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睡眠男子の異世界行脚 ~眠りあれ~  作者: えいてぃ
第1部 新たな英雄
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スキルについて調べよう


 大闘技祭の開会が明日に迫る中、今さら感のある調べ物をするため街へと出た。

 エイヴは何やら『調整』したいことがあるとかなんとかで宿にこもっているので、リーンと2人だ。


「スキル大全みたいなのは公開されてるのかね?」


 以前、冒険者ギルドで職員がそれらしいのを見ているのを見た。

 ただ、ギルドにはとか言っていたので一般に公開されているかはわからない。


「――基本的な情報に関しては開示されているのではないかと」

「そっか。ま、そのくらいで十分だけどさ」


 スキルについてリーンやエイヴに聞いてみたのだが、微妙に参考にならなかった。

 なんというか、スキルに対する認識が俺と違いすぎて。


 その最たるものは、魔法との関係性。

 俺の感覚だとスキルと魔法はまったくの別物なのだが、2人にとってはそうではなかった。


 スキルのほとんどは魔法で再現できる――。


 例外は、例えば俺が持ってるスキル、<自動回帰>。

 回帰という効果は、局地的な時間の巻き戻し。神級魔法ではあるものの存在はしているらしい。

 問題は自動の部分。常時発動、あるいは永続効果が魔法では再現しづらい。

 常時使用を続けるという無理矢理感が溢れる方法で再現できないこともないが、そんな行動に制限のかかることをしていては日常生活に支障をきたす。間違いない。


 だから常時発動こそスキルの強みであり、最大の特色と言えるらしい。

 ただし、常時発動系のスキルは多大な魔力容量を犠牲にしている。筋力強化系のスキルを有す獣人たちが魔法の才に欠けるのはそれが原因のようだ。

 俺も<自動回帰>がなければ、とんでもない魔力を運用できた可能性を示唆された。……<自動回帰>なんて頼んでないから、なんか物凄く作為的なモノを感じてしまう。

 また、常時発動系のスキルは魔力容量を大きく削る性質故に、後天的に得ることは非常に少ないとか。そうなると、種族特性的な感じだ。


 さて。

 常時発動系のスキル以外は、それはもう再現が容易いらしい。


 スキルを、スキル系列の魔法と言い換えることが可能なほどに。


 もちろん誰もができるわけではない。魔力消費、コストパフォーマンスを無視し、魔法に対する深い理解と天性を持っていればこその話だ。


 再現が容易な理由として、スキルは効果の規模が小さいことが挙げられる。

 対象が自分自身であったり、武器を使った攻撃そのものであったり、その攻撃に付随する効果であったり。

 発動媒体が自身の肉体であるために、必然的にそうなってしまうのだ。


 それが、リーンやエイヴが考えるスキルの最大の問題点であるらしい。


 すなわち――弱い。

 弱いのだ。

 スキルは、天魔の感覚では。


 どんな攻撃系のスキルも、天魔の魔法の規模と射程の前には無意味。

 魔法耐性を上げるスキルや対魔障壁を張るスキルがあろうと、天魔の魔法はその防御をあっさりと突き破る。これも無意味だ。

 接近・離脱に用いられる各種移動系スキルは転移魔法の下位互換でしかない。能力を上昇させる補助系もまた同じく。

 ……涙なしには聞けない話だ。


 このように、2人はスキルに脅威や利便性その他もろもろを感じていない。

 魔法で再現しづらい面白いスキル、珍しいスキルに対する興味はあるらしいが、逆に言うならそれ以外のスキルへの興味は失っている。


 一方の俺は誰もが使えるような汎用スキルこそ知りたかった。少なくとも闘技を控えた今は。

 だがそのあたりのスキルについては、『覚える価値はないかと』とか『使われることはないじゃろうな』とか言われた。


 それは天魔的な感覚だと思うのだが、諸兄はいかがだろうか。


「おう、ガラガラ……」

「時期が時期ですから」


 やってきたクリークの冒険者ギルドは閑古鳥が非常にうるさく鳴いていた。静かでいいが。


 * * *


 ギルドが所有しているスキル大全的な本は閲覧不可だったが、汎用スキルが載っている中級レベルの本は資料室で公開されていた。

 魔法についても中級くらいまでの本が置いてあるようだ。

 魔物については冒険者の安全に大きく関わるため、現在知られている限り全ての情報がイラストつきで開示されている。


「んー、スキルについての本は少なめみたいだなー……」


 スキル関連の本は、本棚の下部に並べられていた。


「あまり読まれていないようですね」


 取り出すのが面倒くさい場所にあるということは、つまりそういうことなのだろう。

 数的に言うと、やはり魔物関連が断然トップ。次は意外にも魔法関連、スキルは圧倒的最下位だった。

 どうやら冒険者ギルドでもスキルの地位は低いらしい。さすがに同情を禁じ得ない。


「……これにするかな」


 初心者用っぽい本を棚から抜き出した。


 スキルの原理やら概要的なところは、だいたい知っているので適当に読み飛ばす。


 最初に、攻撃系スキルの基礎として<強撃>のことが書かれていた。


 覚えられるスキルのようで、覚え方も単純。


 武器を同じ方向へ、例えば上から下へ、100回ほど、力いっぱい振ればいいだけだ。

 ただし、休憩や他方向への素振りを挟んではいけないらしい。


 なるほど。基礎と言われているだけあって、誰でも覚えられそうだ。何も知らなくても自然と身に着けているケースもあるだろう。

 ……ちなみに、<強撃>の有用な使い方は薪割りと書かれていた。それでいいのか?


 防御系の基礎は<頑強>。

 覚えるには、防御姿勢を取っている状態で100回くらい連続でそこそこの攻撃を受ければいいらしい。

 効果は発動時に体がちょっと頑丈になる。発動中は動けない。……ガチの盾役しか使えなさそう。

 有用な使い方……子供とのチャンバラや闘技ごっこ。おい。


 パラパラと見ていって、便利そうだと思ったのは命中補正を得る系統と移動や回避系。

 有用な使い方は、祭の射的とか鬼ごっことかだったけど。誰でも覚えられるレベルだからって酷くないか?


 初級というか入門レベルのスキルしか載っていないのに、覚え方はその半分くらいしか書いていなかった。

 中級レベルの本を見ても同様で、どうやら覚え方が判明してないスキルの方が多いようだ。

 スキルそのものの動作を知るのが目的なので、スキル自体を取得できなくても構わないのだが……。


「……リーンさ、このへんのスキルの覚え方とか知ってる?」

「いえ。天界にある資料にも書いてありませんでした。進歩がないか――版が古いか、でしょう」


 前者の可能性が高いな。

 <強撃>は100回だからいいものの、覚えるのに必要な素振りが1000回だったら検証は無理だ。


 ただ、大抵のスキルは基本的には特定動作の反復によって取得できるようだ。

 なら、覚えたいスキルと同じ動作を繰り返していれば……ん?


 例えば、バック転を3連続で行うスキルがあるとしよう。

 このスキルを覚えるためにバック転の練習をするわけだが……。

 スキルを覚えるくらい反復すれば、スキル使わなくても同じことができるんじゃ?


 おかしい、スキルってそういうもんだったか? イメージと違うっ。いや待て、おおお落ち着け。

 5回連続攻撃する流星剣は練習すればできるが、防御力を無視する月光剣は練習しても無理っぽい。あれ?

 練習できないのにどうやって覚えるんだ?

 スキルポイントとかないわけで、それっぽい練習するしかないのか?

 それだと徒労に終わる可能性の方が高い。

 その練習が無駄だとは言えないけど、あえて挑戦する人は少ないだろう。感謝の正拳突き1万回は常人には難易度が高すぎる。


「う、ううぅぅぅん……」

「スキルの最大の問題点は弱いこと――そして、一般的な問題点は能動的な取得が困難なことです」

「……知ってたんかい」

「改善されている可能性はありました」

「そらそうだ」


 ま、使えるようにはなれなくても、使われる可能性はあるんだから知っておいて損はないというもの。


「…………」

「…………」

「……………………」

「…………」

「………………………………」

「……いかがですか」

「おかしいな?」


 スキルを知れば知るほど首が傾いていく。なんでだ?


 <大跳躍>のような移動系や<遠見>のような補助系は、いい。


 いかんのは攻撃系・防御系スキルだ。


 剣を素早く振ったらカマイタチが飛んでいくとか。

 槍を頭上で回転させたら竜巻が巻き起こるとか。

 矢を空に向けて撃ったら100本になって降ってくるとか。

 刹那の瞬間に2度の衝撃を打ち込んで物体を破砕するとか。

 確率30%で10回連続発動しちゃう大きな盾とか。

 そんなスキルがあると思ったか? 残念。ないんだ。どこにも見当たらない。


「――そういった効果が魔法に近いスキルは、全てレアスキルとされていますね」

「ああ、あるにはあるんだ……」


 で、俺が見たかった汎用スキル群はと言うと。


 どれも使用者の能力の限界を超えていない。


 覚えて使ってみないと正確なところはわからないが、効果から見るに、さっき考えたように修練によって覚えられる型、止まり。


 例えば、連撃系。

 9つの斬撃を同時に打ち込んだりはできない。

 誰でもできるワンツーパンチ。といった感じだ。

 もしくは体操の技のように、動きが確立された技に名前がついている印象。


「ユニークスキルやレアスキルとの乖離が大きいので、その間に未発見のスキルが多くあるかもしれません。あるとすれば、おそらく魔法と組み合わせることで覚えられるスキルでしょう」

「……そっち方面には研究が進まなかったのか?」

「天使のせいでしょう。魔法の力で世界を支配していた天使は、スキルの研究を認めていませんでしたから」


 魔法を完全に無効化するスキルが見つかることを恐れたようだ。


「神級魔法を再現し、なおかつ万人がそのスキルを扱えるようになる――あり得ないと思うのですが」


 そのふざけた幻想をぶち壊してくれる奴はこの世界にはいなかったらしい……。


 ちなみに、同様の懸念から魔法研究も認めていなかったという。独裁的正義にありがちな話だ。


「その後の1000年は?」

「悪魔に近しい眷属は封印を守るために隠居しました。天使に近しい眷属はそう呼ばれていただけで元より世俗に興味なしです」

「魔法自体が、衰退した?」

「はい。生活魔法以外、特に攻撃魔法は壊滅的に」


 国が生まれ、魔法を研究する部署が作られてようやく魔法の新しい歴史がスタートした。

 0からとは言わないものの、初級魔法の記録と整理から入らないといけないレベルだったそうな。


 時代が進むにつれて次第に発展していくものの、宮廷魔導士隊やら門外不出の魔術士ギルドやら、どうにも閉鎖的な発展の仕方をしたようだ。

 ここ数百年で開放的になったものの、未だスキルとの融合には至っていない――。


「ぐぬぬ……」

「なんならアカシ様が研究してみますか?」

「……いや、いい。研究に魔法が必要な以上、リーンかエイヴの手を借りなきゃいかんわけだから」


 エイヴはまだしも、リーンに借りを作るのはよろしくない気がする。


「ただで構いませんよ。とりあえず、勇者の海を斬る技にでも挑戦してみませんか? 対象として、大魔王の炎の鳥を再現して差し上げますが」

「いやいやいや、それ燃えちゃうから。協力の意味も違うからっ」

「そうですか、それは残念です」



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