コレッタと愉快な仲間たち
「な、なななな、なぁんとお美しいっ! ぜひ、ぜひっ、おれの未来のハーレムに――」
「ダマっとけ、コレッタ!」
ごすっと横から蹴り飛ばされ、ナンパ男がゴロゴロと転がっていく。
それが5人組パーティーとのファーストインパク……コンタクトだった。
「……やるな、リーン」
「何のことですか?」
「ああいうヤツには問答無用で電撃飛ばすのかと……」
「私を何だと思っているのですか……仕事仲間なのですから、揉めないように善処はしますよ。体に触れようとしてきたらお見舞いしますが」
「さ、さいでっか」
言いながら、俺はリーンから一歩離れた。
が、その分リーンから近づいてくる。
「ご心配には及びません。この体はアカシ様に捧げた身。故、他者には触れさせないようにしているだけです」
「あ、そ」
「――騒がしくしてすまない。俺はアッシュ。このパーティーのリーダーをしている」
リーンとコソコソ話していると、冷静そうな雰囲気の男が前に出てきた。
年齢は20歳前後で、黒髪黒目。顔立ちも日本人っぽいが、俺との違いはドラマの主役を張れそうなレベルのイケメンだということだ。
身長も俺より5センチは高い。180くらいだろうか。
細身だが鍛えているのが素人の俺でもわかる。まあいわゆる細マッチョ体型というやつだ。
腰に剣を……って、あれ刀じゃないか?
「……こちらのリーダーはアカシ様ですよ」
「あ、俺は……ええと、アカシだ。よろしく。こっちは――」
「リーンです。短い間ですがよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
アッシュは小さく笑みを浮かべ、軽く頭を下げる。
性格も良さそう……というか、落ち着いている感じだ。
総じていい男というか、主人公系の男というか。
なんとなく……不公平感を感じてしまう。
「こちらもメンバーを紹介しよう」
「オレはデューイだ。あれだろっ? アンタら酒場で噂になってる2人組だろ?」
ナンパ男を蹴っ飛ばした長身でガタイのいい男がアッシュの隣に並んだ。
日本では見られない自然な茶髪にブルーの瞳。加えることに優男的な目鼻立ち。
女受けしそうだし、こっちはハリウッドでもやっていけるだろう。
なんだ、こっちの人間族・男はみんなこんななのか?
「えーと……噂って?」
「声をかけようとしたり、近づこうとすると、ビビビッときて動けなくなるってよ」
「感情に反応する結界系の魔法や魔具じゃないかって話ね」
眼鏡をかけた魔法使いっぽい美人さんが話に加わってくる。
ウェーブがかかった亜麻色の髪。瞳は黄緑色。デューイと親しげな雰囲気がある。
外国人系の顔の年齢はイマイチよくわからないが、リーダーのアッシュと同じかやや年下くらいだろう。
「あーあー、それおれも昨日聞いたよっ」
うお、なんか復活してきた。
確かコレッタ、と呼ばれていた気がする。
中肉中背。焦げ茶の髪。同じ色の瞳をした目はちょっと垂れ気味で……ああなんか普通で安心した。性格はともかく。
「隣にいたむさいおっさんがさ、『あれが一目惚れってやつかぁ』とか『次に会ったら求婚するんだぁ』とか言ってた」
「――それは本当ですか……?」
リーンが若干引いている。
「おうマジマジ。周りの連中に総ツッコミされてたから、ホントに申し込みにくるかは知らないけどなっ」
一目惚れは確かに電撃が脳天から貫きそうなイメージではあるが……。
「ああっ、そういえば自己紹介してるんだっけ? おれはコレッタ・ヘリモー。夢は金を稼いでハァァァァァレムッ、を作ることだ。よろしくぅっ」
コレッタはいい笑顔で犬歯を光らせビシッと親指を立てる。
「あ、ああ……夢を持つっていいことですよねー」
「おお、わかってくれるか、心の友よっ」
いやいやいや、なんでそうなるかなっ。
俺めっちゃ棒読みだったじゃないですか。
「阿呆は放っておいていいわよ。私はルシール。この子はティナよ」
「ティナです。よ、よろしくお願いします」
最後に、ショートカットの金髪美少女が頭を下げる。
緊張している様子ながら、どこか育ちの良さを感じさせる所作だった。
5人組のパーティー――チーム名はまだ未定。『コレッタと愉快な仲間たち』案は却下されたらしい――は、全員が普通の人間族だ。
まだ他種族に慣れていない俺としては、正直ありがたい。
……虎顔の人とかやっぱ怖いしな。
なんてことを言っていても、輸送船の乗員は獣人系の人も多く、あんまり意味はなかった。
* * *
「――ふんがっ……!」
と、俺は気合いを入れて、タルを持ち上げた。
「ほう、見かけによらずやるじゃねえか。兄ちゃん」
「いやー、自分でもけっこうびっくりしてるんですよね」
10キロの米袋くらいの重さしか感じないのだが、タルの実際の重さはその5~6倍。
どうやら、人間のレベル20相当の能力という測定は偽りではないらしい。
「でも、見かけによらないといえば、あっちでしょ」
「な、んだと……」
船員が戦慄したのは、リーンがタルをあっさりと持ち上げたからだ。
1.5リットルのペットボトルくらいの気軽さで。
リーンは身体能力を強化する補助魔法を常時使っているらしい。
言われてみると、昨日、俺の体を片手であっさりと持ち上げていたわけで。
せっかく力仕事を選んだというのにちくしょう。魔法は万能だというのか。
タルを馬車の荷台へ載せて、次に取りかかった。
ごと、ごと。ごと。
作業自体が単純なものだし、疲れもしないせいで、すぐに退屈になってきてしまう。
――えーと、アッシュさんだったっけな?
姿を探すと、彼も疲労している様子はなかった。
ちなみにデューイは見た目通り楽勝そうで、ルシールとティナは2人で1つずつを運んでいる。
一番疲弊しているのはどうやらコレッタのようだ。貧弱貧弱ぅ。
「……あのー、アッシュさん」
「アカシか。どうした?」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、余裕あります?」
「少し話すくらいは問題ないが」
揃ってタルを持ち上げる。
「それって、刀ですよね?」
俺はアッシュの腰にある反りのある細身の剣を目で示した。
「カタナ……そう、これはそう呼ばれているが――」
俺を見る彼の視線が鋭くなった。
「君はどうしてそれを知っている?」
「え……」
あれ、ちょっとした世間話のつもりだったんだけど。
「あの、知ってたらおかしいんですか?」
「俺の知る限りでは、<カタナ>と呼ばれる剣はこれだけだからな」
それだけ?
「ええっと……それって武器屋で買ったわけじゃ?」
「いや、これは家に古くから伝わっていた武器だ」
「そうなんですか……どこかで売っているなら欲しかったんですけど」
今は作られていないのか、製造方法が失われたのか……。
「売っているも何も、<カタナ>はこれだけだと言ったろう」
「え、えーと……それだけって言われても……その刀、作った人はいるんですよね?」
「――……<カタナ>を知っていて、作った人と言うのか。よくわからないな」
「アカシ様、アッシュ様。話が噛み合っていませんよ」
「へ? 噛み合ってないってどういうこと?」
「おそらくは、固有名詞と一般名詞の違いかと」
「んん?」
刀が固有名詞?
どこかの武器屋か鍛冶屋が作った武器に刀と名付けたということだろうか。
「アッシュ様の想定している『<カタナ>を知っている者』は、私の方でしょう」
「君も<カタナ>のことを?」
「直に見るのは初めてですが――」
リーンは興味深そうにアッシュの剣を見つめて、言った。
「それはかつて、1000年前に英雄様が使った神器<カタナ>――ですね?」
ま、まさかそのような勘違いを誘発させてしまうとは……。
…………。
アカシ様に声を掛けようとした男性を痺れさせれば……?




