帰還と昇格
「リベンジだっ」
ということで翌朝も引き続き、宝石採取に勤しむ。
露骨な外れを引かなくなった――が、今度はこれだと思う石自体が見つからなくなった。
まあ、当たり前の話だ。
バケツ一杯を選り分けて1カラット。せいぜいそんなもんだろう、本来は。
そう考えてみると昨日の俺の成果もそんなに悪くない気がしてくる。
リーンが異常なだけだ。
「コツとかあんの?」
「そうですね……では、当たりと外れを手のひらに載せて、じ~っと見てみて下さい。違いがわかるはずです」
高価な石と普通の石を見比べてみる。3分くらい。
「なるほど……わからん」
「まあ……そうだろうとは思いました。魔石は言うに及ばず、宝石類は魔力に馴染みやすいのが特徴なのですが……」
「魔力を持ってない、魔力を操れない俺はその違いが判別できないと?」
「そうなります。地道に視覚のみで判別していくしかないでしょう」
リーンはそう言いながらザルに平らに広げた小石の中から1つを摘んで確保。
残りを選別済みの小山に捨てると、ザルの上に新しく石を広げた。
数秒と経たずに全てを小山行きにして、またシャベルで石をザルに入れる。
今度は2つの石を確保した。以下略。
昨日は夢中で拾っていたのでリーンがどんなふうに採取していたかよく見ていなかったが……これは反則ではないか?
理論的には、石に軽く魔力をぶつけるか纏わせるかして、その反応を見ているといったところだろう。
たぶん魔力を持っているなら誰でも可能な方法なのだと思う。その異常なペースを除けば。
「俺が頼れるのは視覚だけ……か」
数でリーンに敵わないことは明らかだ。
ならば、俺が目指すべきは質……というより、大きさだろう。
宝石たるもの、大きさと値段は指数関数的な関係を見せるはず。
1カラットを10個より、10カラットを1個の方が高いのだ。
結論から言うと――大きさでも負けました。
同じ場所を掘り続けていたリーンが、深さ1メートルほどのところで見つけたのだ。
握り拳よりもでかい宝石を。
「ウソだ。サギだ。お詫びして訂正しろぃっ!」
「最初からこれを目指して掘っていたので必然です」
と、こともなげに言ってくれちゃったりもした。ちくせう。
「それ、売ったらいくらになるんだろーな……」
「これは売りませんよ」
「まあ他ので依頼は十分達成できると思うけど……どうするわけ?」
「魔具を作ってみようかと思っています」
「天界暮らしだったくせに……どこでそんなスキルを」
「知識や技術は全て天界で入手可能ですので」
「いやいや、知ってればできるってもんじゃないだろ?」
「そうですか?」
天使が首を傾げる。
知っていること、思い浮かんだことは、自分の手で実現可能だと言いたげだ。
く、この廃スペック天使め……。
「目標も達成したということで、ノルデンに戻りますか?」
「うーむ……」
悔しさは多分に残っているが……。
「それとも奥に進みますか?」
「それはない!」
隠密行動なら行けなくもないが、そもそもメリットに欠ける。
目的に魔物の素材を選ばなかったのは、必要以上に目立ちたくないという理由もあるのだ。
――怖いからとか宝石が掘ってみたいからという理由だけではない。断じてない。
「私としましては、成龍も見てみたいのですが」
「天界で見たんじゃないの?」
「映像だと迫力に欠けます。やはり翼竜のように直に見ないと」
「……却下っ。断固として却下っ」
成龍に探知やら隠蔽が効かないなら戦闘必至。
倒してもどこかで復活するみたいだし、遭いに行く意味はまるでない。
「仕方ありません、それはまたの機会にしましょう」
「そんな機会はいらんずらっ」
「ずら?」
「方言的な何かだ。そんなわけで帰るべっ!」
行きはよいよい帰りは怖い。帰るまでが遠足。
などという格言があるものの、帰りは楽なものだった。
道程のほとんどをリーンの飛行魔法で走破したからだ。
* * *
「――では、こちらのゼーレ商会からの依頼も達成ですね」
依頼主のサインが入った依頼達成書を確認した受付嬢が、報酬の金貨1枚――10万リーフを卓上に置く。
今朝から5回繰り返された光景だ。
自分で集めた量だけで5回の依頼達成ができたので、プライドは維持された、かもしれない。
コリドーア山脈で採れた宝石は主に翠玉と紅玉だった。
元の世界でそれらが同じ場所で採れたかは不明だが、そもそも宝石のでき方そのものが違うような印象がある。
危険地帯ほど大きな宝石が採れるとか――まあ深く気にしても答えは出ないだろうが。
ちなみに依頼は『一定の大きさ以上の宝石(原石)を求む』という形なので必ずしもコリドーア山脈で採ってくる必要はない。
故に依頼達成は金で買える。
商品の宝石や魔具と原石の値は5倍は違うため、そんなことをするメリットはあまりないが。
ランクという箔を付けるために大赤字前提で――ということがあるくらいだろう。
「同時に5回連続の依頼達成となり、アカシ様・リーン様及びパーティー『シエスタ』はBランクに昇格となります。カードをこちらへ――」
指示に従い、カードの更新をしてもらった。
「それにしても驚きました。1ヶ月とかからずBランクに上がってしまうなんて――」
「……そんなに珍しいことですか?」
苦労したといえば苦労したのだが、少なくともDランクまでの依頼で詰まるというほどの難易度はなかった。
5~6人でパーティーを組んでいれば、Cランクには余裕で昇格できるだろう。
護衛依頼も毎度襲撃があるわけではないだろうし、場所によってはCランクの討伐依頼だってあるはずで、ちょろっと実力があればBくらいまではすぐという気がする。
「レベル0の時点で中級冒険者相当の能力をお持ちでしたから、不思議というほどではありませんが――」
うん、俺まだレベル0なんだけどね……。
「新規登録者は普通どこかで躓いたり、足踏みをしたりするものですよ」
Dランク・Cランクの依頼で出遭ったり戦うことになる魔物はそう容易い相手ではないからだという。
森にいた魔物――蜘蛛型やら狼型の群れはCランク。野生の熊はDランク。
俺には<眠りあれ>があるから余裕だったが――本当だよ?――確かに同ランクの冒険者なら苦戦してもおかしくはない。
そして、その辺りの相手に安定的に対処できるかどうかが分水嶺であり、そこに至るためレベル上げやら訓練を行うのが一般的らしい。
そりゃそうだ。
安定して倒せる魔物をレベルが上がりにくくなるまで倒しまくり、次の街へ。
RPGではだいたいそんな感じだ。
ゲームでもそうなのだから、命がけの現実ではより慎重であるべきはず。
なのに何故に俺はコリドーア山脈などという危険地帯へ行ってしまったのか。魔が差したというか、天が差したというか……。
「飛ばしすぎた気もしますし、そろそろ腰を落ち着けてレベル上げをしようかと思います」
なんせ、俺はまだ1体も魔物を殺せていない。
いい加減なんとかしておかないと、いざというときに不安だ。
リーンさまさまがいるから、その『いざ』が来るかはまったくの不透明だが。
ちなみに、本当に蛇足ではあるのだが、後に知り得た悲しい情報をここに記しておく。
それは、宝石探しについて。
宝石探しをするだけなら、実はコリドーア山脈へ行く必要はまったくなかったのだ。
港町ノルデンは遠く北東の山脈から流れてきたレンゲル川を中心に発展した街である。
もう一度言おう。
港町ノルデンは遠く北東の山脈から流れてきたレンゲル川を中心に発展した街である。
お分かりいただけただろうか。
わからない方――主に俺とか俺とか俺とか――のために宝石の豆知識も追加しよう。
宝石の原石は川や海岸に運ばれる砂や土に混じって産出することも多い。
元の世界の原理が当てはまらりきらないとはいえ、産地から流れてくる川があるのだ。
つまり。
川の傍にて、宝石を探そう的な事業が国の管轄にて行われていたのだ。
山脈で直に探すより発見は難しいし見つかる原石も小さいものが多いが、ロマン的シチュエーション的にはむしろ好ましいだろう。
リーンに聞けば、どうやら最初から知っていたようだ。
どころかノルデンの地場産業なので知らない者の方が少ないという。
――なるほど、川の上流へ向けて発展していくわけである。
情弱乙。という声が聞こえたとか聞こえなかったとか。




