幽霊屋敷にご訪問
エンデの領主が住んでいる屋敷は街の最奥にある。
山脈からの敵を堰き止める堤防であるかのように。事実そういう役割もあるのだろう。
「うーん……なかなか年季が入ってるな」
「ですね」
感想が一致する。
大きさ的には体育館2つ分ほどで、それは問題ない。
領主の威厳的にもそれくらいは必要だろう。
デザインも――様式とかよく知らないし、元の世界のそれは適用されないだろうが――悪くないと思う。
美しささえ感じるほどに。
なのに、古い。
柱も壁も窓も目立った損傷はなく、決してぼろいわけではないというのに、古いのだ。
なんというかこう、コウモリでも棲んでいそうというか。光を吸収しているというか。
そういう妖しい印象を伴う古さが、この領主の館にはある。
密室殺人が起こりそうな予感。というのは冗談ながら、あながち間違ってもいない気がする。
「んで、どうするんだ?」
領主というからには、館の主はもちろん貴族だ。ザ・VIP。
そんなわけで物々しいとまではいかないまでも、入り口にはきっちり門が設けられて、門番も立っている。
翼竜を狩れるという領主に武力行使は愚かしいので厳重とまでは呼べない警備だが、それでもアポのない人間を通してくれたりはしないだろう。
「この辺りを適当にウロチョロして、待っていましょう」
「……は?」
「そうすれば、向こうから招待してくれるはずです」
「なに? ナンパ待ちってこと?」
俺には提案すべき方策もないので、とりあえず言われた通りに。
それは策略なのか偶然なのか。天使の魅力なのか女神の加護なのか。
ウロチョロを始めて1時間ほどで、本当に。
「領主様がお会いになるそうです」
怪訝な顔をしつつも門番が俺たちを呼びに来たのだった。
* * *
館の中はお化け屋敷でした。いや、けっこうマジに。
何がそう言う雰囲気を醸し出しているのかというと、館で働いているお方だ。
『こちらへどうぞ』
ガチャン、ガチャン。出迎えてくれた彼か彼女かが歩くたびにそんな重々しい音が響く。
「……つかぬ事をお聞きしますが」
『はい、何でございましょう』
「中身はご在宅ですか?」
『いえ、私リビング・アーマーでございますので』
うん、そうだと思った。兜の中、赤紫色の目が光ってるだけでスッカラカンだったからね。
ってなわけでここは雰囲気どころかモロ。リアル幽霊屋敷だった。
「……やっぱあれって魔法なわけ?」
「ええ。非実体系の使い魔を呼び出し憑依させているのでしょう」
マスター以外にも応答をしているため、そう判断できるらしい。
ゴースト系の魔物が憑依している場合もあり、それは当然というか魔物扱いになる。
それにしても、翼竜だとかの魔物はともかく、体を持たない連中はどうやって存在しているのだろうか。
現代人の俺にはその辺り、まったくもって理解できないし解析もできない。
ま、考えるだけ無駄というものか。
「ところで、領主様とあなた以外に住んでる人いるんですか? さっきからぜんぜん人見ないし気配しないんですけど……」
『ここには領主様、私のマスター、それにあとお二方が滞在されています』
この広さに4人だけとか。そんなんじゃ部屋余りすぎるだろうに――。
階段を登り、その先にある部屋の前でリビング・アーマーさんが立ち止まった。
『どうぞお入り下さい。領主様がお待ちです』
リビング・アーマーさんはギギギッと耳障りな金属音を立てつつも恭しく一礼。
中の人物に許可を受けてから、執務室のドアを開いた。
* * *
「お初にお目にかかる。私はエンデの領主を務めるユルキナという」
エンデの領主は紫髪に黒褐色の肌を持つ――美人さんだった。
耳が長く尖っているので、どうやらエルフ……それもおそらくはダークエルフだと思われる。
「えー……俺はアカシといいます」
リーンに目配せされたので俺から名乗った。
「その従者のリーンと申します」
「正直言って、私もこの事態をよく理解していない。できれば、説明をしてもらえると助かるのだが」
ダークエルフ領主の緑色の瞳は、リーンに向けられていた。
「では、とりあえず確認を。あなたが今代の守護で間違いありませんか?」
「……そうだ」
領主は首肯したものの、むしろ剣呑な雰囲気を高める。
それを気にした様子はリーンにはないが。
「見たところ天使の眷属のようだが……何故それを知っている?」
「私は眷属ではなく、天使ですから」
「な、なんだとっ……!?」
領主の顔にはっきりした敵意が浮かぶも、リーンは構わずに続けた。
「そして、こちらのアカイシアカシ様は今代の英雄様です」
「は――……?」
それは全くの予想外だったのか、領主はポカーンとなった。
ししおどしでもあれば、カコーンと響いてきそうな雰囲気だ。
「もう一度言いましょうか? ――こちらのアカイシアカシ様は今代の英雄様です」
「ちょ、っと、ま、待て」
ユルキナさんは目の間を揉みほぐす。
「どういうことだ、天使が英雄様を連れているだって?」
「実は――」
女神様の勘違いにより云々。女神様の思い違いにより云々。女神様の不手際により云々。
かくかくしかじかなリーンの説明はまとまってはいたが、自分の黒い計略についてはすっぱり切っていた。
「結果、こうしてアカシ様と地上で行動することになったためにご挨拶を、と思いまして」
「そ、そうか……事情は……まあ、なんとか把握した」
「では、拝顔させていただけますか?」
「そう仰せつかっている。案内しよう」
どうやら、リーンの目的は領主ではないようだ。
なら……誰だろうか?
そもそも地上にリーンの知り合いがいるというのが不自然だ。
となると、天界にいて知り合える者に限られる。
さらに領主がその相手を敬っている節があり、領主はその守護をしている、と。
「――こっちだ」
ユルキナさんが壁に手を押し当てた。
すると、書棚がゴゴゴッと動き出す。
「おおっ、隠し扉っ……!?」
ロマンに満ちた仕掛けが隠していたのは、地下へと続く階段だった。




