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睡眠男子の異世界行脚 ~眠りあれ~  作者: えいてぃ
第1部 新たな英雄
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カジノでGO!

数多の小説の中から読んでいただきありがとうございます。


「沼は、沼はないんじゃろかっ!」


 超ハイレートパチンコの名を口にしながら、ドレス姿のエイヴが俺の手を引っ張っていく。

 俺たちがいるのは、いわゆるカジノ。


 『カジノでも楽しんできたらいかがでしょう』というリーンの提案を受け、エイヴと共に国営だか貴族営業だかの賭博場へとやってきたのだ。


 アッシュたちがティナのために動いているときに遊ぶというのはちょっと不謹慎かもしれないが、依頼を受けたリーンがそうしろというのだから従うまでだ。


 俺はリーンを高く評価している。その腹黒さを大いに称賛している。

 なので、俺はリーンがその気になれば現状でも問題を解決できると考えている。


 それをしないのは、それでは駄目だからだ。

 天魔の条約に触れるという以前に、これはパーティーという名の、彼らの家族の問題だ。

 どのような形であれ、その結末はあくまで彼ら自身の手によって導かれるべきなのだ。


 ――まあ、そういう思考も、一種の通過儀礼のようなモノではあるんだろうけど。


 ちなみにその黒い天使はというと、英雄の部屋にあった本を読むために日本語の勉強中。

 何故自習しているかというと、俺が教師として役に立たないことが判明したからだ。


 語学教師に必要な条件は、両言語を習得していることだろう。

 上達してくれば、学びたい言語だけでのやりとりも可能だが、初期段階では意思の疎通に必須となる。


 俺がこの世界で読み書きできるのはもちろんスキルのおかげ、なのだが、このスキルがくせ者だった。


 挙動が複雑怪奇すぎる。


 俺が口にしているのは、こちらの世界の普遍的な言語らしい――こちらの世界に存在しない概念の言葉は日本語の発声になるようだが。

 リーンが割と的確に突っ込んできたのはそれが原因だったりする。


 俺は日本で暮らしていたときの感覚のまま、日本語で話しているつもりなのだ。

 なのにこの世界の言語を発声している。口がスキルによって勝手に動かされてでもいるように。


 読み書きもそう。

 読みだけなら意味を日本語で読み取っていると考えればいいのだが、出力にもスキルは適用される。

 手が勝手に――自然にともいうな、モノは言い様だ――動いて、知らないはずの文字を紡ぐ。


 ファンタジーと言ってしまえばそれまでだし、意識しなければ気にならないので実害があるわけでもない。

 だが、どうなってんのこれ、という感は否めない。


 話が微妙に逸れたが、つまり俺はこちらの世界の言葉を日本語と変わらない感覚で使える。意識せずに。当然のように。

 結果――言語の使い分けができないという現象が俺の中で起きている。

 日本語と英語がというのではなく、こっちの世界の元の世界の言語という意味で。


 リーンが最初に覚えようとしたのは自分の名前の書き方。基本だ。

 発音としてカタカナで表すよりないので、日本語のカタカナで『リーン』という字を教え――ようとした。


 が、俺が書いたのは、こっちの世界の表音文字で『リーン』だった。

 何を言ってるかわからねーと思うが、俺にもわからない。

 理解できたのは、知っている字を、思い描ける字を書けなかったという事実だけだ。


 ならばと、こちらの世界にはない概念の言葉――漫画という漢字を書こうとした。

 同じく、こちらの世界の表音文字で『マンガ』と書いてしまった。


 日記を書いているときはリーンが読めるようにこっちの言語を使っていた。

 それまで一度も、元の世界の言語を使おうとしなかったのでそうなってしまうことに気づかなかったのだ。


 もちろん日本語は日本語として、当たり前に読むことができるし、発声を理解することもできる。

 漫画も読めるし、ライトノベルも読める。変身ヒーローモノの音声も聞き取れるし、謎怪人の言語も理解できる……いやすまん、それは嘘。


 とにかく入力は問題ない。


 問題は出力。

 文字を書き出せないし、意図して発声もできないのだ。


 自由に発声できたのは漫画の擬音表現。

 しかし、これは『ドッカーン』です。これは『バキッ』です。これは『ひでぶっ』です。

 なんてことだけを力強く叫ぶだけでは、教師ではなく単なるかわいそうなコではないか。


 あと科学範疇のこちらにはない概念の言葉だが、それは日本語の勉強において必須でもないので後回し。

 そんなわけで教師のお役ご免になった。ラッキー、とか……思ってないよ?


 さて、そんなことより今はカジノだ。


 入場には年齢制限があったが、Bランクの冒険者カード――収入と実力の保証――の提示でそれはクリアできた。

 エイヴはリーンのカードを使うという暴挙に出たがバレなかった。

 名前と性別しか登録されていないことが幸いしたのだろう。年齢が書かれていたらアウトだったに違いない。


「パチンコはたぶんないと思うぞ」

「むうっ、それは残念じゃのう……」


 ピンボールの歴史は古そうだから似たようなモノはあるかもしれないな。


 広大な店内の中程まできたところで、ぐるりと見渡す。


 遊技場は魔具が放つ色取り取りの光で煌びやかに彩られ、音量は低めながら音楽も流されている。

 行われているギャンブルはトランプやルーレットといったディーラーがいるテーブルゲームが主体。

 だが意外や意外、数は多くないながら3リールのスロットまである。機械式か、それとも魔具を利用しているのか。

 文明レベルからしてもっと『賭博場』っぽい感じを想像していたが、十分にバブリーな装いで十二分に背徳の都カジノだ。


 そこを行き交う人々の姿や表情は実に様々。

 欲望丸出しで一攫千金を目指している冒険者らしい風体の人から、着飾って優雅に社交場として利用している上流階級っぽい人まで。

 俺とエイヴは、さしずめ上京してきたばかりの田舎者だろうか。


 軍資金は金貨1枚の10万リーフ。

 1000リーフコイン80枚と、100リーフコイン200枚に替えてもらった。


 庶民の俺には100万円相当というとかなりの大金だが、カジノで動いてる額からすると少額かもしれない。

 が、破滅と抱き合わせはご免だ。楽しめればそれでいい。


「狂気の沙汰ほど面白いなんていう幻想は云々」

「おお、麻雀もやりたいのっ」

「今のパーティーじゃサンマしかできないけどなー」

「ではあとひとり探すとするか――」

「麻雀のために仲間増やすつもりかいっ」

「むう」

「それはおいおい考えるとして、何をするか――だが」


 プレイの楽しさという意味ではカード系。

 けど、ルールがわからないので避ける方向でいく。となると。


「ルーレットかな?」


 というわけで、席が空いてるテーブルを探して座った。


 1000リーフコインには手をつけず、100リーフコインを100枚ずつ持つ。


「ほうほうほう、これはどういうものなんじゃ?」

「玉がどの数字に入るか当てるゲーム……のはずだ」


 数字は赤と黒に分けられた1~36までと0。

 何回か見学してみるが、元の世界とさほどやり方は変わらないように思えた。


 前ゲームのコインのやりとりが終わり、ディーラーによってベルが鳴らされベットタイムに突入する。


「そろそろ加わってみるか?」

「――うむ、これならいけそうじゃ」


 ディーラーが終了の声を投げるまでにコインを賭けるわけだが。


 単純に1つの数字を狙う賭け方の他、1枚のコインで2つ・3つ・4つ・6つの目に同時に賭けることもできる。

 また、赤黒・偶数奇数・0~12などなど、賭け方は豊富だ。


 まあ、最初の1回と言うことで俺の狙いはただひとつ。赤だ。


「やっぱり後張りのがいいかな」

「後張りとは?」

「玉が投げられてから賭けるやり方……だったはず」


 ディーラーは狙った数字に入れられるのか?

 よくある話だが、これについては逆の考え方をするべきだろう。

 すなわち、ディーラーは狙った数字に入れないことは可能なのか、と。


 狙った数字を外すのはそれほど難しくないと思われる。

 もしも疑いを持つなら精神衛生上、後張りにした方がいい。


 まあ少額ずつしか賭ける気はないので、まったく無意味な配慮だ。まして、赤か黒かで賭けるのであれば。


「なら、妾も後張りとやらにするかのぅ」


 しばらく待っていると、ディーラーがホイールを回し、それとは逆回転で玉を投じた。


「俺は赤に」


 様子見ということで、100リーフコインを1枚、その上に自分の席を示す色のコインを載っけて赤にベットする。


「妾は――」


 エイヴは玉が回っている姿をじーっと見て。


「17じゃ……!」


 同じく100リーフコインを1枚ベットした。

 1つの数字に。

 37分の1の夢を追うらしい。


 これが狂気の宴の始まりだったことに、このとき俺はまだ気づいていなかった。


 カラン、カランと玉が目の上を踊る。

 そして、玉がひとつの目に入り、止まる。


「――黒の17!」


 ディーラーが当たりの数字を宣言した。

 俺は2分の1を外し、エイヴが37分の1を的中させた。


「……まじかっ!?」

「はっは、当たったようじゃなっ」


 1点賭けの払い戻しは35倍だ。

 100リーフが3500リーフになって戻ってきた。


「よしよし――では、倍プッシュじゃ……!」


 ディーラーが次のゲームを開始する中で、エイヴがそんなことを宣った。

 やばい、この悪魔なんかギャンブラーだ。


 まあ、予算範囲内で賭けるのは好きにしてくれたら構わないが。


 俺はどうしようか、とりあえず赤が当たるまで赤に賭けようかな。


 最初に100リーフ賭けたので、100リーフの儲けを狙うことにしよう。

 当たるまで、負けた額の倍を賭け続ける戦法で。


 100負ければ200を賭ける。当たれば400の配当、トータル100の儲け。

 負けても負けても倍額のベットを繰り返すことで、必ず儲けが出る……資金と1ベット限度額が無限なら。


「じゃ、俺は赤に200リーフ……!」

「妾は1に3500リーフじゃ……!」


 エイヴはさっきの言葉通り、払い戻し全てを――赤の1に賭けた。


「え? えっと? 倍プッシュは普通2択にかけるものなんじゃ……?」


 俺の賭け方こそが倍プッシュであり、勝率3%以下に全額ぶっ込むのは何かが違う。間違っている。


「む? 勝ち金を全てつぎ込めば倍プッシュでいいのではないかの?」

「ま、まあ……ね」


 ディーラーがベット終了の合図を出した。

 そして――……。


 そこは、1000年前の状態をほぼ保っていた。


 石造りの建物もその内部も、そこで行われていたことを示す道具類も。

 手入れせずとも、今日から使えそうな状態だ。


 建物や道具自体が特別な代物ではない。

 付与魔法によって強度が増し、長持ちしているだけだ。 


「持ち出しはされているようですが、やはり念のため調べておきましょうか」


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