方針転換
「さて、Cランクになったはいいが……」
俺とリーン――そして俺とリーンのパーティー<シエスタ>は順調にDランクの依頼をこなして、Cランクになっていた。
問題はCランクへの依頼の中心――『護衛』の多くに、条件がついていることだ。
5人以上というような、パーティーの人数に対する条件が。
依頼側からすれば、これは当然の話だと思われる。
数の暴力――じゃなくて、数は力なのだ。
人数が一桁ならば、数で劣る方が戦力的に不利になる。
5対4のバスケットボールなんて基本的に無理ゲーだし、11人のサッカーくらいまではやはり相手より人数で劣るのは厳しい。
もちろん個々の能力で人数的不利を覆すことは可能だが、ギルドに仲介を依頼するクライアントがパーティーメンバー個々の正確な力量を把握できるはずがないのだ。
レベルという判断要素もあるが、Cランクくらいでレベルがそう大きく変わるはずもない。
レベルとランクというある程度の実績しかわからない以上、パーティーの戦力はその数で計るのがわかりやすい指針となる。
そして、パーティーメンバーの数は抑止力の大小に直結するのだ。
護衛対象が同じなら、護衛が多いほど襲われない。
それは当たり前の話で、襲われないならそれが一番だろう。
夜営時の見張りに割ける人数など諸々も考え合わせると、料金が同じなら雇う人数は多い方がいいに決まっているのだ。
少人数、ソロやコンビの冒険者への依頼もあるが、それは個人ランクがB以上とかレベル25以上のような条件がついている。
初めてのパーティーなので俺とリーンの個人ランクとパーティーランクは連動している。
そのため、そういった依頼を受けるには、Bランクへの昇格が必要だ。
レベルについては――……お察しの通りまだ0なので、論外だろう。
「うーむ……受けられる依頼が意外に少ないよな」
「危険なのは北東方向だけですから、依頼の絶対数が少ないようです」
西側は海で、南側は大草原及び王都方向。
海の魔物がどれくらいいるかは知らないが、護衛が必要なルートが限られている。
冒険者のボリュームゾーンがCランクであろうことも、原因のひとつだろうと考えられる。
Cランクで選り好みできるのは、クライアント側なのだ。
「パーティーメンバーを増やすか、ランクを上げるか――ですね」
「仲間はちょっとなー……」
「アカシ様の世界についての会話がなくなるとしたら論外です」
話さない方がいいようなことがそこそこあると思うし、確かに面倒だ。
「じゃあ、ランクを上げる方向か。ってなると、Bランクの依頼だけど……」
俺とリーンは掲示板の裏へと回る。
まあ、別に裏も表もないんだけど。要するにこれまであまり見ていなかったから裏側という認識だ。
「あらためて見ると……」
CとBが区切りで掲示板の裏表に分かれているのだが、黒板くらいの大きさの掲示板いっぱいに依頼用紙が張ってある。
Bランクより上は貴族や商人、武具店や魔具職人などからの期限無し――継続依頼が多い。
強力な魔物の素材、採掘場所に危険が多い宝石、危険地帯に生えている薬草などなどの収集。
だが、共通した危険度を差し引いても……。
「多いな」
「北東のコリドーア山脈は未開の地であり、魔物の巣窟。言ってしまえば素材の宝庫ですから」
「ほほう」
「そして、ここノルデンはフルーク王国北部最大の街です。より山脈に近い町もありますが、危険と隣り合わせですからどこも小規模ですね」
「なるほど、つまりコリドーア山脈での素材収集の依頼は、基本的にこの街のギルドに集まるってことか」
「そういうことだと思います」
それならこの依頼量も納得だ。
反面、依頼が減っていかないということはそれだけ引き受け手が少ない――難易度が高いのだろう。
ノルデンから見えるコリドーア山脈の姿はずいぶんと青い霞がかかっている。
近いといっても相対的なもので、実際の距離はかなりある。
例えるなら、富士の樹海を突っ切らなければ山に辿り着かないという感じか。
「ハイリスクハイリターンは……あんまり趣味じゃないなぁ」
冒険者になるとか言っておいてあれだが。
「リスクはないでしょう。私がいるのですから。そもそもアカシ様は死にませんし――」
「そりゃまあ、そうなんだけどさ……」
行くとしたら、あまりにもリーン頼りになる。
戦闘面はともかくとして、問題は荷物の運搬だ。
これはリーンの魔法がなかったら、はっきり言ってどうしようもない。
「コリドーア山脈に近いこの街にいる間に、Bランクを目指すのも悪くないのでは」
「そりゃBランクになれば、護衛依頼を受けやすくはなるだろうしな」
「一度コリドーア山脈に行けば、昇格できると思いますし――」
「1回で……? ああ……それもそうか」
素材の収集ならまとめて達成できるというわけだ。
当然だが、BランクやAランクの依頼全てが別々の素材を求めているわけではない。
依頼内容はかなり重複している。
その上、依頼達成に必要な量はどれも割と少なめだ。
もちろん依頼主が求めているのは高価で貴重な素材なので、超過分も全て引き取る旨が書かれている。
が、同じ依頼主に追加で提出するのではなく、別の依頼を受けて提出すれば――。
「うん、作戦としては悪くないな」
そもそも、<眠りあれ>は魔物を相手にする方が向いている気がするのだ。
護衛には、先制攻撃という概念が存在しないだろうから。
「ここはいっちょ、やってみっか……!」
――予定通り、といったところですね。
私ひとりで行ってもいいのですが、味気ないですし。




