どちらも闘技場<ヘルト>なので、俺たちは当然<ヘルト>へと向かっていた。
* * *
「よ、よお、来たか」
事前に決めておいた待ち合わせ場所でアッシュたちと合流する。
が、何やらデューイやコレッタに落ち着きがなかった。
首を傾げる前に、見覚えのある2人がその場にいることに気づく。
「……あれ? ティナとルシールさんも観戦に? 仕事はいいんですか?」
「それがね……」
ルシールさんの目逸らしフェイントにつられて、視線が動く。
ティナとルシールさんに挟まれる位置に、ティナと同じくらいの背格好の少女がいた。
「初めまして。エレオノールです」
こちらの視線に気づいて、少女がスカートの裾を摘んでの一礼。
少女の青い瞳は汚れなく、肌は太陽の下にほとんど出たことがないかの如く。
今はポニーテールにされている長い金髪も、ほどけば丁寧な手入れをされ続けてきたことを示すように美しく輝くに違いない。
普通の町娘のような言動や格好をしているものの、貴族的な雰囲気を消し切れてはいない。
「……まさか?」
「……そのまさか」
ティナとルシールさんに挟まれて立つこの少女が、フルーク王国の第二王女様のようだ。
日本生まれの俺には、王族に対する敬意はあっても畏怖はない。
けれども、この世界に来たときにいた国がフルーク王国。いわば第二の故郷のようなものなので、そこの王女となるとちょっと特別な感じではある。
「せっかく大闘技祭に来たのに、最終日しか闘技を見られないなんてつまらない――」
「というわけです」
ティナが呆れ顔に、王女様の笑顔が続いた。
「どこでも良かったのだけれど、ティナのお仲間が出るというからここにしました」
「そ、そうですか。ああ、俺はアカシといいます。この2人はリーンとエイヴ。ティナたちとは、そこそこに縁のある冒険者仲間で――」
* * *
ぞろぞろと、念のために王女及びティナとルシールさんを守るような並びでもって、<ヘルト>の観客席へ入場した。
席はすでに4分の1程度が埋まっていた。
<ヘルト>の観客席は他の闘技場と同程度の2万席ほどらしいので、すでに5千人くらいが観戦に訪れているわけだ。
開幕祝儀もあってか予選としてはなかなかの入り、だと思う。
予選に使われる闘技場は36なので闘技場全体では72万人のキャパがあるのだから。
<ヘルト>の入りが平均だとするなら、都市にいる人はけっこうな割合で観戦に来ている。視聴率4~50%くらいか。
まあこの時期にこの都市にいて闘技を見ないなんて、チケット買ってライブに行かないようなもんだろう。
そんなのは『チケットが2枚あるんだけど一緒に行かない?』的な誘いに失敗したヤツだけに許される行為だ。
ちなみに各闘技場へは、1000リーフの入場パスを買えば、どこでも何度でも自由に出入りできる。大金を賭ければVIP席で観戦できるVIPパスがもらえるらしい。
まあ金銭欲にギラついた話はまだ置いておく。
バトルロイヤルも賭けの対象だが、乱戦なのでギャンブルとしてはさほど盛り上がらない。
本番は1対1のトーナメントからだ。
肝心の闘技の話に移ろう。
闘技場<ヘルト>の戦士クラスに登録した闘士は357人。
<ヘルト>の戦士クラスのバトルロイヤルの試合数は15と最初から決まっているらしく、等分して24名ずつが戦うことになった。
67のアッシュは3戦目、102の俺は5戦目だ。
アッシュの戦いを見た後、控え室へ向かえばぴったりだろう。
戦士クラスのルールだが、全闘技場で共通しているのが武具の持ち込みが禁止されていることだ。
まあ魔剣とか使ってちゃ、微妙に趣旨から外れるので仕方ないだろう。
武器は主催者側が用意したモノを用いる。
それは巨大な円形のリングの周囲、場外と呼ばれる場所にわかりやすく用意されている。
剣・槍・斧――ありとあらゆる種類の武器が林立しているのだ。好きなものを抜いて使えということだろう。
殺し御法度なので、全て木製。簡単には壊れないよう、それぞれに強固の付与魔法が掛けられている。
強度的には鉄くらい。……木製を用意する意味あるんだろうか。
防具も同様に、主催者が用意した布製の服のみだ。これには付与魔法はかかっていない。というか、かけられないからこその布の服なのかもしれないが。
このように、戦士クラスには武具の優劣はない。身ひとつで競い合う場なのだ。
平等なのはけっこうだが、俺はそれを知ったとき、なんでもオーケーな魔戦士クラスに登録しなおそうかと考えた……。
勝つにしろ負けるにしろ痛そうなんだもん……はぁ。
「あのへんでいいか、ルシール?」
「そうね。アカシさんたちは申し訳ないけど前に座ってもらえる?」
「ああ、いいですよ……大変ですね」
「……ええ。何か問題が起こるとも思えないけど、心労は溜まるわね」
「ごめんなさい、わがままを言って」
「本当にごめんね、ルシール。エルが大人しくしてるとかありえなくて……」
10才の頃、お城を探検するような王女様と公爵令嬢だったそうな。
「まあ……こういうことを考えてティナに護衛の話が来たのでしょうし、ね」
小うるさく頭が固い騎士だと、こうして外出したときに王女様が連れていかない可能性がある模様。
あれだ、政財界の偉い人の子息がボディーガードを邪魔だからと遠ざけて誘拐されちゃうパターンだな。
もしくは抜け出したところで絡まれて冒険者あたりに助けられてロマンスの神様にこの人だと囁かれちゃうパターン化もしれない。
中段くらいの位置に、9人でまとまって座る。
前列に俺とリーンとエイヴ。真ん中に王女様ご一行。後ろにアッシュとデューイだ。
コレッタ? 彼は俺の前の席だ。性格的に警戒されているのだろう。
でもさすがに王女様をナンパするほどアホでは……いや、この様子では合流前にしていた可能性はあるな。あからさまに遠ざけられているし。
正午に近づくにつれ、人が増えてくる。
最終的に埋まった席は3分の1程度だろうか。
アナウンスがあり、第1試合に出場する闘士が続々と登場してくる。
彼らは直径30メートルほどの舞台に上がる前に、思い思いの武器を手にしていく。
うーむ、みんな強そうだ。闘技の祭典に出るくらいだから事実強いんだろうけど……。
全員が舞台へと上がり、しばし。
都市中に鳴り響く鐘の音が、正午を告げた。
『ただいまの鐘をもってっ! 大闘技祭――<ヘルト>予選の部を開幕するぜ!』
アナウンスの宣言に対して、観客は大きな拍手を返す。
俺たち9人の中では、エイヴと王女様の拍手が目立っていた。
『皆さんご存じのように! 本日の<ヘルト>では戦士クラスのバトルロイヤルが行われるッ!』
諸々が説明されている間に、審判役と回復役らしき人たちが現れ、舞台の周囲で配置につく。
……審判、舞台には上がらないのか。流れ弾を喰らって気絶までがテンプレだというのに。ふう。
『さーて準備が整ったようだぜッ! 闘士の諸君、準備はいいかー? いいなら第1試合のカウントダウンを始めちゃうぞ? ――観客の皆さんもご一緒にッ! 10、9、8――』
ノリのいい観客が唱和して、ついに0になる。
そして、地鳴りのような歓声が巻き起こった。
『おらおら闘士どもぉぉっ、様子見なんざクソくらえだッ! とっとと隣のヤツと、どつきあえやーーっ!!』
アナウンスと歓声に煽られたように、舞台の至る所で争いが勃発した。
その流れに乗り遅れるのは罪だと。それが開幕戦に登録した者の義務だと。
そう言わんばかりの勢いで戦いの音が広がっていく。
申し合わせたわけではないだろうが、24人は12組の1対1に分かれていた。
怒号に、武器がぶつかり合う甲高い音。
そこに鈍い音が混じれば、苦悶の声や血が舞った。
相手が倒れれば、同じく相手を倒した者と向かい合う。
誰も彼も目が興奮で血走っていて、脱落者が出るたび舞台上の熱量を減らしてなるものかとばかりに闘争がエスカレートしていく。
「こ、これは……見ない方がよかったかもしれん……」
マジで怖い……ていうか、死人出てもおかしくないじゃないかこれは。
はあ。いかん、冷静になろう。
この空気にあてられるのはよくない。ヒャッハー、バーニングラーブッ。
戦型として目立つのは、パワー&タフネスとスピード&テクニックだ。
大型の武器を持つ前者は攻撃を喰らおうとお構いなしに反撃し、他の闘士を悶絶させ、場外へと弾き飛ばす。
速さ優先の武器を持つ後者は相手を攪乱し、急所を狙い打って相手を戦闘不能に追い込んでいる。
「バトルロイヤルなのにみんな1対1で戦ってるけど……あんなもん?」
「いえ、初戦だけだと思いますよ」
主催側は時間が許せば全て1対1の勝ち抜き戦にしたい。闘士側もそう思っている。
その理念というか、そこからくる初戦の慣例のようなものらしい。
乱戦がない分、実力が如実に出る。
不意打ちがないのはメリットで、不意打ちできないのがデメリット。
『勝ち残ったのはナンバー11ッ! ヴァァァレンティンだぁっ! 勝者に盛大な拍手を――ッ!』
最後に立っていたのは、大きな斧を使っていた獣人族の巨漢の闘士。
反撃も受けていたので、勝者とはいえボロボロだ。
あ、でもすぐに回復魔法が飛んできておきれいな姿に。
「――では、そろそろ行ってくる」
そうして1戦目が終わったところで、アッシュが立ち上がった。
「おう。蹴散らしてこいよ、リーダー」
「先生、がんばってね」
どうやら、アッシュはティナに剣を教えているらしい。
あー……俺も何か言っておこうかな。
「お手並み拝見!」
「定型文とはいえ、そういう上から目線は自分が負けたときに恥ずかしいと思うのですが」
うるさいわっ。
アッシュは軽く手を上げて応えると、昇降口へと歩いていった。
戦士クラスでは最大戦力の<カタナ>を使えないというのに、その歩みに気負いはない。
「落ち着いていますね」
「誰かとは違うのぅ、はっはっはっ」
うるさいわっ。
続いてナンバー25~48番が戦う2戦目。
2戦目も同じく獣人族、パワータイプの大剣使いが勝ち上がった。
一見すると、防御を防具に頼りがちで攻撃を受けやすいパワータイプが不利なのだが……それは致命的な攻撃があってこそ不利。
形の違いはあれど、闘技で使われている武器はその全てが打撃系だ。
種族にもよるだろうが、獣人族は普人族などと比べると筋力・耐久力共に優れている。加えて、先天的に自己強化スキルを備えていることが多い。
こうなると、戦士クラスは彼らのためのクラスと言っても過言ではあるまい。
「天使時代の闘技も、王者は獣人族が多かったと聞きます」
「うむ。闘争本能においても獣の資質を継いでいる彼らの右に出る者はおるまい」
そして、3戦目。
舞台に登場した闘士の中にも、体格に優れる獣人族が何人かいた。
警戒されているのか、彼らの周囲にある空間は他の闘士の5割り増しで広い。
刀と同じくらいの長さの剣を手に舞台へ上がったアッシュは、果たして彼らとどう戦うのか――。




