再度の再開
10月1日の開幕が迫るにつれ、花火っぽい魔法が打ち上げられる頻度が増し、熱気が高まってきていた。
闘技参加者は割と粛々としている感じだが、観戦者にはすでに昼間からアルコールが入っているご様子。
勝ち残りの予想がそこかしこで交わされ、激論になって喧嘩に発展することもしばしばだ。
大きな通りには各国からやってきた露店が並び、エイヴのはしゃぎっぷりが半端ない。
縁日に初めて来た小学生の如く、嬉々として見て回っている。
探知の魔法を使って俺とリーンの位置を捕捉しているらしく、人混みの中ではぐれないのはたいしたものだ。
「まいうーっ」
そんなこんなで戻ってきたエイヴはタレたっぷりの串焼きを食べていた。
欲望に忠実でけっこうなことである。
「焼きそばとかたこ焼きはないのかねー」
「はむはむ……んぐ……似たようなものはあるかもしれんがのー。おおっ、あれはっ! アカシよ、少しばかり預ける、食うてはならんぞっ」
俺に串焼きを渡すと、エイヴはバーゲンセール状態の人だかりに突っ込んでいく。
しばしの後に合流してきたエイヴの手には白いふわふわ。
「……綿菓子、か?」
「うむ、そのようじゃぞっ」
エイヴがかぶりつくと、ふわっと千切れて口の中へ溶けるように消えていく。
さすがにビニールの包装などはないものの、紛れもなく綿菓子だ。
作るのは確かそんなに難しくないし、あっても不思議ではない。
この世界だと砂糖がわりかし高級品なので、そこがネックかもしれない……が、なにせ魔法があるからな。
それからしばし、人混みを堪能した。
俺とリーンはあんまり買い食いはしなかった。味わったのは祭の雰囲気くらいだ。
……わざわざ人混みの中に出てきたというのに、あまり楽しめてない気がしてきた。
あれだ、そう、俺はもっとこぢんまりしたのが好きなんだ。
しかも祭とか縁日とか、普通は夜に行くもんじゃないか? 真っ昼間じゃ気分が乗らない。
「――む?」
右隣を歩いていたエイヴの首がぐるんっと動いた。
「今度はなんだ?」
「知った気配があってのっ、行ってくるっ」
小柄な体が人の波の中へと埋もれていった。
「落ち着きのない……というかエイヴが知ってるって誰だ?」
悪魔たちはエンデにいるわけだから、候補はそんなにない。
エイヴが戻ってきたときに連れていたのは案の定というか、英雄の子孫一行――の一部。
アッシュとデューイ、コレッタの3人だった。
冒険者も多く集う大闘技祭の開催が迫っているとはいえ、よくよく縁があるらしい。
* * *
さすがに雑踏の中での立ち話もなんなので、メインストリートから少し離れた店を探して入る。
ランチとディナーの境目的な時間なので、さすがにガラガラだった。
……それでも酒を飲んでいる客が数人いたが。
「ティナとルシールさんは別行動ですか?」
「ああ。2人は仕事中だ。フルーク王国の王族の護衛をしている。指名依頼という形で国から頼まれてな」
「ま、パーティーっつーより、ティナへの個人依頼みてーなもんだけどよ?」
フルーク王国の第二王女様がここ、闘技都市に来ているらしい。
「……そういうのって、他人に話すのよくないんじゃ?」
「かまわねえさ。お忍びとかじゃなく、公務だからな――」
4年に1度の祭典――大闘技祭には、大陸中から万を超える闘士が集う。
国に帰属していない自由都市といえども、ここまでの規模となると国の思惑から逃れられない。
それは主に、自国の喧伝と人材確保の2点だ。
大闘技祭が始まって間もない頃、自国の武と魔の優秀さを知らしめようと騎士や魔導士を闘士として送り込む国が多かった。
ああしかし、これが面倒なのだ。早々と敗退したり、多人数を送り込んで優勝できなければ、逆効果でしかないわけだから。
組み合わせが悪い、などとモンスタークレーマー状態の難癖をつけた国もあるし、国のメンツに泥を、という理由で闘士として参加した騎士たちを処刑した国もあったそうな。
いつしか闘技都市側は円滑な運営のために各国に1名ずつ、決勝トーナメントから参加できる招待選手枠を用意するようになった。
しかしそうなると、騎士たちの直接対決の確率は大いに高まる。国に所属していない闘士に負けるのはともかく、他国の騎士に負けるのは云々……と。
その問題を解決するため、各国は負けたときの言い訳に、自国最強ではなく若手のホープ的な立場の人間を選出している模様。国って面倒くさい。
人材確保の方はそのまんまだ。優秀な闘士には唾をつけたい、と思う国は多い。
決勝トーナメントに出場する闘士は当然のように取り合いになる。金色やらピンク色やらのモザイクな接待まみれ……かどうかは知らないが。
ならば重要となるのは、予選敗退者だろう。
プロ野球のドラフトみたいなもんだ。
甲子園に出場、まして優勝したチームの選手が優れてるのは誰だってわかる。スカウトの腕の見せ所はそんなところにはない。
隠しキャラをドラフト下位でこっそり指名する。それがジャスティスなのだ。日米4千本のレジェンドもドラフト4位なんだから。
それはおいといて、予選に使われる闘技場の数は36。
事前のリストアップは可能にしても、できれば全てを見たいと思うのが人情なので、派遣するべきスカウトは36名以上。
自国をあんまりスカスカにするのも問題なので、騎士や魔術士の小隊長クラスといったところか。
この数と質はちょっとした使節団レベルで、公式に動くとなれば代表が必要になってくる。
今回フルーク王国でその役目を担うことになったのが、第二王女様だったわけだ。
副代表かつ実務担当に騎士団長殿という形。国って面倒くさい。
その使節団ご一行に護衛としてティナ――とルシールさんが加わることになったのは、王女側の意向だそうだ。
なんでも、ティナは王女と同年齢で面識がある、というかそこそこ親しかったらしい。
「3人が外れてるのは、やっぱ男だから?」
「そういうこったな。任せっきりで2人にゃ悪い気もするけどよ、おかげで大闘技祭に参加できるってもんだ」
「ほほう、お主も参加するのか?」
「おう、とーぜんよ。依頼がなくても来てたかもしんねーくらいだからな」
デューイは優男風味な顔立ちの割に、好戦的っぽいしなー。
「出るのはデューイだけ?」
「いや、3人とも出るぜ」
「俺とコレッタは闘技場<ヘルト>で登録した。俺が戦士で、コレッタは魔戦士クラスだ」
「アッシュはともかく、コレッタも出るのか……意外だ」
「まー正面から戦うのは苦手だけどさ。しかしっ、おれには予選突破の秘策があるっ!」
ビッと親指を立てるコレッタ。
「おー」
って、それより。
ヘルトってどこかで聞いた……見たような気が?
「オレは<ヴェルト>の魔戦士クラスだ。魔法は使えねーけど、やっぱガチならなんでもアリじゃねえとよ」
「漢だなぁ」
身内と予選で潰し合うのはなんだから、別の闘技場で登録したようだ。
「そっちはどうなんだ? 観戦だけか?」
「妾も出るぞっ! <ファウスト>の魔戦士クラスじゃっ」
「へえ?」
「私も同じく<ファウスト>の魔法士クラス――そして、アカシ様が<ヘルト>の戦士クラスです」
「……は?」
「ですから、アッシュ様と同じ闘技場、同じ戦士クラスに登録しました」
「リーン……お前ってやつぁ」
わざとか。わざとだな。アッシュが登録したのを知ってて、俺をそこにぶつけたんだな。
となると、この再会も偶然というほど偶然ではないわけだ。
彼らも出場する闘技場の近くに宿を取っているはずだから。
「――アカシ、ナンバーは?」
「102です」
何故にリーンが答えるのか。
「俺は67だ。バトルロイヤルでは当たらないな。トーナメントで会おう」
「お、おう」
すごいな、自信ありそうだ。
魔法士クラスならともかく、戦士クラスのバトルロイヤルなんてよっぽど突き抜けてないとドロドロ試合になりそうなもんだけど……。
そういえば、アッシュやデューイのレベルやら実力はどの程度なんだろうか。
ノルデンで会ったときは低ランク同士だったわけだけど……。
3人が参加。つまり参加費は金貨9枚。90万リーフ。900万円だ。
それを生活とは関係ない闘技大会につぎ込めるくらいの稼ぎがあるということになる。
ティナと別れたときにもらった手切れ金あたりかもしれないが、そうでないならBランク以上、上級に手がかかっているくらいのパーティーと考えていい。
とするなら、メンバーもそれ相応の強さがあって然るべき――すっげー戦いたくないな。
いやまあ、この理論で推し量るなら全ての闘士がBランク以上の実力ということになるわけだが。
それにいつぞやの受付ナイフ嬢が言っていたように、対人と対魔物は別物だから冒険者ランクの評価も参考程度でいいはずだ。
俺のランクもある意味で養殖だしなっ。
ふう、しかしアッシュがいるとなるとリーンとの賭け――勝ちの目がめっきり薄くなったな。
相手がパワータイプなら勝ち目は十分あるはずだが、アッシュのスタイルはおそらくスピード・テクニック系だ。刀使ってるし。
そういうタイプとは正直なとこ、天ぷらとスイカレベルに相性が悪い。龍の方が戦いやすいまである。
ま、それ以前にバトルロイヤルを勝ち抜く算段をするべきなんだろうけど。
ルールもよくわかってないし、戦士クラスならスキルがばんばん飛び交いそうだからスキルも調べた方がよさそうだ。
……露見するのが少し早かったですね。
知らないままというのは骨折り損なのでよしとしておきますか。
トーナメントで当たってくれることを祈りましょう。




