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睡眠男子の異世界行脚 ~眠りあれ~  作者: えいてぃ
第1部 新たな英雄
37/164

闘技都市クリークと大闘技祭


「話には聞いてたけど、これはすごいというかなんというか……呆れるな」


 闘技都市クリーク――大陸南西部に存在するその都市は、その名の通り闘いのメッカ。


 都市最大の特徴は、なんといっても円形闘技場――の数だろう。

 都市が闘技場で埋め尽くされている、という表現が誇張でないくらいに存在している。


 その数なんと37。

 なんと37だ。大事なことなので二度言った。


 しかもそれだけあってなお、都市の外縁部には建設中の闘技場があるのだから恐れ入る。

 本人たちは必要だと思っているのだろうが、端から見るとやり過ぎかつ不要という公共事業の典型的情景かもしれない。


 そんなバトルジャンキーな都市なので、各闘技場では毎日盛んに闘技が行われている。

 月や年単位のチャンピオンを決めたり、賞金トーナメントを開いたり――闘技場ごとに存在する運営主が様々なルールを決めて、闘士と客を集めているようだ。


 そして、今回。

 オリンピック的な間隔の大会――大闘技祭は、全闘技場の共催だ。

 当然ながら規模は最大で、大会全体の出場者は2万とも3万ともいわれている。


 一部の招待選手を除く一般参加者は、各闘技場で行われる予選大会に出場する。

 これはどこの闘技場の予選に参加しても構わない。

 普段から闘士登録し、良成績を残している闘技場だと、予選の予選が免除されたりといったこともあるようだ。


 決勝トーナメントへ進出できるのは、闘技場ごとに各クラス1人ずつ。

 闘技場の数は37。

 予選に使われるのは36なので各クラス36人、トータルで108人が本戦出場となる。


 この狭き門を突破した猛者たちが集う決勝トーナメントの舞台は、都市の中心にある大闘技場。

 ウインブルドンのセンターコートが如く、闘士たちは大闘技場を目指して闘うわけだ。


「大闘技場を含めたいくつかの闘技場は天使の遺産で、奴隷を殺し合わせていた歴史があります」

「……剣闘士とかそんな感じか?」

「そうですね。天使やその眷属は、その殺し合いを見て、血を見て、愉しんでいたようです」

「――と言うても、殺しこそ御法度となったが、闘技そのものは大衆に受け入れられおるからの」

「古来より人の娯楽はさして変わららないということでしょうね」


 人は闘争をどこかで求めている。

 野生の血というか、動物的な本能というか。

 俺でさえ年末格闘技には興奮していたくらいだからして。


「まあそんなことよりも、参加登録せんとのっ」


 * * *


 大闘技祭の開幕を5日後に控え、闘技都市クリークには多くの人が集っている。

 例年通りなら参加者だけで2~3万人、観戦者はその10倍以上いるとか。


 大闘技場へと続くメインストリートは、祇園祭の宵山・四条通が如くの混みようだ。微妙に用途は違うが人混みがゴミのよう。


 大闘技場のキャパシティは3万人ほど。一般的なサッカースタジアムくらいだろうか。

 決して少なくはないものの、4年に1回の祭典――そのメインイベントの観戦希望者はそれを遙かに上回る。

 そんなわけで決勝トーナメントの観戦券にはプレミアがつくらしい。最前列の席ともなれば、金貨100枚を超えるとか。


 チケットの入手法はVIP席と参加闘士の身内席を除き、抽選販売だ。

 過度の競争を防ぐには妥当なところだろう。

 もっとも、価値の高さから転売が盛んらしく、宝くじ的な意味合いが強くなってしまっているようだが。


 そこで、適当に選んだ闘技場に向かったエイヴが戻ってきた。


「お、どうだった?」

「うむ、問題なかったぞっ」


 エイヴはそう言い、プレートを見せてきた。

 闘技場名と参加クラス・ナンバーが記載されている。


「163か。さすがに多いよなー」


 参加者数が例年通りなら、各闘技場に1000人程度の参加者が集まるはず。

 各クラスに300人ほど。だとすると、この数字はまだまだ増えていくのだろう。


「魔戦士クラスじゃから、3日目じゃ」


 予選の予選は人数を大幅に絞るために、10人から20人くらいが同時に闘うバトルロイヤルだ。

 気絶・降参・場外が敗北条件。舞台の広さにもよるが、よっぽど実力差がない限り、確実な勝ち残りは難しそうなルール。

 ――エイヴにはまったくもって関係ない話だろうが。


「んじゃ、近くで宿探そうか」

「そのことなのですが――別の闘技場でアカシ様も戦士クラスに登録してありますので」

「……は?」


 今なんて言った? 登録……?


「その闘技場との中間あたりがよろしいかと」

「い、いやいやいやっ! 勝手に何してるんだよっ! ってか、いつの間に……!?」


 クリークについてから、リーンとはずっと一緒に行動している。


「昨夜、一足先に来て登録しておきました」


 と言いながら、参加プレートを渡してくる。


 こ、こいつは……。


「闘技場<ヘルト>の戦士クラス。初日ですね」

「……別に出なくてもいいんだよな?」

「罰金取られますよ」

「おいーっ!?」


「いいではないですか。ちょっとした腕試しということで」

「アカシくんのちょっといいとこ見てみたいのぅ」

「お前らなー……」


 自分の強さがどれくらいなのか興味は、ある。

 あるが、痛い思いをしてまで知りたいとは思わない。


 俺のレベルは上がっていない。つまりステータスの向上もしてないことになる。

 中級冒険者相当。参加人数から類推するに、ステータスは参加者の平均程度だろう。

 要するに、どう足掻いても予選敗退レベルということだ。


 それを覆すことができるとしたら、<眠りあれ>なのだが……。


「……なんていうか、スキルは隠しておいた方がいいと思うんだよなぁ」


 俺のスキル――<眠りあれ>は強力だ。

 しかし同時に、当たらなければどうということはない、を地で行くスキルでもある。


 基本スペックがチート級の奴ならスキルを知られたところで影響は軽微だろうが、俺程度の能力値だと死活問題になりかねない。

 まあ、戦う相手は基本的に魔物だから問題ない説もあるのだが……。


「むしろ好都合では? 心理戦で優位に立てると思うのですが」

「そうじゃな。同じナイフでも、毒ナイフとナイフでは脅威に雲泥の差があるからの」


 掠れば死ぬ毒ナイフを相手にしたら、迂闊に攻められない。しかし、だ。


「それって普通のナイフに見せかけた毒ナイフが最強じゃないか?」

「こすいのぉ」

「相手の油断をつくのは当然の戦略だ。世の中にはツボを突いただけで人をひでぶさせる拳士もいるし、デコピンで人を吹っ飛ばす教師もいるんだぞ? 見た目で攻撃力を判断する方が悪いってもんだ」

「ふむ……野菜王子の忠告がなければ菜っ葉は真っ二つになっておったようなもんじゃな」

「そんな感じ……か、な?」


「それほど心配はないのでは? 決勝トーナメントに進出しない限り、個人情報はそう広がらないでしょう」


 つまり、予選負けする俺は問題ない、と。

 ……なんかそう言われると意地でも予選突破したくなってくるな。


 せっかくだし、やれるだけやってみようか。


「おお、そうじゃそうじゃ。リーンも登録しておいたぞっ」


 内心やる気になっていると、エイヴが爆弾を投下した。


「……はい?」

「妾と当たらないよう魔法士クラスにのっ」


 エイヴがプレートをずらすと、そこにもう1枚のプレートが現れた。


「あ、あなたは何を勝手なことを……」


 お前が言うな&ざまあ、である。

 さすがエイヴ、さすが悪魔王、いい仕事をする。

 

「でかした、エイヴ」

「そうであろうそうであろう? 仲間はずれはよくないからのっ!」


 なんだって? 仲間……はずれ?


「……ってことは、エイヴは俺が登録されたの知ってたのか?」

「む? リーンが何やら動いておったからそういうことなのかと思っておっただけじゃ。リーンがアカシのプレートを出さなければ、妾も出すつもりはなかったのじゃがなっ、はっはっはっ」


 要するにリーンの自業自得か。リーンを止めてくれれば満点だったのだが、まあいいか。


「しっかし、他人を登録できるシステムってどうなのよ」

「普通は他人を登録したりはしないでしょう。参加登録料は金貨3枚――30万リーフですから」

「高いんだな……」


 参加するだけで300万だと。ありえん、こともないか。


「決勝トーナメントに勝ち残るとそれ以上の賞品が出ますし、何より冷やかしは困るということでしょう」

「罰金取るくらいだもんなー」

「――いえ、罰金というのは参加登録料の没収のことです」

「なんだそりゃ……」


 ドブに捨てるには痛い金額ながら、現状から差っ引かれることはないと。

 そもそも登録料はリーンが勝手に払ったわけだし――ああ、じゃあ俺は出なくていいんじゃないかな。


「アカシ様――ひとつ、私と賭けをしませんか?」

「ん?」

「もしもアカシ様が決勝トーナメントに進出できたら、ひとつだけ、アカシ様の言うことを聞きましょう」

「そりゃまた定番だなー……」


 予選を勝ち抜けば、リーンにひとつ命令できると。


 …………。

 ……あんまりおいしくないな。

 これといって、してほしいことが思いつかない。


 まあそれはともかくとして。

 リーンが賭けを言い出したのは俺が不参加を考え出したからだろう。


「どうしてそこまでして出場させたがる……」

「身内という要素がないと肝心の闘技が楽しめませんから」

「……それはレベルの問題で?」

「舞台上で成り立つような戦闘など児戯に等しいかと。殴り合いであれば、技量に関係なく楽しめるような気もしますが……」

「なるほどねえ……」

「エイヴ様がノリノリで参加される理由がさっぱりです」

「祭は参加してこそじゃからなっ」


 1000年見てるだけだったわけだからな、エイヴは。

 何でも参加してみたいんだろう。結果がわかっていたとしても。


「数万の大歓声を一身に浴びてみたいとは思わぬか?」

「特には。ただ、そうですね……確かに、こういう機会でなければ成り立たない状況という意味で、興味が皆無ということはありませんね」


 細胞が打ち震えて、筋肉が超蠕動とか起こしそうだな。


「……ところでさ、参加者も賭けられるのか?」

「自分が参加する闘技以外なら問題なかったはずですよ」

「そうか、それは重畳」


 エイヴはやる気満々だからいいが、リーンはどうなんだろうな。


「私はこう見えて負けず嫌いなので、参加するからには勝ちますよ」


 と、本人は言うが……正直、素直には受け取れない。

 上げて落とすタイプでもあるのだ、リーンは。


 調子に乗って全財産つぎ込むと、それを察して負けかねない。


 予選トーナメント決勝が怪しい。

 エイヴとの会話を考えると、決勝トーナメント1回戦も。


「そう疑われてましても……少なくとも――アカシ様より早く負けるつもりはありませんよ?」

「あ、そ」


 要するに、俺が賭けに集中し始めたらいつでも負ける準備があると、そういうわけか。

 ま、勝ち金だけを賭けていけば問題あるまいて。


 カジノでは負け散らかしたので今度は勝ってみせる。


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