空中庭園
「リーン……」
「はい」
「知ってたろ?」
「はい?」
「空中庭園が、がっかり名所だって」
「もちろん、知識にはありました」
しれっと言い放ってくれちゃったりする。
「付け加えるなら、残念な名所を見て残念な顔をする観光客の姿を楽しむ残念な観光地だと」
「くわーっ」
空中庭園が世界3大がっかり名所に数えられることを知ったのは、王都フリューゲルに着いてからだった。
空中庭園はその名の通り、空中に連なって浮かぶ島――なのだが。
上空3000メートルにあるとされるそれらは、普通の視力ではまともに見えないのだ。
遙か上空にいるヘリコプターでも想像していただけるとお分かりいただけるだろう。
青空に浮かぶ12の小さな黒点――快晴という最高の気象条件でありながら、それにて終わりである。
加えて、過去の文明が造ったのか、それとも自然物なのか――名所を彩るはずの由来や歴史なども不明という体たらくだ。
フリューゲルの冒険者ギルドにはこんな依頼が張り出されている。
依頼主:フルーク国王家
依頼内容:空中庭園の調査(別紙詳細)
報酬:相当額(情報の質と量を審査後)
男爵位の授与(完全に解明したと依頼主が認めた場合)
どうもン百年前から変わらずこの依頼は出ているらしい。
宮廷魔導士や学者たちも、空中庭園への到達や浮遊の原理の解明を目指して研究を続けているようだ。
「ふん、あれは飛行石で浮いてるに決まってるじゃないか」
「それがどのようなモノかは知らんが、魔具で浮いているとは聞いたことがあるの」
「ほう? 1000年前からあったってことか?」
「天使が造った施設じゃからの」
「マジ? ――何のために?」
「聞かん方がよいぞ?」
あんまりいい施設ではないらしい。
「ま、いいや。次、次っ! 水の都へ向かうぞっ!」
手分けしてそっち方面へ向かう依頼を探す。
「残念ながら、南方向への護衛依頼は見当たりませんね」
「あー……やっぱしか」
「次の街までは雇う必要がありませんからね」
フルーク王国・フリューゲルの冒険者ギルドは、初心者に熱烈な人気がある。
冒険者を始めるならフリューゲルから――とまで言われている、らしいほどに。
人口50万人を超える世界有数の都市であり、依頼の数はそれに応じて凄まじい数に上る。
だが、そのほとんどが低ランク――日常雑務や店の臨時手伝いで占められているのだ。
もはや冒険者の仕事でないと言えよう。
その理由は、王都の治安の良さにある。
近辺に魔物はいないし、出たとしても討伐は軍や騎士団の仕事だ。護衛もまた然り。
ということで、フリューゲルは中級以上の冒険者にとっては用の無い場所なのだった。
「今日は王都観光でいいか」
「妾は構わんぞ。人に酔いそうじゃがなっ」
「では、まずは王城でも見に行きますか?」
「お、いいねっ」
この世界はどちらかというと西洋文化に近いので、西洋系の城を期待していいはずだ。
「お……?」
ギルドを出て王城方向へと歩いていると、知った顔と再会した。
英雄の子孫アッシュと、そのパーティーの面々だ。
「――アカシとリーンか」
「久しぶり……久しぶり、なのかな?」
自問する。1ヶ月というと夏休みくらいだ。
元の世界でなら間違いなく久しぶりだが、こっちの世界の場合ではついこの間というような感じもする。
「ま、久しぶりでいいだろーよ。低ランクのときは色々慌ただしいしな」
「ああ、確かに」
低ランクの依頼は簡単だが、報酬が低い。
生活するには数をこなさなければならない。バイト掛け持ち状態に似ている。
そんなわけで、大変は大変なのだ。
「ほああ……リーンさん、相変わらずお美しいっ……!」
雑音がした。
「あれ……? そっち、5人パーティーじゃなかったですか?」
ティナ――だったか。金髪碧眼の少女がいない。
そう思って口に出すと、アッシュたちの表情が暗くなった。
「え……まさか」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと生きてるわよ」
眼鏡美人のルシールさんが慌てたように手を振る。
「そ、そうですか。それはよかった……のかな?」
死んでいるわけじゃないらしく、それはよかったのだが、明らかに雰囲気が重い。
「そちらはメンバーが増えたのか?」
「ああ、旅仲間ってことで」
「エイヴじゃ。冒険者ではない。不本意ながら……年齢制限に引っかかってしまってのう」
ノルデンで登録しようとしたのだが、ダメだった。
1000年生きてるといっても封印の中であり、精神は老成していても肉体年齢は11なのだから仕方がない。
ちなみに、年齢制限といってもそのチェックはかなり大雑把だ。早い話が目視。受付の経験に頼っている。
年齢を知ることができるスキルや魔具もあるらしいが、それを有しているかはギルド次第だし、そもそもそういうチェックが入ればエイヴは文句なしで弾かれるだろう。
――スキルや魔具が魂の年齢を測定するなら、ワンチャンあるかもしれないが。
「ふむふむ、エイヴちゃんかー……将来性は抜群と見た。是非ともハーレムに……いや……今誘うのはさすがに……犯罪か? だが……うーん……」
コレッタだったか、相変わらずなようだ。
だが、前にあったときよりテンションは低い――放置推奨は変わらないけども。
「こっちはこのパーティーのリーダーのアッシュだ」
「アッシュという」
アッシュは小さく礼をした。
相変わらずイケメンな態度である。
「そちらの2人とは一度、合同で仕事をしたことがある」
『――彼が英雄様の子孫です』
追加説明のリーンの声が頭に響く。
「ほうほう、例の!」
エイヴは興味深そうにアッシュを見る。
「ふむ……むむむ……髪と目以外はあまり似てはおらんのうっ」
「そうですね。面影はありますが」
1000年経ってる上に、こっちの世界の人との混血だからな。もうほとんど別物だろう。
むしろ黒髪黒目という特徴が――この世界でも珍しいわけではないが――しっかり残っている方が驚きだ。
「じゃが安心するがいいぞ、アッシュ。お主の方が数段男前じゃ。奴の方が愛嬌はあったがのうっ。はっはっはっ」
「なあ、アッシュ。さっきからダレと比べられてんのよ?」
「……どうも、父のことを知っているらしい」
「へえ、そりゃまた世界は狭いって感じのハナシだな」
おー、うまく逃げたな。
顔だけじゃなく頭の回転もいいとは、さすが英雄の子孫……いや、英雄は日本人の一般ピープルだったんだから、そのへんはすでに本人の素養か。
「それで……ティナ、でしたっけ。どうしたんです?」
場所を変えることになり、俺たちは近くのオープンカフェに入った。
誰もが名所だと口にするのは何故か?
自分が引っかかってしまったから、でしょう。
アカシ様は誰かに聞かれたとき、どう答えるのでしょうね。




