出立!
「3人のおかげで人権を広めることができそう。本当にありがとうね」
「いえいえ、こっちにも思惑があってのことなんで。それに、大したことは……」
言いかけて、神殿に滞在した1ヶ月のことを思い返す。
「していませんね、アカシ様」
「うるせー」
「はっはっは、気にするでない気にするでないっ」
大したことをできなくした張本人に言われても……。
まあ資料作りとかテキスト作りとかレジュメ作りとか資料作りとかに精を出したおかげで、久々に昼寝を満喫できたのはよかった。
そう考えると、もうちょっといたい気も……。
「――アカシ様?」
リーンが、じとーっとした視線を向けてくる。
この1ヶ月、エイヴはノリノリで講師をしていたが、リーンはけっこう退屈そうだった。
英雄の漫画やら小説がなければ、焦れて旅の再開を提案してきたかもしれないと思えるくらいに。
まあ、俺が裏方に回り、あたふたすることがなくなってつまらなかった、というだけかもしれないが。
「――では、またいずれ」
「うん、またね。わたしはだいたいここにいると思うから、ハイリンゲンに来たら顔出してよ」
「うむ、賢者様ご一行として歓迎させてもらう」
「賢き者などと、偉そうでよろしくないの。第一ドスがきいとらんっ。妾のことはだいばぶっ!?」
思わずエイヴの口を塞いでしまう。
「通じないネタに走るんじゃない……そもそもグレート・ティーチャーって名乗ったの忘れたのかっ」
「もが……そ、そうじゃったの! 忘れておったわっ、はっはっ」
などというやり取りを経て、見送りに来てくれたセリアさんや神殿関係の人たちと別れたのだった。
* * *
神殿が見えなくなると、リーンがふうと息を漏らした。
「やっとおさらばできましたね……」
「俺はもっといてもよかったんだけどなー……っていうか、そこまで退屈してたのか」
「いえ、退屈は退屈でしたが天界ほどではありませんし、苦痛を感じていたのはまったく別の理由です」
そうかのか。
「ちなみに、聞いても?」
「――神殿では皆が祈り讃えているのですよ?」
「は?」
「太陽神の――ゾネ様の素晴らしさを、歯の浮くような美辞麗句で」
「…………」
……ということは、何だ?
「それが実態とあまりにかけ離れていて、耳にするたびに笑いが……ふふ、ふふふっ」
無表情というか退屈そうに見えたのは、笑いを堪えていたからだったようだ。
「くくくくっ、だめじゃな、こやつ。早くなんとかせんとなぁ」
「いや、もう末期だ……」
雷が降ってきても知らんぞというレベルで馬鹿にしている。
「っていうか、お前も笑ってるだろっ」
「うむ、言われてみればと美化しすぎじゃと思うてのっ」
「ずぼらな上にとろくさい方ですから。そのよく言えばおおらかな気質は、太陽神の名にふさわしいかもしれませんが――ふふっ」
幸いというか、女神から天罰はなかった。
* * *
「次にどこ行くかなんだけど、何かおすすめとかある?」
昼食を食べつつ、次の目的地についての相談をする。
ちなみに、ここハイリンゲン――別名・水の都は、肝心の太陽神殿の内部で過ごしていた時間が長かったものの、まあそこそこに堪能できた。
朝早くに出る霧とか、夕陽に照らされる神殿と噴水のコラボレーションとか。
船に乗って、将来的には名所になりそうな橋のいくつかもくぐれた。
魔法やスキルによる石材加工が可能なのか、石造りの建築物の質が高くなかなか見応えがあった。
写真や映像でお伝えできないのが残念だ。
「おすすめというわけではないが、妾は闘技都市クリークを希望するぞ」
「ほう、闘技とな……? コロシアムとかあるのか?」
「うむ。10月1日から20日にかけて、4年に1度の闘技大会が開かれるのじゃよ」
「闘技大会っていうと……やっぱ天下一なんちゃらっぽいバトルの祭典か?」
「まさにっ! クリークは自由都市のひとつでの、世界中から猛者どもが集まってくるのじゃ!」
「ほーう。やっぱそういうのって、試合の勝敗賭けたりするんだろ? なんか面白そうだよなー」
「アカシ様……そこは出場を表明されるところでは?」
「やだよ、そんなとこで闘うの。俺は男ではあるけど、漢じゃないんだ」
「妾は漢じゃからなっ、出場するぞ!」
だから行きたいのか。
「……いいの?」
と、リーンに聞いてみる。
「政治的信条とは無関係な都市の大会ですから」
「ならいいか」
悪魔王と呼ばれていたエイヴの戦闘力は冷凍庫クラス。
しかして見た目はちんまい子供。
これは高倍率が期待できるのではないか?
「って……年齢制限はないの?」
冒険者にもなれないんだぞ、エイヴは。
「士官学校や魔法学校の生徒も出場しておるくらいじゃ、問題なかろうてっ」
「んじゃ、決まりってことで」
次の目的地は闘技都市だ。
「リーンは出場――」
「しません」
「やっぱり」
ちぇ。見た目だけならエイヴと同じく戦うようには見えないし、稼げそうなんだけど。
「結果が見えた勝負など興が削げますし、エイヴ様と本気で戦うようなことになれば闘技場どころか都市ごと消えますよ」
天使と悪魔の魔法を掛け合わせると消滅エネルギーが生まれるのか。
「……そういえばさ、闘技大会って魔法使ってもいいわけ?」
「出場クラスによりけりですね。魔法禁止の戦士クラス、武器を持たない魔法士クラス、武器・魔法を使える魔戦士クラスが設けられていたはずなので」
「エイヴはどれに出るんだ?」
普通に考えると、魔法士クラスだが――。
「無論、魔戦士クラスじゃぞ? ヴァーリ・トゥードこそが闘技の華なのじゃっ!」
「何でもありかー……」
エイヴならそれでも問題ないんだろう。
他の魔法使いがどうなのかよく知らないが、エイヴもリーンも大呪文を連発する大魔王が如く魔法の発動までにタメがない。
詠唱もしていない。そもそもあるのか知らないが。
接近戦を得意とする戦士にも速度負けしないはず――というか、魔法による身体強化が半端ないので殴り合っても勝ちそうだ。
まあなんでもいい、稼がせてもらおうではないか。




